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「レイカ嬢か? 思ったより元気そうで何よりだ。」


 そんな言葉と共に夕食の席に入って来たのは、第五騎士団長のブラインさんです。


「そうですね。丸3日寝てたっていう実感はまるでないんですけど、皆さん過保護で。」


 そう普通に返してしまいましたが、ブライン団長は目を細めてしげしげとこちらを観察しているようです。


 そういえば、レイカとしてもレイカ(改)としても初めてお目にかかるんでした。


「鏡の向こうでチラッと見た時とも変わっているように見えるが、変装か?」


 そう言えば、まず髪色と顔面バランスが変わって何故か少し幼く見えるようになったことと、背丈が変わったんでした。


「・・・色々ありまして、これがこれからの私レイカってことになります。改めまして宜しくお願いします。」


 そう頭を下げて挨拶し直したところで、バンフィードさんのお父さん、ヒルデン伯爵が入って来て、同じようなやり取りがありました。


「しかし、伝え聞いたところによると、王都は大混乱状態だそうですよ。」


 真面目モードに戻ったヒルデン伯爵の言葉に、皆で苦い顔になります。


「盗聴防止の魔石は? いいな?」


 ブライン団長が確認するのに、コルステアくんが頷き返しました。


「さて、表向きヒルデン伯爵との懇親晩餐会として本部を抜けて来たから時間はあるが、早いところ休ませてやらねばならんだろうからな。手早く行くとしよう」


 そう前置きするとブライン団長がテーブルを囲む皆を見渡しました。


「スーラビダンの第三王子殿下は、この場に居ていただいて良いのだな?」


 ブライン団長の厳しい顔がクイズナー隊長に向かいます。


「ええ。ここから先、古代魔法を扱われるテンフラム王子殿下のご協力は欠かせない事態になると思われます。」


 はっきりと答えたクイズナー隊長も、今回の事件にエダンミールが囲っている古代魔法を扱える者達の存在が見えているのでしょう。


「しかし、その協力の対価で我が国はエダンミールではなくともスーラビダンに足元を見られることになるのではないか?」


 ブライン団長の懸念は尤もだと思いますが、国としてのスーラビダンはともかく、テンフラム王子自体は有り余る程の魔力量で古代魔法を使える弟子を確保する為に手を貸すくらいのつもりでいるように見えます。


「ブライン団長、そこは多分大丈夫ですよ? テンフラム王子はこれから古代魔法も駆使しつつ、事件解決を目指す私の監視誘導係ですから。」


「・・・そういうものか?」


 微妙な顔付きで返して来るブライン団長に不本意ながら頷き返します。


「そうだな。私もスーラビダンとしての協力を許可されている訳ではないから、レイカに正しい古代魔法の使い方と規則を教える為の師のつもりで付いてきたと思って貰って良い。」


 ブライン団長はそれに少しだけ考え込んだようですが、一先ず流すことにしたようです。


「では、話しを進めるとするか。」


 そこから守護の要半壊の話しとこちらで察知出来た陰謀とエダンミールのこれからの動きの予測等が話し合われました。


「エダンミールから昨日第三王子が入国したようだ。こちらの窮状を知ってのお見舞いという名目らしいが、友好親善の訪問時よりも護衛が厚いようだな。」


 そう締め括るように知らせてくれたブライン団長は、予告通りエダンミールの動きを密かに監視しつつ、何もせずにいてくれたようです。


「まあ、王都の混乱状況を鑑みて、無理のない措置に見えますね。」


 クイズナー隊長の苦々しい言葉に、皆で黙って頷き返すことになりました。


「このままでは、第三王子の方が先に王都に辿り着きそうだが、どうするつもりだ?」


 ブライン団長の眼光が鋭くなります。


「信用出来る者に、ある程度の事情を書いて伝紙鳥を送るしかないと思っていますが、何処で傍受されるか分からないので、懸念は消せませんね。」


 クイズナー隊長の苦しい言葉に、重ね重ねもこの4日間がタイムロスだったと思い知るばかりです。


「タイナー師匠せんせいは、何か奥の手とか持ってませんかね?」


 苦し紛れに溢してみると、クイズナー隊長に溜息を吐かれました。


「少なくとも、直接通信出来る手段は使えるんじゃないかと思うよ。ただ、その先を誰にするかだね。」


 確かに、今最優先を何にするのか、王都の正しい状況を把握しないことには決め切れないかもしれません。


「殿下の潜伏先の安全は?」


「・・・どうでしょう。殿下自身の状況にもよるかもしれませけど。」


 正直に答えると、クイズナー隊長が途端に難しい顔になりました。


「王都にいる信用出来る誰かにその潜伏先を知らせるのは、やはり危険か?」


「ええ、間違いなく。その人、監視されてると思いますよ? 接触しようとした途端に殿下が捕まるんじゃないかと思います。」


 言ってみたもののこちらの予想に納得と頷き返して来たクイズナー隊長はもどかしい思いをしているのでしょう。


「さて、殿下の嫌疑を晴らすのは勿論のことだが、優先はやはりエダンミールの第三王子の干渉を防ぐことだろうな。」


 ブライン団長の冷静な判断にはその通りだと思うのですが、あちらの動きを封じるには、殿下の潔白を証明することが一番だというのは事実です。


「エダンミールが、守護の要修復の援助を申し出る前に、その必要がないことを国王陛下に納得して貰うのが一番です。」


「それは、レイカ嬢が請け負うと陛下に説明するのか?」


 ブライン団長の確認に、しっかりと頷き返します。


「ええそうですね。流石にあの規模の魔法装置の修復は、一息には出来ませんからね。そこは、エダンミールの援助を受けても違いはないと思うんです。だから、私が請け負った方が良いと思わせる何か利点が必要だと思うんですよ。」


 これには、室内の皆が難しい顔になりました。


「それは、何か手立てを考えてあるということかな?」


 クイズナー隊長の言葉に、少しだけ頭の中の構想を並べてみますが、直ぐにそれは横に置いて目を上げました。


「あちらに無くてこちらにあるのは、聖なる魔法ですよね? 現場を実際に見て、利点を確認します。」


「まあ、エダンミール側が何を援助として用意しているのかは分からないが、恐らく半壊した魔法装置を動かす為の機構を追加構築するつもりだろう。それが、君が行う修復よりも先進的な機構に見えた場合、勝ち目がないかもしれないよ?」


 そこは少し不安が残るところですが、その機構にこっそり何かを盛り込んでくる可能性があるんじゃないでしょうか。


 例えば、エダンミールからの援助を受け続けなければ維持出来ないような仕組みが組み込まれていたりとか。


「そもそも守護の要って、どんな構造なんですか?」


「・・・あくまでも後世の研究で立てられた仮説になるが、特別な太古の魔石に古代魔法を用いて作られた装置で、何らかの方法で魔力を循環させるか自然供給する仕組みが作られていたんじゃないかと言われているね。そこへ後に一般魔法を上掛けして魔力供給機構を再構築している。つまり、装置の古代魔法による魔力供給機構が何処かの段階で壊れたんだろうね。」


 そんな説明をしてくれたクイズナー隊長に、コルステアくんが興味深げな表情をしています。


 ちらりと目を向けた先でテンフラム王子も何か考え込むような顔になっていました。


「古代魔法の装置か。長命種の知識は流石に侮れないな。」


 テンフラム王子の苦味のある顔から、守護の要を構築する装置のことは詳しくは知らなかったのでしょう。


「それじゃあ、エダンミールが支援してる連中は、その魔力供給機構を破壊したということ?」


 コルステアくんが確認を取るのに、クイズナー隊長が頷き返しました。


「恐らくそうだろう。古代魔法の装置は、今の魔法ではどれ程出力強化しても壊すことは出来ないだろう。」


 そのクイズナー隊長の解説にも納得です。


「同じく、今の古代魔法の威力でも昔の装置の破壊や分解などとてもではないが出来ない。」


「ふうん。ロストテクノロジー的なものなんですね。」


 感心してそう漏らしていると、何故かクイズナー隊長とテンフラム王子が焦ったような顔を一斉に向けて来ました。


「だから!君は昔の装置を再現しようとか手を加えようとか、そういう怖いことはしないように!」


 かなりキツめに来た制止の言葉に、首を傾げつつ頷き返します。


「レイカのやることは、上積みの一般魔法による魔力供給機構の修復だからな!」


「はいはい。分かってますよ? そんなシステム構築とか得意じゃないですから、無謀なことはしませんって。」


 そう取りなしてみますが、何故か2人の表情は晴れずに眉間にシワが寄ったままです。


 何でしょうかこのカケラも信用がないのは。


「その魔力供給機構自体も相当複雑で計算し尽くされたものみたいだからね。正直エダンミールが幾ら魔法研究が盛んな国だとは言っても、そう簡単に組み直せるとは思えない。だから、まともにやれば君に利がある筈だ。」


 その見立てには少しホッとするような気がしました。

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