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「マルキス大神官!」


「クイズナー隊長!」


 扉が開くと共に飛び込んで来たアダルサン神官とナッキンズさんがそれぞれ呼んだ相手の元に向かって行きます。


 何かあったようですね。


「メルビアス公国の騎士達が遂に踏み込んで来ました。公女殿下の引き渡しを求めておられますが。」


 そう報告するアダルサン神官の言葉が聞こえて、そう言えばパドナ公女の姿がないことに気付きました。


「先程様子を見て来たが、公女はもう少しだと粘っているようだったが。」


 テンフラム王子がアダルサン神官に返してからこちらに目を向けて来ました。


「別室でお前の魔力を徹夜で織ってたんだ。よく分からんが、何かとんでもないものが出来上がりそうな予感がしたが?」


 言われてから、あ、と後悔の念が浮かんだりしました。


 魔力を流し込んで結晶化したダンプラルドの心臓で作られた魔石があれだけ訳のわからないとんでもない代物になったことを考えると、その魔力織りで作られたものも何に化けるのか物凄く怖いかもしれません。


 と、耳元でクスッと笑いが立ちました。


「我が君は、無自覚で色々やらかす人ですからねぇ。でも、今回のは当たり。いつかきっと役に立ちますから。」


 その意味深発言の中身も気になるところですが、アダルサン神官の報告を受けて、何か急速に動きがありそうな予感です。


「パドナ公女にとにかくお知らせを。」


 と、マルキスさんが話し出したところで、扉が少しだけ開いて滑り込むようにして入り込んで来たのは、そのパドナさんです。


「騎士団が踏み込んで来た? 時間ないわねレイカさん!」


 こちらに駆け寄って来たパドナさんですが、やはりはっきりとこちらの姿を確認すると驚きの表情になりました。


「凄い美少女だったのね! それより、呪いが解けて良かったわね! それからこれ!」


 一方的に捲し立てたパドナさんは最後にコルちゃんのツノの色に似た真珠光沢のあるレース編みの首飾りのようなものを差し出して見せてくれました。


「付けてあげるわね。」


 いうなりその首飾りを広げて頭に被せると、そのまま首まで引き下ろして装着してくれました。


 頭から被るネックウォーマーのような装着方法ですが、首の下で首飾りのように縮んで収まっています。


「わぁ。すっごく綺麗ですね! ありがとうございます!」


 触ってみると、物凄く指に馴染んで滑らかな触り心地です。


 真珠光沢でキラキラ虹色の光を弾くんですが、目に刺さるような光り方ではなくて、何か癒されるように気持ちになります。


「ああ、レイカさんをいつも縁取ってる魔力の色だね。」


 ケインズさんの呟きで、そうなのかと分かりました。


「ありがとうね、レイカさん。わたくし、これを織りながら決めましたの。迎えに来た騎士達と一緒に国に帰りますわ。」


「え? 良いんですか?」


 まだエダンミールや妹公女さんが何かしてくるかもしれないのに、本当に良いんでしょうか?


「ええ。付いていってもわたくしでは足手纏いになるわ。それに、解呪されてわたくしの魔力織りは戻ったのですもの。堂々と戦ってみせますわ。」


 パドナさんの中でも呪いが解けて魔力織りが出来るようになってから、心境に変化があったのかもしれません。


「本当に大丈夫ですか? また何かあったら、カダルシウスに逃げて来て下さい。それまでには色々綺麗に片付けときますから!」


 そう決意も込めて言い切ってみせると、クイズナー隊長には苦笑いされました。


「ありがとう。いざとなったら手があると思ったら、気持ちが楽になるわ。頑張るわね!」


 そう明るく言い切ったパドナさんは、真っ直ぐ前を向いて礼拝堂を出て行きました。


「さて、申し訳ないがあなた方にはパドナ公女誘拐の嫌疑が掛かっていて、公女と共に引き渡し要求をされている。ここで解呪の時間は差し上げられそうにないから、公女が正門に向かって目を引き付けてくれている内に、やはり山道に抜ける裏門から街を出られた方が良い。」


 マルキスさんからそう提案があって、これはそうするしかなさそうですね。


 そうなると、唯一の転移魔法の使用手段である伝紙鳥の修復魔法をマルキスさんに手伝って貰えなくなってしまいます。


「レイカ殿、結果として手伝えなくなってしまって申し訳ないが、代わりにこれを持って行きなさい。」


 マルキスさんが言いながら首から下げていた細身のチェーンを引き上げました。


 その先には、淡いピンク色に染まった直径5センチ長さ10センチ程の水晶柱が下がっています。


 かなりの重量じゃないかと思うのですが、マルキスさんは何でもないように首から下げていたようですね。


 手渡されて両手の平で受け取ると、思った程の重さは感じませんでした。


「マルキスさんの魔力の色ですか?」


 ふと聞いてみると、少しだけ目を泳がせてから渋々というように頷き返されました。


 ピンク色、嫌だったんでしょうか?


「使命が片付いてから、残った魔力が寿命に相当すると気付いてから、ずっと少しでも魔力を外に出そうと試みて来た。先代も試してみたと聞いていたから。」


 チラッとノワに目をやったマルキスさんに、ノワの方は苦い顔でそっぽを向いています。


「だが、余剰魔力を貯めただけでは消費とはみなされない。それに気付いてからは、取り出して貯めているこの魔力を他人の為に、他人が使える魔力に変換していくように力を加え祈りを込め続けたのです。是非、貴女に使って頂きたい。」


 そう真面目な顔で告げたマルキスさんに、黙って頷き返します。


 マルキスさんのこれまでの苦労や苦悩がぎっしりと詰まった、それはそれは重い頂き物かもしれませんが、確かにそれはこんな時にこそ使われるべきものなのでしょう。


「有り難く、大事に使わせて頂きます。」


 しっかり頭を下げて押し頂くと、首に掛けて服の下に入れておくことにしました。


「それじゃ、とにかく裏門に回ろう。」


 テンフラム王子の掛け声で、荷物を持って馬達をこっそり裏門に移動させての逃亡が始まりました。

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