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「さて、そろそろ飛ぶぞ? 覚悟はいいな?」


 タイナーさんからのその合図に、流石に緊張します。


 上空の装置からいよいよ王都の王弟殿下に向けて魔力の糸が飛ばされるのですが、そのスピードは試したことがないから未知、とのことでした。


 という訳で、上空の装置に接続してからも予め魔力の糸を出来る限り先作りしながら待機中です。


 装置からは一定量一定速度での魔力の吸い上げがあるようなので、出力スピードが速ければ、息を吸う間に終了するか魔力枯渇する可能性もあります。


「飛んだ!」


 タイナーさんの台詞が耳に届くのと同時に、ふわりと身体が浮き上がるような妙に現実味のない感覚が来て、纏わりつくような様々な色の混じった靄を突っ切って飛び出した先には騒つく人の気配がして。


「我が君! 戻って!」


 ノワの声に引き戻されていつの間にか閉じていた瞼を開けると、酷く心配そうな顔で覗き込んで来るコルステアくんが目に入りました。


「あ、れ?」


 漏れた声が少し掠れています。


「おねー様! これ、今後は使用禁止ね!」


 その怒ったような声に目を瞬かせていると、戻って来た身体の感覚を辿って、コルステアくんに倒れ掛かったところを後ろから抱き留められたのだと分かりました。


「えっ? 魔力枯渇し掛けた?」


 と、そこで半眼のノワもこちらを覗き込んで来ます。


「いいえ。魔力はまだ大丈夫ですけど、飛んだ魔力に意識を連れていくっていう、超高度な技を無意識に使ったんですよ!」


 これには成る程、と納得してしまいます。


「この間の精神体分離の後遺症もあるかもしれませんね。」


 ボソッと付け足したノワは、気遣わし気な表情です。


 そんなやり取りの間、前方でクイズナー隊長と受話器の向こうの人物とのやり取りが始まっているようですね。


『この非常識な通信手段は、後何回使える?』


 王弟殿下の相変わらず冷たく無駄のない問いが来たようで、クイズナー隊長がこちらをチラッと振り返りながら苦笑しています。


「かなりの負担だったようで、今回限りにした方が宜しいかと。」


『では、そこまでの危険を犯してまでこうして直接連絡を取って来た理由は?』


「その前に、そちらに今同席されているのはどなたでしょうか?」


『事前に飛ばして来た伝紙鳥の内容を確認して、王太子殿下とマユリ殿が同席を希望され、ランバスティス伯爵と子息のイオラートがいる。他は室内には入れていない上に、盗聴防止魔石を発動させている。』


「そちらの出力媒体の伝紙鳥は? 保ちそうでしょうか?」


『そうだな。今のところは問題なく声を伝えているが、紙の中央の魔法円部分が破れたら終わりだろうな。初めから強化魔法でも掛けておくべきだったな。』


 そんな冷静な指摘が来て、反省点も出来ましたね。


「殿下、通信時間にも限りがありそうなので、伝紙鳥で伝えられたことは繰り返しません。単刀直入に、今どうしてもお伝えすべき最優先の事項のみを。」


 前置きをしたクイズナー隊長がこちらを意味ありげに振り返りました。


「レイカ殿と共に今回の旅を通して見えて来た根拠のある情報です。今回の事件に関するエダンミールからの援助の申し出を決してお受けにならないで下さい。」


 何よりも最優先はこれですね。


『・・・・・・簡単に言ってくれる。その根拠は?』


「今回の守護の要破壊は、魔王信者共を後ろで援助した存在がいます。」


『・・・それを証明出来る証拠は?』


「直ぐには証明出来ないので、エダンミールが申し出る半壊の守護の要を修復する援助を受け入れるのを、なるべく引き延ばして下さい。」


『・・・・・・難しいことを言う。こういった問題を引き延ばして解決力の無さを見せると、王家への民心を低下させることになる。他に解決策があるのならば別だが。』


 王弟殿下の慎重な言葉に、クイズナー隊長がまたこちらを振り返りました。


 それを受けて、コルステアくんに支えられながら前に出ます。


「王弟殿下、レイカです。守護の要修復は、戻り次第私がやります。エダンミールに手を出させないで下さい。それこそがエダンミールの狙いですから。相当あの手この手を使って煽って来ると思いますが、のらりくらりと躱して引き延ばして下さい。」


『・・・修復には自信があるのか? マユリ殿が聖なる魔力を全て注ぎ込んでも半壊に留めるのがやっとだったのだぞ?』


「あれ? 何かお忘れじゃないですか? レイナードさんのこの身体はですね、サクッと公園更地事件を起こしてしまえる程魔力を貯められるんですよ? それに、今回の修復作業には各界の第一人者をお招きしての二段構えのかなり大掛かりな作業になります。まずは、守護の要の一時的かつ即時な再稼働、それから元の状態への地道な修復活動とその機構の構築。構想はもうありますよ?」


『・・・・・・さて、何処まで信じて良いものか。引き延ばせるのも、精々3日が限界だろうな。それまでにこちらを納得させる根拠を示すように。』


 中々厳しい期限を切ってくれましたが、これはもう例の方法で帰って頑張るしかありませんね。


『ところで、こちらはこの通信で別件を訴えるつもりだろうと思っていたが?』


「それはまた、帰ってからゆっくりと。」


 グッと奥歯に力を込めながらそう返すと、ふっと失笑したような声が聞こえて来ました。


『やはりな。これだけ探して見付からないのは、もう既にお前達が身柄を保護しているからなのだろうな。覚えておけクイズナー、それだけは許されんぞ。いずれ第二騎士団ナイザリーク全体の問題として処分を下す。』


 ある意味無関係なクイズナー隊長にそれが飛び火したのは申し訳なかったですが、ここは全てが明らかになるまで被って貰うことにしようと思います。


 しれっと目を逸らしたこちらに、クイズナー隊長の死んだような目が刺さるような気がしましたが、気付かなかったということで。


「えっと、とにかく最速で戻りますので、色々気を付けておいて下さい。あ、それから。王城魔法使いのミルチミットさんって人? こっそり監視付けといて下さい。その人がエセ賢者で売国奴みたいですから。」


 ふと思い出してそう付け加えると、こちら側で、はあ? といくつも声が上がりました。


 そういえば、レイナードとの会話の中で、皆さんに伝え忘れてましたね。


『・・・・・・。クイズナー、お前が手綱を握れなかったのか?』


「申し訳ありません。かなりの曲者でして。旅の間中振り回されましたが、お陰で展望も開けました。一度、信じて任せてみようと思える程には。」


『・・・そうか。では仕方ないな。それで? いつこちらに戻る?』


「少々非常識な方法で、先行隊は明日の予定です。」


『そうか、分かった。話しは通しておくから真っ直ぐこちらに顔を出すように。因みにエダンミールからはお見舞いと援助部隊が近日中に到着予定だ。』


「近日中というのは?」


『お気遣いいただいて強行軍で来て頂けるそうだ。』


 含みのあるような皮肉混じりの会話がクイズナー隊長と王弟殿下の間で交わされていて、その中身も含め、現実逃避に入りたくなりました。

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