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 ゲホッゲホッ。


 咳込みながら、唐突に目が覚めた。


 焦げ臭い匂いとずぶ濡れの全身。


 目の前に立つ広い背中からは、陽炎のように身の回りを踊るように包み込む温かな光が見える。


「綺麗だなぁ。」


 ポツリと呟いた途端、くるりと振り向いたそのお顔は、般若のようでした。


「貴様! 独居房に入りたかったのか?」


 それはそれは低い、地を這うような声は、般若さんのお顔から漏れてくると、迫力満点でした。


「ええと・・・」


 言葉を探しますが、取り敢えず、状況が読めませんね。


 さり気なく般若さんから目を逸らしてみようと思います。


 が、次の瞬間には胸ぐらをガシッと掴み上げられてました。


 てゆうかこれ、息が詰まりますよ?


 苦しいですからね!


 バタバタと抵抗した結果、ちょびっとだけ掴む力を緩めて貰えたみたいです。


 ふらつく膝を叱咤して、地面に両足を踏ん張ったお陰で、体勢が大分楽になりました。


 てか、倒れてたのに、意識飛んでたのに、目覚めた途端これって、酷くないですか?


 流石ドSキャラです。


 遠くから見てるだけならそういうキャラも面白いですけど、身近な上司には、はっきり言って要りませんから!


 という訳で、胸ぐら軽く掴まれたまま現状把握をしてみた結果、雨の止んだ結界の柱の内側の演習場には、お日様の光を受けて綺麗な虹が掛かっていました。


 頑張って作った小さな小さな雨雲はいつの間にか霧散していて、ただ、名残りのように足元にはしっかりと水溜りが出来ています。


 何だかやり切った感満載なんですが、目の前の人は物凄い顔のままです。


 見るの怖いから自粛してますけどね。


「貴様の舐め切った脳みそには、上司で上役で君主家の私が貴様の尻拭いをしてやった事が、理解出来ていないらしいな。」


 あれ、まだおどろおどろしい声音なのは、何故でしょうか。


 これ、可愛らしく笑ってコテンてしたら、マジで殺されるやつですね。


 そこは自粛して、目を瞬かせつつ直立不動で行きましょう。


 まあ、膝は全身疲労の所為でガクガクなんですけどね。


「あれ、ミニチュア、可愛らしい雷雲はどうしたんですか? 殿下が華麗に吹き飛ばしたとか? 落っこちて来た雷の方は?」


 何を言ってもどうせ怒らせるなら、地雷の上に胡座描いてでも、知りたい事は聞くべきでしょう。


 さあ、来い! 爆風! とか思ってたのに、何故か王子様、掴んでたレイナードの襟首を離して、脱力気味に頭を抱えてます。


 そして、下を向いたそのお口から漏れる低〜い声は、呪詛のようです。


「貴様は・・・都合が悪くなったら、全部忘れるのか!」


 最後は耳がキンとするような叫びに変わってました。


「自分の事も親の事も! 国も身分も務めも? どれだけ都合が良いんだ! ふざけるな!」


 流石に、王子様ブチ切れちゃったみたいですね。


 でも、たまに唾飛ばすの止めて欲しいです。


「はあ。思い出せないものは、仕方なくないですか?」


 こちらも正直に垂れ流しておく事にします。


 言いたい事は、言いたい時に言っとくべきなんですよ。


 あちらも頭に血が昇ってらっしゃるみたいなので、冷静になった時に、相殺ってことになりそうじゃないですか。


 右手に拳を握り締めた王子様ですが、深呼吸して気持ちを抑えたようです。


 偉いですね。


 そこは、流石王子様です。


「貴様の左手に握ったそれは何だ。」


 刺々しい上に苦々しい口調で王子様に言われて、違和感なく握り込んでいた左手を前に持って来て開いてみました。


 さり気なく王子様が手元を覗き込んでいる視線を感じます。


「レイナード、これは何だ?」


 真面目な詰問口調になった王子様に、冷や汗です。


 そう言えば倒れる前、女性化した超美人なレイナードさんが雷を左手に受け止めて握り込んでた気がします。


 左手の平の真ん中には、ちょっと大きめのピンポン球、卓球の球より一回り小さいくらいの球体が乗っています。


 球の膜内でキラキラと金色の液体が揺蕩うような。


 でも、力を込めて握り込んでもびくともしない程硬く、ちょっと揺すっても液体が動いている訳ではないようです。


 どちらかと言うと、金色の炎がゆらゆら揺らいでいるような感じでしょうか。


「・・・何でしょうか。」


 もう、こう答えるしかありません。


 雷の電流を取り込んだなら、蓄電池ってところでしょうか。


 でも、取り出して放電出来るんでしょうか。


 ていうか、どうやって?


 そこは、やっぱり魔法ですか?


 この世界の魔法、かなり無敵感があるんですが。


 ここまで使えちゃっていいんでしょうか。


 またもや額に手を当てて痛い顔になっている王子様。


 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ可哀想な気持ちになってしまいました。

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