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3

 ツンと鼻に付く臭いが漂って来る。


 不快感に軽く身じろぎした途端に、ピキッと背中に痛みが走って、慌てて体勢を戻す。


「あれ? レイナードくん起きた〜?」


 語尾の緩い低めの声が聞こえて、パチリと目が覚める。


 呼び掛けられた名前に、目が覚めてもダメ男とお別れ出来ていなかった事にガッカリする。


 涙目になりながら、ここで生き抜く最善について考えることにする。


 この予備知識の無さで、このダメ男のまま生き抜くのは正直言って絶対に無理だ。


 と言って、正直にこの人の身体乗っ取っちゃいました〜、とか言って酷い目に遭うのも避けたい。


 となったら、ここはもうベタでも死語でも一昔前と言われても、あれで行くしかない。


「だれ? ん? 何処ここ? つかあれ〜、あたた、あったま痛っ!」


 頭を抱えて身体を丸め掛けて、またピキッと来た痛みに涙目で体勢を戻す。


「どしたの? 喧嘩した時頭でも打ったの〜?」


 また緩い感じの問いが来て、ゴツい手が視界に入る。


 おでこを触ってから、頭をそっと撫でるその手は慎重だ。


「う〜ん。診た感じ頭を直接打った打撃痕はないんだけどね〜。殴られり蹴られたりしたショックかしらねぇ〜。」


 触っただけで、打ってないか分かるもの?


 疑問に思いながら、その手の先を辿って行くと、白衣の長髪のばっちり化粧おじさんと目が合った。


 衝撃で固まっていると、ふっと笑い掛けて来たおじさんに、眩暈がしそうな気がした。


 遠くから見たら、金髪のちょっと化粧濃い系美人のお姉さんに見えなくもないかもしれない。


「あら、マジマジと見ちゃって照れるわ〜。んーでも。レイナードくんとはお初じゃないから、ホントに記憶飛んじゃってるのかしらねぇ。」


 我に返って、ぎこちなく視線を逸らしてみる。


「それでぇ? 何があったか話してくれる?」


 だから、記憶が飛んでたら、何があったか話せないよね?


 とツッコミをを入れつつ、何処まで分からないフリをしたら不自然じゃないか考えてみる。


 そもそもこの世界の全てがまるっと分からないから、何もかも思い出せませんって言うのが、妥当なところだろう。


 ただ、完全な記憶喪失でも、身に染みついた習慣というのは自然と出てくるものだ。


 例えば、食事の食べ方とか嗜好の中身とか、歩き方や仕草もそうだろう。


 それを、ダメ男くんの身体から違和感なく引き出せる自信はないかもしれない。


「分からない。」


 もう、胡散臭かろうが無理矢理だろうが、これで全て通すしかない。


 心の病なんですよ。


 きっと従者に捨てられたのがショックだったところに、集団暴行に遭ったんですから、それくらいあるでしょ。


 内心の葛藤を隠して、淡々とそれを繰り返すことにする。


「んー。じゃ、君の名前は?ってとこから始める〜?」


 ここは、一生懸命眉間に皺寄せて目一杯間をあけてからの。


「分からない。」


「ふうん。あ、そう言えばさぁ。あんたのお父さん、横領で失脚寸前だって知ってた?」


 少し口調を変えたおじさんが言ってくる言葉に、これは違和感なくこてんと首を傾げる。


 へぇー、ダメ男の父親もダメでしたかぁ。


「ん〜。演技じゃないかぁ。」


 何か試されたのか、おじさんの顔が少しだけ真剣になる。


「あんた可哀想に、実は愛人の子だったんだってね?」


 これは明らか気の毒そうに作った顔で言われて、目を瞬かせる。


「う〜ん。怒らないわねぇ。あらやだ、この子ホントにマズイかも。ちょっと待っててくれる? 隊長さん呼んで来るわね。」


 おじさん先生は少し焦った顔になって、慌てて部屋を出て行った。

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