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「黒幕は、やはりスーラビダンの双子の王子達の可能性が大だな。」


 皆さんでまた礼拝堂に入ってから報告会が始まりました。


 レイナードから聞いた公園更地事件の直前の双子の王子との出会いからの魔力暴走の真相は、クイズナー隊長を始め、カダルシウスの皆さんには衝撃だったようです。


 その上、サヴィスティン王子が実はラスファーン王子と契約した魔人だという話しもしておきました。


「そうなんですよねぇ。」


 テンフラム王子が複雑そうな声音で纏めてくれたのですが、実は少しだけ引っかかっているところもあります。


「やれやれ、面倒なことになったな。」


 そうぼやきながら、テンフラム王子がこちらに改まった顔を向けて来ました。


「お前が礼拝堂に篭ったきり、丸一日出て来なかったからな、朝から門の外でその双子の片割れのサヴィスティン王子が大騒ぎして、その対応にさっき行ってきたんだが。」


 話し始めたテンフラム王子の言葉に、ん?と首を傾げてしまいました。


「はい? 丸一日?? 私、出て来なかったんですか?」


 少しだけ焦ってそう返すと、皆さんに一斉に頷き返されました。


「時を止める代償は、こういう時に問答無用で帳尻を合わせて来るところですよ。」


 そうボソッと耳元で明かしてくれたノワですが、それは、マルキスさんと話してた時間やレイナードと会ってた時のことを言っているんでしょうね。


「えっ? それじゃ、破壊の決行はもう明日!?」


 何が焦るといって持ち時間が一日も縮まったのは想定外もいいところです。


「ああ。こうなったら神の奇跡でもなければ明日の決行直後には間に合わないだろうと思っていた訳だが。ダメだったんだよな?」


 テンフラム王子の問いに、苦々しく頷き返すしかありません。


「神の奇跡は起こりませんけど、異世界人の科学技術からの発想と魔法の合わせ技なら、不可能を可能とするかもしれません。」


 そう返してからテンフラム王子とノワに目をやりました。


「テンフラム王子、正直に答えて下さい。古代魔法に実現可能な転移魔法は存在するんですか?」


 何度か流されて答えて貰えなかった問いをもう一度出してみることにしました。


「・・・人が転移する魔法は確立されていない。ということになっている。」


「では、非公式に例えば禁呪の類としてなら存在するってことですか?」


 言い難いのは分かりますが、ここは第一級の緊急事態なので、しっかり追求させて貰おうと思います。


「いや、禁呪でさえない。理論は昔から存在して、幾度も実現に向けて試されていたが、成功しないのだ。そう、まるで神の許しが得られないからというように。」


 これには、残念感が拭えませんが、神様が許してくれないなら仕方がありませんね。


「じゃ、ノワ。あちらには高速移動手段がいくつかあるよね? あれをこちらの魔法で常識に捕らわれずに実現するならどんな方法が有効だと思う?」


「そうですねぇ。高速移動というと、自動車、新幹線、飛行機などでしょうか? でも私は魔法は門外漢ですよ?」


 すかさず答えてくれたノワですが、確かに魔法は聖なる魔法しか扱ってこなかったんでしたね。


「カダルシウスの王都から10日間、馬で一日想定40キロ前後走ってたとして、想定400キロ、直線距離ならもう少し短いかもしれない。」


「確かにそう考えれば、時速100キロの乗り物なら、4時間で戻れますね。ただ、動力の問題を魔法で解決出来るなら、ですけど。」


 結論はそこなんですよね。


「それに、乗り物にするなら、外装も用意しなくてはいけませんし、移動人数によって外装のサイズも変わって来ますね。」


 異世界から飛行機と燃料を召喚したら一発解決ですが、手動操縦と離着陸の出来る優秀な操縦士さんも必要ですね。


「高速にし過ぎると、制御が難しくなるから、風圧を防ぐ魔法で覆って目的地まで上空を真っ直ぐ飛ばすとして、ジェットエンジンかぁ。」


 細かい構造なんか分かる筈がありません。


「まあ、そういう夢物語は、全部終わってからゆっくり構想を練った方が良いですよ?」


 ノワの意見は尤もですね。


「何処かに抜け道がある筈。えっと、魔人は?どうやって移動してるの?」


「魔人は、世界のシステムに組み込まれた存在ですから、移動の際はシステムに一度入って、出たい場所に出るんです。」


 成る程という説明でしたが、システムの中に組み込まれている訳ではない人間には使えない方法ですね。


「二つの場所に扉を設けて、その間の実際の移動時間を聖なる魔法で操作するのは?」


「・・・物凄く怖いことを考えますね? やれたとしても、莫大な魔力を必要とすると思いますが、その辺りは何か考えていますか?」


 考えている訳がありません。


「単純に移動距離と速度を短縮した上で、時間操作は最低限に留めるとして。タイムリミットを決めましょうか。」


 言って、クイズナー隊長とテンフラム王子に目を向けました。


「テンフラム王子、決行は明日のいつか聞き出せていますか?」


「正午だと奴らは言っていたが。」


 こちらをひたと見据えるテンフラム王子は、何か説得しようとしているような顔付きです。


「悪い事は言わない。決行に間に合わせようとするのは諦めろ。」


 続いて来た言葉に、ズンと胸の上に重しを乗せられたような気持ちになります。


 と、クイズナー隊長もこちらに近付いて来て、ポンと頭に手が乗ります。


「レイカくん、1人で抱えなくて良い。これは、私や殿下自身や周りの皆の見通しが甘かったことが招いた事態だ。これからサヴィスティン王子を出し抜いて大神殿を抜け出し、最速で王都に戻る。戻ってから出来る最善を尽くそう。」


 気遣わしげなクイズナー隊長の姿が何故か霞みだします。


「おねー様は、良く頑張ってると思う。大神殿で解呪してくるっていう目的は達成したし。副産物として、これから王都で起こる事件の真相も黒幕も分かってる。それは、戻ってから敵を出し抜く材料に出来る。」


 コルステアくんからも優しい言葉が来ますが、やはり視界が滲んではっきりしません。


「マルキス大神官、公国側ではない方に抜ける街の出入り口は何処にある? そこも奴らに出入りを見張られていると思うか?」


 テンフラム王子がマルキスさんと大神殿をこっそり抜け出す方向で話しを進めだしていて、堪らない気分になって来ました。


 大神殿で神様と交渉して何とかすると言い切っておきながら、結局有効な手の一つも得られず。


 挙句にこうして皆に気遣われるだけというのは、情け無さ過ぎます。


 無限に落ち込んで行くような気がしました。

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