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「・・・バンフィード、分かっててこの方をお守りしているんだな?」


 今度はリーベンさんがバンフィードさんに詰め寄り始めました。


「ええ、勿論です。今この国を救えるのはこの方だけだと、話を聞いた者皆がそう考えています。我々の考え付きもしない思考と行動力で、この方はもう既に多くの者達を救って下さっています。」


「・・・それは、何となく分かって来た。腑に落ちないことが多過ぎて、とにかく事情の全てを聞き出したいところだが。このお嬢様は曲者だ。」


 最後は溜息混じりになったリーベンさんがチラッとこちらに視線を寄越しましたが、知らんぷりでよそ見をしておこうと思います。


「レイカルディナ嬢。これだけは今の内に聞いておきたい。貴女が警戒している敵は? 王城魔法使いのミルチミット、王都で暗躍する魔王信者共、エダンミールの偽善者共、これで良いか?」


「あと殿下の政敵の人達も、この機会に手を出してくるようなら、敵認定ですね。」


 これが一番厄介な人達かもしれません。


 少なくとも誰がどうと全く把握出来ていないので、これだけは誰かに教えて貰いつつ対処もお願いしたいところです。


 そちらに都合よく社会的抹殺とか、絶対に許せませんからね。


「あー成る程な。何がどう繋がって転がっていくか分からないから、貴女は慎重になっている訳か。」


「そうなんです。私そっち方面は全くなので。」


 正直に返しておくと、リーベンさんは少し何か考えるような顔になってから、こちらに目を向けて来ました。


「そうか。レイカルディナ嬢は、あくまでもシルヴェイン王子殿下の婚約者としての立場を貫くということなんだな。」


「ん? いえ、まだ婚約者じゃないですし。そういう問題じゃなくて、殿下が今回の件の標的になったのは、そもそも標的として予定されていたレイナードさんと私が彼等の思惑を外して逃げたからで。殿下は元々身代わりになっただけなんですよ。だから、今回殿下に起こったことの全ては私に責任があるんです。絶対に、何とかしてみせます。」


 拳を握り締めて言い切ると、その手を向かいから伸びて来たバンフィードさんの手が包み込みました。


「レイカ様、お一人で抱え込む必要はありませんよ。気負い過ぎるのは良くありません。何の為に色々根回しして来たと思っているのです? 貴女は貴女にしか出来ないことを。それ以外はお任せを。」


「でも、クイズナー隊長も捕まったんですよ? 最悪のパターンも想定しておかないと。」


 シルヴェイン王子直轄の第二騎士団ナイザリークが不当に無力化されているのが、この王都に戻ってから何よりも衝撃的でした。


 政治汚いって思う一番の要素でしたが、だからこそシルヴェイン王子の所在を王弟殿下やリーベンさんに明かそうと決断出来た訳ですが。


「レイカ様、クイズナー殿や第二騎士団ナイザリークの件は確かに残念でしたが、貴族には貴族の戦い方があります。だから心配しなくても大丈夫ですよ。まだまだ隠しゴマは幾らでもあります。」


 バンフィードさんから出たこの発言にはちょっと驚いてしまいましたが、そういえばこの人、生粋の貴族で伯爵家の人でしたね。


 何度も言いますが、普段の言動が残念過ぎて、埋没しがちになってしまってますが。


「はい。大変頼もしいお言葉ですが、そろそろ手、離して貰えます?」


「・・・では、思い詰めるのはやめて、いつも通り伸び伸びとお好きに動いて下さいますね?」


 残念そうに一度離しかけた手をドサクサで握り直してくるバンフィードさん、台詞と言動の食い違いが残念過ぎます。


「まあこれからも、やるべきことをやるべきタイミングでぶち上げて行く予定ですけど。手、離して下さいって。」


 そうもう一度はっきりと言い切ったところで暖簾が割れました。


「レイカ、無事だったか?」


 入って来ながらそう声を掛けてくれたのは、テンフラム王子です。


「はい、何とか?」


 取り敢えずそう答えておくと、その後ろからライアットさんとケインズさんが入って来ました。


「3階からジャックを頼りに飛び降りたんだって? 良くやるよ。」


 この呆れた言葉はライアットさんからですね。


「第三騎士団の人達が協力的で驚いたけど、出発前に殿下とレイカさんが営所で被害者を解呪してて、不穏な気配を察知してたって聞いたよ。」


 ケインズさんも悩ましげな様子で話し始めました。


「そうなんですよね。この20日足らずで、よくもまあやってくれましたよね。」


 思い出すと腹立たしさが募りますが、その前にさっさと済ませるべきご紹介がありました。


「あ、皆さんにご紹介しときますね。あちら第一騎士団時代のバンフィードさんの上司さんで、王弟殿下からの指示でこちらに接触して来られたリーベン副隊長さんです。」


 そのご紹介文句と制服姿に入って来た3人が見事に固まりました。


 と暖簾が再び割れて、ミンジャーの唐揚げの盛られた大皿と指にエールの取手を引っ掛けたヒーリックさんが入って来ました。


「ん?どうした? お嬢さん、エールとミンジャーな。第一のお偉いさん、エールお口に合うと良いんですが。」


「ああ、お気遣いなく。第一騎士団副隊長のリーベンという。暴れ熊のヒーリックは、私でも聞いたことがあるな。レイカルディナ嬢が完全に平民に下った君と関わりがあったとは。盲点だったな。」


 そんな微妙に怖いやり取りがあったところで、3人が解凍されたようです。


「レイカさん、大丈夫なの?」


 真剣な表情でケインズさんに問われて、肩を竦めてみせます。


「王弟殿下と取り引きしました。殿下の無実の証明は勿論しなければいけませんけど、一先ずこの人なら悪いようにしないだろうと。会わせるだけ会わせると約束しました。」


「・・・さて、信用出来るのやら。だが、本人があの状態では、他に手はないだろうな。一先ず守護の要の応急処置が済むまで目を瞑ってくれるなら、悪くない取り引きだ。」


 テンフラム王子がそう評してくれて少しホッとするような気がしました。


「そちらの3人の身元は聞かない方が良いんだろうか?」


 リーベンさんに言われて苦い顔になってしまいます。


「えっと、詳しくは割愛で。今回の旅の護衛をしてくれた方達です。ライアットさん、ケインズさん、テンさんです。」


 流石にテンフラム王子の名前は晒せません。


「そういえば、王城魔法使いの弟君が同行していたと聞いていたが、彼はもうランバスティス伯爵家のほうに帰られたのか?」


 リーベンさんにふいと聞かれて、目を瞬かせます。


「あ、帰還手段を知られた訳じゃなかったんですね。今日帰って来たのは先発した人達だけで、コルステアくん達は3日後に王都に着く予定ですよ?」


「そうか。実は王都の門に探知魔法が仕込まれててな。レイカルディナ嬢の魔力を感知したら帰還を知らせるようになっていた。」


 確かにそれくらいされていても不思議はなかったでしょう。


「王城に真っ直ぐ向かってくれていれば、誰にも邪魔されることなく王弟殿下の元へ通されるように手筈が整っていたのだ。それを、貴女が寄り道されるから各所で網を張ることになったのだ。」


「リーベンさんもその一つだったんですか?」


 これには、リーベンさんは苦い顔で小さく首を傾げる仕草をしました。


「いや、本当のことを言うと、私はその作戦に他の隊を当てるからという理由で、守護の要の警護に回されたフリで、王弟殿下から守護の要に王城魔法使いを寄せ付けないように見張りをと密命を受けていた。」


「そこに私達が現れたから、実は慌てました?」


 何となく申し訳なくなってそう挟むと、苦笑が返って来ました。


「大慌てでこっそり殿下に連絡を飛ばして、あの昼食会の運びになった。」


 頭を掻くふりをしつつ、こちらも苦笑いするしかありませんでした。

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