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「わー!! エール待って〜。心の準備〜、風圧〜。魔法着地禁止って!殺す気かぁ! 鬼がぁ!」


 そんなことを散々叫んだ挙句、割とふわりと着地完了したヒヨコちゃん改めエールは、得意そうに胸を逸らしてこちらを振り返って見返して来ました。


「あ、うん。ありがとね、エール。じょ、上手だったよ?」


 全身ガクガクになりつつお礼を言って頭を撫でつつ背中から降りると、エールは満足気にブルっと身を震わせてから毛繕いを始めました。


「ぷっ! お疲れ。」


 先にお父さん改めイースで難なく着陸完了していたライアットさんがそんなこちらを見ながら吹き出しつつ声を掛けて来ます。


「死ぬ、死ねますよ? 獣騎士の皆様、改めて尊敬します。毎日あの揺れと風圧と胃袋捻れる降下に耐えてるんですよね?」


「ふははっ! そんなに酷いかな? エールは君の言うことちゃんと聞いてるし、いい子だと思うけどなぁ。」


 またもや笑いつつも、普段よりもずっと砕けた口調で話すライアットさんは、ちょっと新鮮です。


「エールがいい子なのは分かってますけど、それと飛行に慣れるかどうかは別です。」


「それでもいざという時の移動手段に欲しいんだろう?」


 そんな話しをして試乗してみたのは確かですが、これ程とは。


 正直、騎獣飛行を舐めてましたね。


 思ったよりも高いし速いし揺れるし、何よりそこで振り落とされないようにバランス取りつつ、前を向いて方向修正とか、最早神技じゃないかと思います。


 基本、ライアットさんが乗るイースに着いていくようにエールに言い聞かせてたので、こちらは方向修正の必要はなかったんですが、前向いて姿勢崩すなっていうライアットさんの指導が一番キツかったです。


 高所恐怖症ではないですが、足元がしっかりしてない高所はやっぱり恐怖を感じるものですね。


 鞍と手綱があると違うとは言ってくれましたが、この移動方法は出来るだけ封印の方向で行きたいと思います。


「ああ、皆んな追いついて来たみたいだな。」


 以前ラフィツリタに滞在した時にイースとエールを迎えた街の側の道をそれた空き地に今回も着地しましたが、そこに地響きと共に飛ばして走って来る馬の蹄の音が聞こえて来ます。


「かなりゆっくりと街道の上を飛ばせてこれだから、本気を出せばこいつらの方が相当早く王都に辿り着けるだろうけど、2人で先に行くのはやはり危険なんだろうな。」


 そんなことを呟いているライアットさんに、それだけは勘弁して欲しいと切実に訴えたくなります。


 エールに騎獣じゃなくても、耐久と防御がゴミの身でほぼ単身王都に帰還など考えたくもないお話しです。


「ライアットさん、貴重な体験をありがとうございました。これからは身の程を弁えて、地道に地に足を付けて生きて行きたいと思います。」


 そんな言葉で締めくくってみると、ライアットさんにまたぷぷぷと笑われました。


「いざとなったら魔法で幾らでも安全を確保出来るだろうに。まあ女の子だからそんな危険は犯さない方がいいんだろうけどな。」


 そう一応の納得を得られたところで、相当飛ばして来た様子の皆さんが広場に馬を乗り付けて来ました。


「無事に降りられたようだね? 上空で何か叫びっぱなしだったようだから心配していたけど、何とかなったってことだね?」


 クイズナー隊長にそう訊かれて何と答えたものかと引きつった顔をしていると、また笑いのツボがぶり返したのか、ライアットさんが身体と声を震わせながら、泣き叫びながら降りて来たとか、恥ずかしい報告をしてくれました。


「うーん。高速移動手段として採用はこの分では難しそうだね。」


 とはいえ、当初の予定よりラフィツリタには大分早く到着出来たようです。


 エール達と別れて馬で街に入りましたが、お茶の時間の前には塔の入り口に乗り付けられました。


「ああ、新しいお弟子さん達だね。先生がお待ちですよ。入りなさいな。」


 タイナー師匠せんせいの内縁の奥さんだというエイミアさんに通されて、塔の階段を登りました。


 いつか通された応接室の扉は開いていて、踏み込んだ先で書物に埋もれそうになっているタイナーさんを見付けました。


「なんだ、意外と早く着いたなぁ。」


 その間延びしたような声に、クイズナー隊長が若干イラっとした顔になっています。


「タイナー、緊急事態なんですよ? 分かっていますか?」


「ああ、王都の守護の要だろう? それについて書物漁ってたんだぞ? ほれ?」


 こちらに向けてポイっと投げ渡された書物をキャッチして、パラッと開いてみると守護の要の構造図のようなものに解説が書かれているようです。


 その上、色々なパターンがあるようで、何処どこはこれというような解説がされています。


 その中でカダルシウスの王都の守護の要を探してみると、かなり古い時代の産物に含められているのが分かりました。


「各国の王都の守護の要は、殆どが大昔に古代魔法で作られたものなんだが、経年劣化なんだか世情の変化の所為か、そのままで発揮出来る効果が保たれなくなった。そこで、後世に今ある魔法で魔力供給の部分だけ賄う仕組みが再構築されて組み込まれた。」


 この辺りはクイズナー隊長から聞いた話しの通りですね。


「大魔法使いタイナー、その古代魔法の元の装置を修繕する方向での修復はやはり不可能なのか?」


 と、後ろから割って入ったのはテンフラム王子です。


「おっと、あんたは?」


 タイナーさんが目を上げて眇めるような目でテンフラム王子を見返しています。


「スーラビダンの第三王子テンフラムだ。大魔法使いタイナー、お邪魔している。」


「・・・また、賑やかなことで。しかし、本家がまさか出て来るとはな。クイズナー、どうやって引っ張って来たんだ?」


 タイナーさんの言い分も確かに分かります。


 他国の王族がホイホイと他所の国へ出掛けて来たりしませんからね。


「レイカくん絡みだね。ランバスティス伯爵の前妻は、スーラビダンの王家の血筋だったそうだよ。」


 と、タイナーさんの砂を飲んだような目がこちらを向きました。


「何処まで面倒を抱え込める体質なんだ? 俺の弟子は。」


「それはレイナードさんに言って下さい。今頃私から身長吸収して脚長イケメンに変身してる筈なんで。ぐっムカつく〜。」


 この間の邂逅の時のことを思い出して拳を握っていると、溜息混じりのコルステアくんにまた頭を撫でられました。


「胴長になったかもしれないでしょ?」


「・・・それはそれでちょっと微妙。だったら返せ的な。」


「もう良い加減諦めなよ。可愛くなったって言ってるでしょ? 殿下もきっと喜んでくれるから。」


 その適当な慰めに、いつもながらむすっとしつつ溜息で流すことにしました。

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