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「真っ直ぐ、そうたわまないようにな。なるべく細くだ。」


 そんなタイナーさんのアドバイスを受けながら魔力を極細の紐状に伸ばして飛ばして行きます。


「なんかこれ、蜘蛛が糸飛ばしてるみたいですよねぇ。」


 何とも言えない微妙な気分でそう呟くと、肩の上から小さくぷっと吹き出す声が聞こえました。


「今度からスパ◯ダー◯ンって呼んであげますよ?」


「黙れ、マスク被ってないわ。」


 言い返しつつ、真っ直ぐ極細で伸ばした魔力を描く軌道に乗せて辿って行きます。


 その作業を進めているのはタイナーさんの塔の最上階にある尖頭部分の内側、所謂屋根裏部屋です。


「我が君、ほら集中して? 軌道がズレてますよ? 真っ直ぐ目印に向かうだけですよ? リスクを犯してでもあれだけ派手な目印を付けたんですから、失敗出来ないですよ?」


「う、分かってますよ。てゆうかノワが余計なこと言わなきゃ良いと思うんだけど。」


 納得出来ない気分でぼそりと溢すと、肩の上のノワが腰に手を当てて溜息を溢しました。


 が、その顔がそれは嬉しそうににっこり笑っていることに気付きました。


「魔力コントロール本当に下手くそなんですから〜。でも、そんな我が君を完璧にフォローするのが、私だけにしか出来ない、お仕事ですから〜。」


 ハートマークが飛びそうなその主張に、前に出した手に意識を向けつつ、反対の手をノワに向かって伸ばします。


「ノワ、喰らえ指先アイアンクロー!」


 叫びつつ指先でノワの頭を挟み込みます。


「ふ、甘いですね。物理障壁結界展開!」


 確かに掴んだ感触のあったノワの頭が硬い結界に覆われて直触りではなくなっています。


「おい、お前ら遊んでないで、そろそろ繋がるぞ。」


 タイナーさんの呆れ返ったような声音が来てはっと前に意識を向け直します。


 そのタイナーさんは尖塔から外が覗けるように開けられた窓から少し身を乗り出して上空を見上げています。


「3.2.1接続完了したぞ。」


「じゃ、後は一気に目印目指して飛ばしますね!」


「ああ。なるべく細くだが、絶対に途切れず伸ばして行くんだぞ?」


 そんな無茶を言って下さるタイナーさんですが、上空の装置に接続してしまえば、予め飛ばして発信している目印目指して飛んでいくようになっているそうです。


 後は、こちらの魔力出力量をコントロールしてさえいれば繋げる仕組みだそうですが、細く伸ばした魔力の糸を伸ばして行くので、距離が離れれば離れる程、膨大な魔力が必要になる、所謂普通は実現不可能な装置なんだそうです。


 因みに何処まで伸ばしているのかというと、王都の王弟殿下のところまでです。


 魔力量的に実現出来るのか、タイナーさんとノワが事前に綿密な計算をしていましたが、終わった途端に揃って作り込んだにっこり笑顔になった2人に、何とかなる、と無責任な一言を貰いました。


 そんな訳でこちらはドキドキしながら、それは細っそく魔力の糸を作って送り込んでいるのですが、時折ノワが緊張を解そうとしているのか、チャチャを入れてくるのが本当にウザいです。


 気を取り直して、この上空の装置ですが、予め王弟殿下に向けて飛ばした伝紙鳥に届いたら発信する魔法を付加しておき、その発信を拾った上空の装置から真っ直ぐ魔力の糸を飛ばす仕組みになっているそうです。


 要は、糸電話だとノワが解説してくれました。


 えらく大掛かりな糸電話ですが、電子信号の読み替え技術などないこの世界では、糸電話でも画期的な通信手段になるそうです。


 セキュリティ問題はかなり心配ですが、そもそも仕組みが分からないこの世界の人間なら傍受することも出来ないだろうと結論付けられました。


 その間にも上空に魔力を送り込んで行きますが、次々と吸い込まれるように流れて行く魔力に、少しだけ不安になって来ます。


 いつも魔力を使い過ぎた時は、後から気付くことが殆どなので、一気にこうして魔力を使い込むのは自覚症状がないだけに怖いと感じてしまいます。


「我が君、大丈夫ですよ? 本当に危なくなったら止めますから。」


 そんな不安も読んで来るノワは、本当にあの性格でさえなければ、かなり出来る人だったんじゃないでしょうか。


「うん。そうだね。魔人としては、主人は運命共同体だもんね?」


 こう素直にお礼を言って頼れないのも仕方ないということで。


 途端に少しだけ寂しげな瞳になって黙るのは、演技か本当に少し傷付けたのか分かりませんが、罪悪感が湧きます。


「だから、そこだけは頼りにしてるでしょ?」


 言って摘んでいた指先を離してそっと撫でてみると、ふっと力を抜いたノワが力無く笑みを返して来ました。


 長い命を終わらせてシステムに飛び込んで魔人になったノワは、言葉にしない色んな思いを抱えているのでしょう。


 その全てを慮ることは出来ないし、ノワもして欲しくないのかもしれません。


 もっと長い年月を一緒に過ごして、共に様々な出来事を乗り越えた先でなら、ノワの本音を聞いたり、未来の相談に乗ったりも出来るのかもしれませんね。


「いつか、ノワのことにも向き合う機会が来ると思うんだよね。それまでは私のお守りでもしながらマルキスさんを遠くから見守ってあげたりとか。のんびりゆっくり過ごしてみたら良いんじゃない?」


 不意と見上げたノワの瞳が一瞬だけ潤んだように揺れて、それから直ぐにいつもの皮肉げな色が宿りました。


「のんびりゆっくり?出来る程我が君は大人しくしていられないでしょう?」


「はい? 私自分からトラブル呼んだ事は一度もありませんけど? 歩けば棒に当たる勢いでトラブルに見舞われるのは、全てレイナードさんの体質の所為ですからね!」


「またまたぁ〜。」


 茶化すノワですが、先程よりも元気が無さそうに見えます。


「ノワ? 王都に無事戻れたら、街中探検デート連れてってあげるからさ。」


 言いながらまた指先で頭辺りをグリグリ撫でてあげると、ふっと口元を歪めてノワが顔を上げました。


「王子様の監禁場所特定の探索?」


 これまた鋭い突っ込みに、笑顔で取り繕い損ねた顔が一瞬引き攣ってしまいました。


「探索、デートです。」


「我が君、浮気男の苦しい言い訳みたいになってますよ?」


 そう半眼で返して来たノワですが、直ぐにふっと鼻で笑った後、笑み崩れてしまったようなので、満更でもないのでしょう。


「大きくなっていいなら。」


「無理だね。街中で危険物放つ趣味ないので。」


 そんな不毛なやり取りに発展しそうになったところで、後ろから近付いて来る足音が聞こえます。


「・・・お前ら、何気に仲良いよな。」


 テンフラム王子の呆れたような言葉が掛かって、思わずキッと振り返ってしまいました。


「レイカくん。こっち向かない前向いて集中しなさい。」


「まあそれでも魔力出力が乱れてない辺りは、流石は魔王の魔力なのか、ちっとは魔力制御が上達したのか、どっちかだな。」


 こちらも後ろから接続を見守っていたクイズナー隊長からの突っ込みと、タイナーさんからの相変わらずな評価です。


「それは、私が我が君の魔力にちょっとだけ干渉して制御を手伝ってるからですよ。」


 と、ここでノワのドヤ発言も加わります。


「あっそう。魔人は主人の魔力に干渉とか出来るんだ。」


「まあ。でも、いつでも何処でもという訳ではありませんよ? 主人が拒絶すれば干渉なんて簡単に切れますし。余りに乱れ過ぎた魔力は魔人の干渉では整いませんから。」


 それはまあ、そんなものなんでしょうね。

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