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 改めて周囲を見渡すと、少し離れた辺りで顔を覆って俯けたケインズさんにオンサーさんが何やら話し掛けています。


 鏡の持ち主ジリアさんと護衛の皆さんがこちらの話しが切れたと判断したのか、近付いて来ます。


「レイカちゃん、ちょっとヤバいよ? 予想以上だからね! フードは? 外出る時は被っときなね。」


 ジリアさんの心配顔に目を瞬かせます。


 確かに、頭の被り物と口元ベールはいつの間にやら外れていますね。


 多分、呪詛が解けたドサクサで身長調整やら髪色が入れ替わった時にずれ落ちたんじゃないでしょうか。


「礼拝堂の中に落としてきちゃったかな?」


「はい。我が君の可愛さは今の私のサイズでは隠しきれませんので、堂々と見せびらかして、周りが牽制し合うように仕向けようと思いまして。引っ張って落としておきました。」


 何故か肩の上で偉そうに上体を逸らして主張しているノワのことは、さっと片手で肩から払い落としておきました。


「その子は、魔人?」


 シーラックくんが小首を傾げながら訊いてくれましたが、これと契約したとは言いたくありませんね。


 ヤバい性格と発言も、公開されるとなると、人目のあるところではもう少し控えるように躾が必要かも知れません。


「仕方ないから拾ってあげた、元野良魔人。ノワって言うんだけどね。人格崩壊してるから、仲良くしなくて良いからね。シーラックくんとカランジュが汚れる。」


 と、いつの間にまたよじ登って来たのか、ノワが腕を伝って肩に戻って来ました。


「ちょ、我が君? 酷くないですか? こんなに頼りになるハイスペ魔人をつかまえて、人格崩壊者とか。閉じ込めてこ」


「ミニマム黙れ。」


 低い声の制止に、流石に殺気を悟ったのかノワのとんでも発言が止まりました。


「それが、イマイチ信用出来ないとか言ってた奴か?」


 ピードさんが少しだけ身を乗り出してノワを覗き込むように眺めています。


「あはは、そうですねぇ。」


 曖昧に笑いつつそう返しておくと、ピードさんが更にノワに険しい目を向けていて、そんなピードさんをノワの方も睨み上げるようにジッと見つめ返しています。


「我が君、美醜の観察眼もク◯なんですか? どうみてもケインズよりこの人の方がイケメン顔ですよ?」


 挙句にノワが溢したこの言葉に、ピードさんがギョッとした顔をしています。


「構ってなさそうな無精髭とボサボサの髪整えたら、我が君の次くらいには容姿でトラブル起こしそうなタイプですよ?」


「あのねぇ。もク◯って何? 整い過ぎた顔隠したいのとか当たり前じゃない、そっとしといてあげなさいよ。人並み容姿だったあっちでの私でさえ、騙されて失脚コース味わってるんだから。容姿の悩みって美醜に関わりはないんだからね!」


 とまあ割り切って話せるようになったのは、気持ちにはっきりと一区切りついたからでしょう。


「・・・男に騙されて失脚とか、爛れてんなぁ。」


 そんな引き気味な呟きを漏らしたピードさんには半眼を向けてやりました。


「失礼な。何を想像してるのか知りませんけど、髭剃って髪整えてあげましょうか?」


「・・・いや、ごめん。なんかさぁ、ちょっと親近感湧いた。色々悪かった。今度、周囲に埋没する外見の作り方、教えてやるな?」


 何故かほんわか肩を叩かれたのには納得出来ない気持ちが湧きましたが、良く分からない敵意を向けられるよりは良いのかもしれません。


「あーそーですね。ぜひー?」


 適当に流したところで、廊下の向こうから急ぎ足で向かって来る足音が聞こえて来ました。


 そういえば、廊下に待機してたのは全員じゃなかったです。


 護衛の皆さんの中のライアットさん、旅を共にしてきた神官のフォーラスさん、レイカの個人護衛を引き受けてくれているヒルデン伯爵令息のバンフィードさん、第五騎士団斥候班長のナッキンズさん。


 それからテンフラム王子と側近のザックバーンさんとパドナ公女も居ませんでしたね。


 その面々とマルキス大神官が戻って来たのが先程の足音だったようです。


「レイカは出て来たのか?」


 呼び掛けながら近付いて来るのはテンフラム王子ですが、皆様に囲まれているこちらを見た途端、流石に目を見張って足を止めました。


 とそこからの身体捌きが凄かったです。


 いきなり護衛さん達の間に割って入ったかと思うと、目の前で話していたピードさんを抵抗される暇もなく横に押し出して退かしてからの真正面確保でした。


「解呪、出来たんだな。」


 ジッと見下ろす視線が焦がされるように熱く感じるのは気の所為だと信じてます。


「ちょっと、離れて離れて、勝手に手を握ろうとしない!」


 ノワが肩の上から身を乗り出してそんなテンフラム王子に主張していますが、テンフラム王子から遠い方の手は、何故かもう握られていたりします。


「バンフィードさん! 貴方もですけど?」


 つい突っ込んでしまった視線の先で、反対隣をいつの間にかちゃっかり確保していたバンフィードさんが目を瞬かせていました。


「あ、すみません、つい。」


 そう言いながら、物凄く名残り惜しそうに手を離すバンフィードさんが、非常に寒いです。


「それで? 神様とはきっちり話しを付けて来たのか?」


 テンフラム王子の痛い指摘に、またもや乾いた笑いが浮かびます。


「えっと、神様的存在とは会えませんでしたけど、何故か私にとっては諸悪の根源なレイナードさんとは会えましたね。」


 そう仕方なく報告したところで、あれ?と思い出したことがありました。


「は! 私としたことが、諸悪の根源レイナードと会ったのに、腹にグーパン忘れてた! ちょっと大失態じゃない? いやでも、よーく考えたらあの身体元はといえば私だし。生まれた時から見て来た自分の顔にビンタは痛過ぎるとしても、腹にグーパンくらいやっぱ入れとくべきだったんじゃ? いやでもね?レイナードの事情に同情の余地もあった訳で。でも、レイカとしてのファーストキス!あれはダメでしょ!あの変態! 死ぬほど気持ち悪かったし! 解呪条件満たしてたとしても絶対許せん!」


 思わず思いっきり握った拳を振りかぶりそうになったところで、その拳をやんわりとバンフィードさんの両手で包まれました。


「危ないですよ? レイカ様のか弱い手が怪我をしますから。」


「上書き、してやろうか?」


 反対からはテンフラム王子が顎に手をかけて顔を近付けてきています。


 瞬時に全身にゾワっと鳥肌が立って、思いっ切り全身を左右に振りながら一歩下がって、2人の手を振り払ってやりました。


「気持ち悪い。こっちの世界はこんな人ばっかなの?」


 溢したところで、コルステアくんが割って入ってくれました。


「虫、付いてるならちゃんと仕事しなよ!」


 何故かノワに文句を言うコルステアくんですが、こちらを包み込んで抱き締める力がちょっと強すぎです。


 ちょっと苦しくなってきましたよ?


「弟の過保護が増したな。」


「あれは仕方ないだろ、庇護欲唆る要素しかない見た目だし。なのに色んなところに平気で噛みつきに行くからなぁ。」


「こっわ。どっかの病んでる奴に監禁愛される前に、健全な力ある庇護者に囲って貰うべきじゃない?」


 護衛さんの間でボソボソ交わされる解説が、本当に要らないです。


「ほっといて下さい。もーいーですから、色々分かったことの報告がてら、これからのこと、相談しましょう。」


 それは冷たい声音で言い切ってみると、漸く周りの皆さんから来る妙な空気が緩んだ気がしました。

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