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「レイさんとお連れの人、こっちです。裏の宿舎の方から出られますから付いて来て。」


 爆走して門に向かっていたこちらに建物の影から出て来て手招きするのはイヴァンさんです。


 足を緩めてこちらを覗き込むバンフィードさんに頷き返します。


「多分大丈夫です。」


 何とか返したところで方向転換しますが、横目で見た門の側には第一騎士団の制服の騎士さんが見えた気がします。


 そのまま建物の影から様子を窺いながらこそっと進んだ宿舎裏の通用門の辺りで、他にも人が待っているのが見えて、バンフィードさんが警戒するように足を止めました。


「大丈夫です。あの2人はこの前レイさんに死の呪いを解呪して貰って何とか恩返ししたいと思ってた人達ですから。」


 目を凝らしてみると、確かに1人はイヴァンさんの先輩のテュールズさんで、初めに呪詛に気付いた人です。


 もう1人はあの時本当に死に掛けていた人で、マーシーズさんの隊のザクリスさんですね。


 2人ともお元気になって良かったですが、手を貸して貰って大丈夫でしょうか?


「あの、こんなことして、後で怒られたり罰されたりしませんか?」


 ついそう問い掛けてしまうと、揃ってにこりと微笑み返されました。


「何を言ってるんですか? 俺達あの時あなたが助けて下さらなければあのまま死ぬところだったんですよ?」


 丁寧に言って強い感謝の目を向けてくれる2人に、照れ臭くなってしまいます。


 てゆうか、この体勢かなり恥ずかしいですね。


「バンさんもう大丈夫ですから降ろして下さい。」


「いえ。折角同志に巡り会えましたが、話すのは後にしましょう。このままとにかくここを出ましょう。」


 同志って、と突っ込みたいところでしたが、一先ず流して、早くここを離れた方が良いのは間違いありません。


 こちらに頷き返して来た3人と共に裏口を出て街に入ります。


 街の中はやはり混沌としていて、紛れ込むのに苦労はしませんでしたが、これから一先ず何処に向かうかは考えどころですね。


「実は、あれからテュールズさんとザクリスさんを中心に、団長にレイさんの事を何者なのか教えて欲しいって食い下がったんです。」


 何故と思いましたが、改めてお礼の一つも言ってくれるつもりだったのでしょう。


 義理堅い人達です。


「結果極秘だと言われて教えて貰えなかったんですけど。数日前にそれぞれコソッと呼び出されて、もしもレイさんが営所を訪ねて来て何か手助けを必要としていたら、隊を一時的に離れてレイさんに付いて行くかって聞かれたんです。」


 ルーディック団長、ブライン団長の話しをかなり間に受けて備えてくれていたようですね。


「でも、イヴァンさんまで良かったんですか?」


 バンフィードさんに抱えられながらと、かなり恥ずかしい体勢のまま会話は続きます。


「はい。俺は、ハザインバースの時助けて貰ってますから。それにしても、団長室からよく第一の連中躱して逃げて来れましたね。」


「あー、うん。まあそうですね。」


 あの落下現場は目撃されていなかったようで、何となくホッとします。


 にへらと笑いつつ答えていると、イヴァンさんが改めてというようにこちらにじっと視線を向けて来ます。


「あの、レイさんは。本当は女性なんですよね? ハザインバースの時もこの前も変装魔法使ってたとか?」


 その問いにはどうしようかとバンフィードさんを見上げてしまいました。


「詮索は控えて下さい。今のレイ様はか弱い女性だとそれだけ分かっていれば十分では?」


 答えてくれたバンフィードさんですが、か弱いは余分かもしれません。


「そうですよね? 実は、前来た時に王子殿下が物凄くこう大事にしてる風だったから、王子殿下にあらぬ噂が広がりかけて。だから、まあホッとしたというか、でもホッと出来ない状況ですよね? 俺達第三の人間は、殿下が王都の事件の黒幕だっていう噂、信じてませんけど。第一の連中は決め付けてて、殿下の関係者を次々更迭してるって聞いてるので。」


 確かに、一国の王子が王都の治安を揺るがす犯罪者疑惑となれば大事件でしょうが、真相を知る身としては、これを過剰に煽って政治利用しようとする人間は許せないと思ってしまいます。


 ある意味、レイナードが犯人にされた時よりも大事になって王都のダメージは大きいんじゃないでしょうか。


 つまりエダンミールにとってはますます都合が良いという事です。


「腹立つなぁ、もう。」


 つい口をついてそんな言葉が出て来てしまいました。


「今だけでしょう? 全てが明らかになった時、皆が貴女の前に平伏すことになるでしょうから、それまでどうか堪えて。」


 そんな物凄く寒い台詞が聞こえてギョッとしてバンフィードさんを見返してしまいます。


「ちょっと! 何怖いこと言ってるんですか? やめて下さいよバンさん。引くなぁもう。間違ってもそんな未来要りませんからね? しっかりして下さいよ?」


 ついそんな力の込もった反論をしてしまいましたが、この方ちょっと思想的にヤバくなってないでしょうか?


 どうやったら正気に戻ってくれるんでしょう。


 早いところアルティミアさんにお返しして平和を取り戻したいものです。


「この辺りまで来れば追っ手は大丈夫だと思いますが、行くあてはありますか?」


 ザクリスさんにそう話し掛けられて、これまたバンさんと顔を見合わせてしまいます。


「取り敢えず、そっちの端に寄って降ろして貰えますか?」


 そろそろ落下の心理的ダメージも大丈夫だと思うので、歩くのも走るのも問題ないと思うのですが。


 途端に何か嫌そうな顔になったバンフィードさん、そんなにマッサージ機と離れるの嫌なんでしょうか?


「世の中危険が一杯なんですよ? 貴女は離すと直ぐに突拍子もない事を始めるでしょう?」


 何かそれっぽい事を言っていますが。


「バンさん、過保護なお父さんですか? 子離れ大事ですよ? 将来娘さん出来たら面倒臭いお父さんになりそうですよねぇ。」


 じっとりした口調で突っ込んでおくと、ふいっと目を逸らしたバンフィードさんが、道の端に寄って渋々というように地面に降ろしてくれました。


「何日かこっそり寝泊りする場所は必要ですけど、何処か良いところありませんか?」


 ザクリスさん達に問い掛けると、見交わした3人は一斉にこちらを向きました。


「実は、騎士団で潜入捜査なんかの為に用意してある民家や抑えてある宿の部屋があるんですけど、そこを使うのは?」


「えっと、そんなところ貸して貰って大丈夫ですか?」


「いえ、失礼ながら第三騎士団の方なら誰でも知るそこで本当に大丈夫でしょうか?」


 守秘の問題を指摘したこちらに対して、バンフィードさんはもっと踏み込んだ心配をしてくれたようです。


 確かに、第三騎士団の全員が味方の訳がないですからね。


「・・・そうですよね? じゃあ、ウチに泊まりますか?」


 そう提案してくれたのはザクリスさんですが、それは流石にマズいでしょう。


「いえ、ご家族の方がいらっしゃいますよね? 危険に巻き込むようなことは出来ないので。」


 そこはきっぱりお断りすることにします。


「となると、どうしましょうか。」


 途方にくれたように顔を見合わせる第三騎士団の3人から目を逸らすと、意味ありげなバンフィードさんの視線には気付かないふりを通します。


「レイ様!」


 と、少し語気を強めたバンフィードさんに呼び掛けられました。


「それはまだダメ。」


 一言の元に遮っておきます。


 バンフィードさんのご実家の王都屋敷の事を言おうとしているのでしょうが、それはこの3人には言わない方が良いでしょうし、最終手段に取っておきたいんです。


「普通に堂々と、宿取りましょう。指名手配されてませんし。皆さんで大部屋。」


「え? 良いんですか?我々と大部屋で。」


 テュールズさんが少しだけ赤い顔になっているのは、どうしましょうか。


「え? 私だけ端で離れて休みますし。命が惜しければ近付かないで下さいね。」


 にっこり笑顔で告げておきます。


「そうですよね。凄い魔法使いのレイさんなら、防御結界とか張れますよね。」


「んーそれもありますけど。私の左右で使い魔的魔物が寝ますので、何かあったら本当に命がないですよ?」


「・・・魔物??」


 そんな反応をした3人には就寝前にコルちゃんとジャックを紹介しておくことにしましょうね。

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