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石礫サイズの隕石が大気圏突入して降り注ぐ映画、映像としては色々見たような気がします。
テーマパークのアトラクションとかで、乗り物が勝手に回避してくれるスリル満点なやつなら、結構好きでした。
確かにそれは認めます。
なんとかランドとかなんとかスタジオとか、好んで行った方です。
が、それをリアルに体験する機会なんて欲しくなかったです。
しかも、昨日までの逃げるしか回避方法がないからと、手加減されていた攻撃とは違い、今日のは確実に当てて来るつもりのある容赦のないものでした。
本当に殺すつもりですよね?
恨めしげに睨む先には、絶対に楽しんでいる様子の腹黒王子の姿が。
「何でも良いから、撃ち返して来いよ。多少でも反撃しないと、死ぬぞ?」
あ、やっぱり顔がにやってますね!
ドSで腹黒でパワハラなって、修飾が多過ぎで面倒臭いですよ。
この人、普段ストレス溜め過ぎなんですかね?
それを一気にここで発散するのは是非やめて欲しいです。
残念ですけど、そんなの受け止めてあげられませんからね!
という訳で、大人しくやられっぱなしになっては堪らないので、効果的反撃をしてみることにしようと思います。
早めの訓練開始で、魔法訓練に参加している人もいつもよりぐっと少ないので、科学の実験的に楽しんでみる事にしましょうか。
折しも今日は晴天で、ヒートアップしていく王子の火の玉はどんどん大きくなる傾向です。
散水ホース噴射でセコく防ぎつつ、訓練場真ん中には良い感じで水溜りが出来ていきます。
王子様、火の魔法が好きなのか得意なのか、途中から火の魔法ばっかり繰り出して来るようになりました。
ゆらゆらと水溜りから立ち昇る陽炎のような水蒸気。
はっきりと目には見えませんが、上昇気流に乗って上に押し上げられているんですね。
こっそり上に向かって風吹かせてますから。
こちらが王子の魔法防ぐ他に魔法使ってるのは悟られてるかもしれませんが、何をしているのかは分からないでしょう。
極小で良いんですよ、この際。
目にもの見せてくれますよ!
おっと狙い通り上空低めにモヤモヤと発生し始めたのは、雲ですよ。
「余所見とは余裕だな! こそこそ何を企んでる?」
王子様が良い笑顔で楽しそうに火力底上げの火球を放って来てくれます。
あ、これは散水ホースでは防ぎ切れませんね。
因みに、腹黒王子にだけは企んでるとか言われたくありませんね。
水を急速冷却掛けて、氷の塊にしてぶつけます。
言っときますが、華麗にレイナードが放つ魔法ですが、ちょっと頑張ると少しだけ身体が怠くなって身の内から何かをガリガリと削られるような喪失感を味わいます。
これ、何処までやっちゃって大丈夫なんでしょうか。
命削ってたりしたら、怖いですよね?
火の玉と氷の塊が相殺されたところで、上空にはっきりと影が差して、ポツリポツリと。
王子様が驚いたように目を上げてます。
超局地的な雨が王子様とレイナードの上だけに降り注いでます。
魔法結界があるからこその科学実験ですよ。
少し何か警戒するように眉を寄せた王子様でしたが、気を取り直して、また火球を投げて寄越すことにしたようです。
こちらも丁度良く打ち消す程度の水魔法を繰り出してモヤモヤが上空へ昇っていくお手伝いをします。
おっと良い感じに雲が縦に厚みを増してます。
小さな小さな雷雲の出来上がりですかね。
放電現象が始まりました。
さて、仕掛けは良いとして、どうやって絶縁しましょうか。
足元の水溜り、落ちたら通電しますよね。
訓練場に人影は、と。
あ、皆様身の危険を感じて訓練場の柱の外に避難なさってますね。
それはよしよし、として。
王子様、雷魔法に効く完全結界とか、張れますよね?
「お前・・・。」
王子様の引きつった顔、事態を悟りましたね。
まあ、こちらは風操って訓練場から逃げるとして。
「今朝の事、まだ根に持ってたのか? 脳天に雷魔法を落とすとか、冗談に決まっているだろう。小さい奴だな。」
その一言に、後の事を気にしてあげる気持ちが萎えました。
「じゃ、そういう訳で、後はご自分で何とかなさってくださいね〜。」
にっこり笑顔を残して風魔法を華麗に展開しようとしたところで、あちらも黒い笑顔の王子様に瞬間移動の速さでがっちりと抑え込まれました。
「へぇ。連れないなぁ。団長1人残して敵前逃亡とは、罰則対象だな。これが、あくまで自然現象だったとしての話しだが。万が一王子を相手に意図的なものだったりしたら、反逆罪で処刑ものだな。」
「やだなぁ。第二騎士団の団長もお務めの王子殿下なら、たまったま訓練中に自然発生しちゃった雷防ぐ完全結界の一つや二つ、簡っ単に張れちゃいますよねぇ。」
引きつりまくりの笑みを貼り付けて訊いてみますが、何故そこ、無言なんでしょうか。
あの、雷の直撃受けても髪の先が焦げて済むのは、アニメのキャラだけですよ?
身をもって体験とか、謹んでご遠慮しますからね?
脳内で若干パニクりながら見上げた王子様は、深々と溜息を吐いてくれました。
「つまりお前は、子供の頃に公園を更地にしてから、全然成長してなかったということだな。」
ボソッと嫌な事言ってくれましたよ、この人。
あ、心の奥底からザラっと嫌なものが迫り上がって来る感覚が来ました。
その上、上空がピリピリし出しました。
これ、本当にヤバいやつです。
泣きたくなってきたところで、またいつかみたいに自分の意思に反して身体が動きます。
まず王子様の身体を押し退けてから、上空に向かって手を出します。
そして、身体からごっそり何かが抜けていくような感覚と、真っ直ぐその手目掛けて落ちて来る光。
吹き飛ばされる程の衝撃を抑え込むのは、身体にブレるように重なりながら透けて見えるレイナードで、ふとこちらを振り返って微笑むその顔は、何故か女性化してました。
え? と、不本意な気分で突っ込みを入れようとしたところで、急激な脱力感と共に、意識が飛びました。




