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『あの、レイカさん?』


 とこれはマユリさんの声のようです。


「はい。マユリさんですか? お役目お疲れ様でした。」


 そう返してみると、微妙な沈黙が来ました。


『あの。私、本当にきちんと役目を果たせたんでしょうか? 実は、聖なる魔法を限界まで使い切ったからか、あれから魔力が全然戻らなくて。私、力不足で守護の要を守り切れなかったんじゃないかって。』


 か細い声で続くマユリさんの言葉に、こちらも気の毒になってしまいます。


「マユリさん。違いますよ。マユリさんはきちんとお仕事完遂してます。だから不安になることも申し訳なく思うこともないんです。堂々と破壊を防いだんだって胸張ってて下さい。特にエダンミールの偉そうな王子様に何か言われても。」


『レイカさん?』


「私大神殿で、神々の寵児の本当の役割とか色々聞き出して来ました。落ち着いたら2人でゆっくり話しましょう?」


『でも、私より魔力量の多いレイカさんが王都に居れば、半壊じゃなくて無事に済んだんじゃないかって。』


 涙声になるマユリさんに、ふっと口元が苦くなります。


「だから、違いますって。マユリさんはきちんと守護の要を守り切ってますから。それにあれは、他の誰かでは出来なかったマユリさんだけに課されたシナリオだったんですから。後は王太子殿下とハッピーエンド迎えといて下さい。」


『・・・でも。』


 それでも納得出来なさそうに溢すマユリさんに、ふっと息を吐きます。


「後のことは、私が引き継ぎます。そういうことにして下さい。僻地おひとり様人生を回避する為に、私も色々頑張っとかないといけなくて。それに個人的にもウチの殿下におイタしてくれた人達には、涙ハンカチ噛ませるくらいしっかりざまぁしてやりたいので、譲って下さい。」


『えっ? シルヴェイン王子?』


「ええ。あの卑怯過ぎるやり口に関しては、私かなり怒ってますので。生半可なことでは許してあげません。」


 と、ここで咳払いが入りました。


『全く、聞きたいことは山ほどあるが、とにかく明日を待つことにする。それではクイズナー、一先ずこれで終了しようと思うが?』


『待ってくれ。王都の事件は、私が王太子であることに不満を持ったシルヴェインが起こした叛乱クーデターではなかったということか?』


 ここで割って入ったのは王太子のようです。


「え? 逆にそんな噂があるんですか? 王太子殿下、シルヴェイン王子のことそんな風に疑ってたなんて知ったら殿下泣きますよ?」


『・・・分かっているのだ。シルヴェインの方が魔力が多く、頭も良い。そして人望もある。生まれたのが私より遅かった為に第二王子に甘んじているだけだ。』


 成る程、シナリオ強制力がここに作用していたようですね。


「何言ってるんですか? シルヴェイン王子が第二騎士団ナイザリーク率いて遠征に出てるのは、王位に興味ありませんアピールなんだそうですよ? 周りの雑音に一々踊らされないで下さいよ。あ、この辺不敬罪適用外でお願いしますね!」


 危ない危ない。


 すかさず付け加えると、あちらからもこちらからも溜息が上がりました。


「あのですね。あっちの世界で言われてるのが、改革を求められる時代と安定を求められる時代の指導者は必要スキルが違うってことみたいですよ。つまりね、俺様ハイスペのシルヴェイン王子みたいな人は、今のカダルシウスでは今回みたいなエダンミールの水面下な侵略や魔物退治をその有り余る能力で請け負って貰って、その間に王太子殿下に内政をしっかり回して貰うような役割分担が上手くいくってことですよ。得意分野の違う兄弟がいて良かったですね?」


『・・・それは嫌味か? サラッと失礼な事を言ってくれるな。だが、確かに2人いるから出来ることは多い。父上と叔父上も支え合って国を回しているように見える。私も、シルヴェインにそんな役割を頼むことは許されるのだろうか。』


「そう思うなら、シルヴェイン王子を守ってあげて下さいよ。今回のは、貸し一つにして恩を売る良い機会ですよ?」


『・・・そんな押し売りは嫌がるかもしれないだろう? 』


 まだウジウジと言っている王太子に、はあと大袈裟に溜息を吐いてみせます。


「あのねぇ。人は1人では生きていけないんですよ? それは王様でも一緒です。それは立場があるから、人前では取り繕う必要があると思いますけど、他の人が居ない時になら恥や外聞を捨てて縋り付いてでも欲しいものを手に入れても良くないですか? 使い分けましょうね。そうやってみんな上手くやってるフリしてるんですから。」


 身も蓋もない言葉で締めくくってみると、クイズナー隊長が遠い目をして、ニヤつくタイナーさんと眉を寄せたコルステアくん、そして乾いた笑いのテンフラム王子が目に入りました。


『・・・お前な。その言いたい放題なところ何とかしろ。じゃないとシルヴェインの妃にはしてやれないぞ?』


 そんな負け惜しみに近いような発言が来て、今度はこちらが乾いた笑みを浮かべてしまいますね。


「あーそうですよねぇ。シルヴェイン王子ともし仮にそうなったとしたら。お妃様・・・無理かも。」


「諦めるの、はやっ。」


 コルステアくんのボソッと一言が余分ですね。


「えーそれでは。この辺りで、通信終了とさせていただきましょうか?」


 今度こそクイズナー隊長の締めの言葉で終了となるようです。


『レイカ! とにかく早く戻っておいで。後のことはこの父が何とかしてあげるからな?』


『そうだぞ。兄もレイカの為なら何でも。』


「しなくて良いので、みんな無事で居て下さい。ここから、こちらの反撃のターンですからね!」


 胸を逸らして言い切ったところで、何か限界を迎えた様子のクイズナー隊長が魔力遮断の魔石を作動させました。


「君はね! 物事を何割マシか大きくしないと気が済まない人間なのか?」


 ガッツリと落ちて来た雷に、肩を竦めておきます。


「おねー様さ。誰もがおねー様のそういうところ諦めて許してくれる訳じゃないからさ。おねー様こそちゃんと使い分けしなよ?」


 何故かコルステアくんからもお説教を喰らって、あははと目を逸らすことになりました。

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