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 フードを目深に被って潜り抜けた王都の門の中は、この20日足らずの間に信じられない程様変わりしていました。


「火炎球!」


「石飛礫!」


 第三騎士団の騎士と思われる人達が極小さな魔法を使いながら、小型の魔物らしきものを追い立てているところに遭遇したり、診療所の前で溢れかえる病人や怪我人が通りを塞いでいたり。


 何があったのか、崩れた建物や火災の後なのか煙のたなびく瓦礫の山となった住宅を前に呆然と佇む人々がいたり。


 あちらの世界での災害後の放映を思い出すような光景です。


 そんな光景を見ながら全員がフードで顔を隠しつつ向かう先は、第三騎士団の営所です。


 王弟殿下には、王都に戻ったら真っ先に顔を出すように言われていましたが、どう考えてもそのまま身動きが取れなくなりそうなので、その前に最低限済ませるべきことを済ませると皆に説明してあります。


 第三騎士団にはケインズさん主体でお父さんのマーシーズさんを訪ねて貰い、現状確認をしたいと思っています。


 その間にライアットさんにはヒーリックさんを訪ねて貰い、出発前に頼んでいた街での情報収集の成果を聞いて来て欲しいと頼みましたが、それは表向きの理由です。


 実はまだ誰にも知らせていませんが、預けて来たシルヴェイン王子の様子を結果見てきてもらうことになるでしょう。


 その他、守護の要を一度は下見に行っておきたいところですね。


 そんな訳で、ライアットさんと付いて行って貰うことにしたテンフラム王子とは門を入ったところで別れて、少し遠回りをして街の様子を見ながら第三騎士団の営所に向かっています。


 近付いて行く営所も出発前とは大きく様相を変えていて、入り口の門に焦げた跡や所々何か大きなものがぶつかったのか、ひしゃげたところがありました。


 それだけで、一体何があったという様子ですが、営所の中からは兵士達の切迫したような騒つく声が幾つも聞こえて来ます。


 お陰で誰かに見咎められることもなく営所の敷地内に入ることが出来てしまいました。


 騒つく声が聞こえて来るのは、出発前にイースやエールを降ろした広場の方のようです。


「どうしますか?」


 ケインズさんに問い掛けられたクイズナー隊長が渋い顔でこちらをチラ見しました。


「何もしないように。・・・いや、無駄だね。それより問題は、第二騎士団ナイザリークは何をしているのか。どう見ても魔物絡みだろうに。」


 苦い口調のクイズナー隊長の言葉にも納得です。


 ここでもしかして第二騎士団ナイザリークの誰かに会えたらと思いましたが、あれだけ魔物が彷徨いている様子の街中で第二騎士団ナイザリークの制服を全く見なかったということは、討伐に参加していないという事でしょう。


「機能していないのか、出して貰えていないのか。いずれにしろ、これでは奴らの思う壺だね。」


 奴らとは、エダンミールのことでしょう。


「それが狙いでは? 考えたくありませんが、我が国のかなり深くまで入り込まれているのかもしれません。」


 珍しく口を挟んだバンフィードさん、伯爵家の長男らしい発言は初めて聞きましたね。


 じきに見えて来た広場には大きなハリネズミのような魔物が第三騎士団の人達に槍で追い込まれています。


「よし! それ以上近付かずに一斉に行くぞ!」


 奥から第三騎士団の団長さんの声が掛かって、ハリネズミ目掛けて幾つも攻撃魔法が飛んで行きます。


「ダメだ!」


 思わずというように声が出たクイズナー隊長の言葉に合わせたように魔法がハリネズミの針に吸い込まれて行きます。


「くっ! レイカくん、あれの外に直ぐに魔法結界を張れるか?」


「あ、はい。内外遮断の?」


 結界魔法の展開を始めつつ問い掛けると、頷き返されました。


 第三騎士団の槍持ちの皆さんが一斉に大きな盾持ちの皆さんと場所を入れ替わっているので、無対策では無さそうですが、クイズナー隊長の慌て振りを見ると、全員が無事には済まないのでしょう。


「魔法・物理衝撃吸収、遮断結界展開!」


 叫んでハリネズミの外側に魔法発動させたところで、魔法吸収したハリネズミの針が一斉に弾けたように飛び出して、結界に阻まれて消失しましたが、何故かハリネズミの身体には直ぐにニョキっと針が生えて来ます。


「おー、凄い回復力。流石魔物。」


 思わずそんな感想を述べていると、広場の中央からザッと視線がこちらに向きました。


 その間も、結界の中でハリネズミが外に出ようと暴れていますが、今のところ破られることもなく結界は発動したままです。


「・・・また、無駄に高性能高精度な結界を。」


 クイズナー隊長がそれは苦い呟きを漏らしていて、こちらに駆け寄って来る隊長さん達や団長さんを見て、バンフィードさんが遮るように前に出て隠してくれました。


「どちら様か知らないが、ご助力感謝する!」


 そう話し掛けて来たのは隊長さんの1人で、解呪をした時に見かけた人です。


「ええ。あのままで暫くは大丈夫でしょうが、魔物が疲れ切ったところで結界を解除するので、物理攻撃で倒し切った方が良い。」


 クイズナー隊長がそう答えて、その隊長さんが頷き返しつつ頭を下げて魔物のほうへ戻って行きます。


 囲む部下達に指示を出しに戻ったのでしょう。


「ご協力感謝する。第三騎士団団長のルーディックだ。失礼だがどなたか伺っても?」


 前回は直接話すことはなかった人ですが、シルヴェイン王子とはあの時色々と話し合っていたようです。


 今回のシルヴェイン王子が関わっていると言われている事件のことをどう思っているのか気になるところですね。


 ここでケインズさんが前に出てフードを外します。


「済みません。門に誰もいなかったので勝手に入ってしまいました。マーシーズは営所にいますでしょうか? 私は、息子のケインズと申します。」


「・・・ああ、マーシーズの第二騎士団ナイザリーク所属の長男だな。特別任務でレイカルディナ・セリダイン嬢を警護していたはずだが?」


 ルーディック団長の鋭過ぎる突っ込みには、皆で黙ることになりました。


「・・・失礼しました。出発前にウチの団長から聞いておられましたか?」


 言ってフードを落としたクイズナー隊長に、ルーディック団長が眉を顰めたようです。


「それを口にするな。今の王都では禁句だ。」


 険しい声で返して来たルーディック団長に、こちらの皆も険しい顔になってしまいます。


「第五のブライン殿から聞いている。切り札だそうだな。彼女は。」


 こちらを見透かすように見たルーディック団長に驚いてしまいます。


 第五騎士団長のブラインさんは実はルーディック団長と親しかったんでしょうか。


 ということは、もしかして意外と信用出来る人なのかもしれません。


 が、第三騎士団に敵が紛れ込んでいないとは限りません。


「ルーディック団長。場所を移してお時間を頂くことは?」


 クイズナー隊長が真剣な表情でそう打診していますが、その間にも広場のハリネズミな魔物がヘロヘロになって座り込んでしまいました。


「タイミング合わせて解除して来ますね?」


 クイズナー隊長にそう断って前に出ると、ピタリと隣をバンフィードさんが付いて来てくれます。


「解除するので体勢が整ったら数を数えてくれ!」


 バンフィードさんがそう声を上げてくれて、前列で待機していた隊長さんの1人が手を挙げて応えました。


「槍を構え! 一斉に行く! 3、2、1!」


「結界解除!」


 解除呪文を叫んだ途端に、槍を構えていた前列の皆さんが一斉に槍を突き出しました。


 と、フードの上から目元を抑える手が来て、獣の断末魔の鋭い声だけが耳に響きました。


「バンフィードさん?」


 手の主の恐らくバンフィードさんに声を掛けてみます。


「慣れていないでしょう? 見ない方が良い。」


 そんな気遣いには感心してしまいますが、その手が中々外れてくれないのは、やはりいつものアレでしょうか。


 その間に、兵士さん達の討伐完了の歓声が上がっています。


「魔法使い殿! ありがとうございます!」


 そんな声があちこちから聞こえて来ます。


「バンフィードさん、もう良いですって。」


 そう目隠しする手に手を添えて声を掛けると漸く手が離れて行きました。


「そうですか? 女性には見せるべきではないかと。」


「いえ。お気遣いはありがとうございます。でも、もう良いです。バンフィードさんは長過ぎるんです、いつも。」


「え?」


 全く自覚のないこの行動はいつになったら落ち着くんでしょうか?


 踵を返してクイズナー隊長達のほうへ戻り始めると、パタパタと追い掛けて来る足音が聞こえて来ました。


「待って下さい!」


 呼び止める声に振り返ると、フード越しにチラッと見覚えのある顔が幾つか覗きました。


「レイさん、ですよね? 無事に戻られたんですね?」


 その声は、営所内の案内をしてくれたりと関わったイヴァンさんですね。


「誰のことでしょう?」


 それを即行でバンフィードさんが間に入って遮ります。


「急ぐので失礼します。」


 すげなくそう返すバンフィードさんの行動は正しいと思うのですが、折角声を掛けてくれたイヴァンさんには申し訳ない気持ちになります。


「さあ、行きますよ?」


 改めてバンフィードさんに促されて、しっかり手を取られます。


 こちらを見詰める視線だけを背中に感じながら、この場を離れることになりました。

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