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「私は、我が君の魔力を貰って契約した魔人なんですよ? 聖なる魔法で身体サイズの穴くらい、還元魔法で簡単に作れますよ?」


 そういえば、魔人っていうのは、契約した主人の能力をそっくり使えるようになるんでしたね。


「う! まだまだ! トルネードスクリュー!」


 適当な呪文を声高に唱えつつ、水差しの中の水を高速回転噴出でノワにぶつけます。


「魔法無効化結界発動!」


 と、コルステアくんの呪文が割り込んで、手の上の魔石の周りに風船のように綺麗に広がった結界が出来上がりました。


 そして、ジェット水流を逃れた途端にその中に囚われたノワが、コルステアくんの魔石を持つ手とは反対の手で摘み上げられています。


「おねー様、これ、潰していい?」


 ごくごく当たり前のことを訊くように問われて思わず二つ返事で頷いてしまうところでした。


「あーえっと、確かに最早存在を許して良いのかって日々葛藤してしまうようなク◯魔人だけど、一応知識も知恵も能力もその辺に落ちてないくらいハイスペなんだよねぇ。中身が残念過ぎて残念過ぎて世界の反対側に飛ばしてやりたい気分だけど。」


「そんなことなら、即行で戻って来れますし、いつ飛ばして頂いても構いませんよ?」


 コルステアくんの親指と人差し指に挟まれて足をぶらぶらさせながら言うノワが、子憎たらしく感じるのは、きっと修行が足りないんでしょう。


「ん? コップの中で氷漬けくらいで許してあげようかな。ご主人様優しいし。」


「我が君?」


 ノワの声が初めて少しだけ上擦った気がします。


「アルプスの美味しい天然水生成。」


 先程コルステアくんから貰ったお水を飲んだコップに美味しい天然水が湧き出すように生成されました。


「コルステアくん、それ投入ね。」


 にっこり笑顔で結界ごとノワを掴んだままコップの上まで移動したコルステアくん。


「一生氷漬けになってれば? エロ魔人。」


 容赦の無い冷えた口調のコルステアくんには、何があったのかしっかり状況把握されてしまったようですね。


 それはそれで非常に恥ずかしいことこの上ないのですが、それでも何事もなかったように忙殺されて流されてしまうのは我慢ならなかったんです。


 そのままコップの中に落とされるノワを眺めつつ、魔力を練り上げて凍結魔法を思い描いたところで、引きつった顔のノワがフッと姿を消しました。


「あ、逃げた。」


 コルステアくんの残念そうな声に溜息を吐いておきました。


 まあ、流石に身の危険を感じたらシステムに逃げますよね?


 これで少しは懲りてくれるといいんですけどね。


 まあ、期待してませんが。


 そんな訳で、ノワとの話しもついたところで次と目を向けた先で、他3人の三者三様な様子が目に入りました。


 微妙に羨ましそうなバンフィードさんと、クイズナー隊長はいつもの呆れ顔です。


 テンフラム王子は何やら考え込むような顔をしていましたが、ふと顔を上げました。


「いや、あんなチビに、ちょっと掠ったくらいのものだろう? 虫に刺されたくらいに思っとけば良いんじゃないのか?」


 何を考えていたかと思えばそれですか。


「精神体だったので、等身大でしたけど? う、コルステアくんお姉ちゃんもうお嫁に行けない。」


 よよ、と泣き崩れるフリをしてみましたが、クイズナー隊長の目が冷たくなっただけでした。


「まあ良いじゃないですか、そうなったら私が一生お側でお守りしますから。」


 微妙に嬉しそうな顔になったバンフィードさん、そうじゃないですよ?


「は?あんたには魔力見の姫がいるでしょ? おねー様は僕とロザリーナと一緒にずっと暮らせば良いよ。実家出てもおねー様とロザリーナ養いながらそこそこの家を用意して暮らして行くくらい出来るからさ。」


 いや、コルステアくんもおねー様養わなくて良いですよ?


「そんなに嫌だったなら、やっぱり上書きしてやろうか?」


 テンフラム王子はその妙な気遣い要りませんから。


「はあ。とにかく、倒れる前というか、倒れてる間? 何があったか話しますね。」


 気を取り直して話しを進めていくことにしようと思います。


「あの古代魔法陣は、誓って起動させようとして中に入ったんじゃないんです。コルちゃん追い掛けて入ったところで、私から出てる余剰魔力に反応しちゃったみたいで。」


 とそこまで説明してから、ふとコルちゃんと猿の魔物クワランカーのことを思い出しました。


「そういえば、コルちゃん知りませんか?」


 そう問い掛けたところで、部屋の扉にバンッと何かが思いっ切りぶつかる音が聞こえて来ました。


「キュウッ!」


「キーィ!」


「わ、待て2匹共! レイカさんが寝てるだろ!」


 コルちゃんと未確認物体とケインズさんの声が聞こえました。


 と、凪いだ目のクイズナー隊長が扉に向かって行きます。


「ケインズ、入れて構わない。」


「え?」


 短く許可を出したクイズナー隊長の傍をすり抜けて、タッタッタッと足音が近付いて来ます。


「ついでだ、君も入りなさい。起きたみたいだからね。」


「えっ!?」


 ケインズさんが驚いた声を上げてから、部屋の中に足早に入って来ました。


「レイカさん!」


 ベッドが見える場所まで来てから、呼び掛けてくれたケインズさんですが、こちらを見ながら痛ましそうな顔をしています。


「あの。おはようございます? ただいま帰りました、かな?」


 言葉を選びながら返事をすると、ケインズさんの顔がますます歪んだような気がしました。


「・・・良かった。無事に戻って来てくれて。レイカさんを縁取る魔力が凄く頼りなく弱くなってて。凄く心配した。」


 成る程、中身が飛び出した身体には、身体を維持する最低限の魔力しか残っていなかったのかもしれません。


 ケインズさんには、それが見えただけに余計に心配させたのかもしれません。


「ご心配お掛けして済みませんでした。」


 素直にそう謝っていると、ポスンと布団の上に飛び乗る軽い足音が二つ。


「キュウッ!」


「キーィ!」


 左右から聞こえた鳴き声に、ささっと視線を巡らせて、コルちゃんの頭の後ろを撫でつつ、猿型魔物にマジマジと目を向けてしまいました。


 何故か出会い頭の血走った怖い目付きはなくなって、つぶらな瞳の可愛いぬいぐるみのお猿のような顔付きになっています。


「えっと、何で付いてきてるの?って、訊いても無駄だよね。」


 肩を落としつつげんなりと溢すと、コルステアくんが頭をなでなでしてくれました。


「おねー様、子分増やすのはここまでにしなね。飼育が大変になるからさ。」


 何気について来ることを受け入れてしまっているコルステアくんには、じっとりした目を向けてしまいます。


「うっ。何でコルステアくんまで受け入れてるの? てゆうか、どうするのこの猿。」


 嘆き節に入ったところで、クワランカーがうるっと潤む目でこちらを見上げて来ます。


「そんな顔して絆されるのは、小型犬だけの特権です!」


 と、クワランカーがそおっと頭を擦り寄せて来ます。


 思ったよりもふわふわの頭毛の感触が・・・堪りません。


「はあ。ま、まあ、逆らっても無駄よね? えっと何て呼ぼうかしら? ここは、お猿のジョ・・・」


「我が君!」


 あちらの世界でかの有名なモノマネ小猿の名前を口にしようとした途端、消えた筈のノワが現れました。


「あ〜手遅れでしたか。」


 言って小さな手を額に当てるポーズをするノワに微妙にムカつきます。


「ここは、ジョですから、ジョアン? ジョセフィーヌ? ジョルジュ? ジョン?」


「・・・それは犬っぽくない? てゆうか、名付けなの?その手遅れって。」


 半眼で問い返してしまうと、ノワにはキョトンとした目をされました。


「はい? 他に何かありますか? 安直で安易で適当な名付けしか出来ない我が君を、これでも私は案じているんですよ?」


「へぇ、案じてると。なんか大きく出たよね? さっきの話しの続きしようか?」


 更に冷たく続けるこちらに、ノワが良い笑顔を見せました。


「いいえ。先程の件はもう既に、時効です。」


「ふうん?誰が決めた?」


 プチプチと怒りを殺しつつ問い掛けると、ノワはまた更に押しの強い笑みを深めました。


「我が君、それより早く猿に名前を付けてあげてから、王子様のことを報告した方が良くないですか?」


 確かに、クイズナー隊長の視線がそろそろ本気で痛いです。


「分かった。それじゃ、あなたのことはこれからジャックって呼ぶからね?」


 猿の魔物クワランカーに向けてそう告げると、ジャックは手を握り合わせて嬉しそうにキーィと鳴きました。


「え? 何故? 豆の木でも登るんですか?」


 ノワが呆気に取られたような顔になったので、これはこれでしてやったりですね。


「木登り得意だし、良くない?」


 そう答えてドヤ顔で流しておくと、何か納得出来ない顔でノワが溜息を吐きました。


「またそうやって適当に。」


 ノワの中ではこれだけはどうしても許せないところなんでしょうね。


 とはいえ、この話はもうこれで終わらせて、今度こそ話しを進めようと思います。


「クイズナー隊長。私、古代魔法陣の中にいた魔人さんに魔力を捧げて一度きりの契約を交わして、精神体で王都に行って来たんです。」


 これには凡その予想が付いていたようで、周りから納得の頷きが来ました。

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