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「こら! 馬鹿レイナード! 何でその話これまで誰にもしなかったのよ!」


 思わず大声で詰ってしまうと、少しだけ拗ねたような顔で横を向いたレイナードがぽそっと返して来ました。


「あの後、多分魔力に細工されて、魔力暴走で公園を更地にする事件を起こしてしまったから。それから大人達に何かを言っても信じて貰えなくなってたんだ。そもそも私は魔力が多かった所為か、幼い頃から自我がしっかりしてて、時々思ったことを口にすると周りの大人にギョッとされることが多くて。記憶力も他人よりかなり良いらしいというのも早い内に気付いていたし。そして、そういう特異なことを表に出すと、大人達が過剰に警戒することにも気付いてしまったから。」


 こう聞いてしまうと、これまでの色々が繋がってくる気がしました。


「まあそれは、ちょっと仕方なかったところもあるかもしれないけど。それでも、私相手には違ったよね? 担当者変更の際の業務の引き継ぎ、申し送り事項の確認は、必須だって学ばなかった?」


 と、今の彼がピンと来るビジネス用語に置き換えると、あっ!という顔をしました。


「そうでした。ゴメンナサイ。」


 しっかり日本人サラリーマンが板に付いてきた様子のレイナードにはうんうんと頷き返しつつ、こちらは深々と溜息です。


「どう困ったことになってる?」


 レイナードが申し訳なさそうな顔で問い掛けて来るのに、もう一つだけ溜息を吐いてから、目を上げました。


「その双子が暗躍してて、王都の守護の要を2日後に破壊予定。その後、大慌てのカダルシウスの支援をエダンミールが親切顔で申し出て、属国化する計画を立ててるのよ。」


 さっくりと要点を説明すると、レイナードは流石に驚いた顔になっていました。


「ええ? どうやって? というか、君が手を貸さなければ実行出来ないでしょ?」


「それが、王都を逃げ出した私の身代わりを用意出来ちゃったのよ。ただし、守護の要の完全破壊は寵児のマユリさんが阻止するんだけどね。」


 少し難しい顔になって話しを聞いてくれるレイナードですが、本当に何で最初から事情説明してくれなかったのか残念過ぎますね。


「異世界から来た子だね。一度、何故か私の部屋にいて、誘拐嫌疑を掛けられた。あれがあったから、もう危ないと思って禁呪を使うことにしたんだ。」


「あ!それだ。貴方に禁呪の載ってた禁書を見せた人って誰?」


 そうでした、これは絶対に聞いておくべきことですよね!


「ああ。王城魔法使いのミルチミットだ。嫌な奴だったよ。自分は若い頃エダンミールで魔法を学んで来た魔法研究の第一人者のように振る舞って、私がスーラビダン王族の末端だから古代魔法を使える筈だからと、しつこく古代魔法の書物に目を向けさせようとしてた。」


 嫌悪の滲む口調のレイナードには、余程嫌な思いをした相手だったのでしょう。


「寄ってくる魔法使いには、お父さんが制限をかけてたんじゃなかったの?」


「そうなんだが。私も社交の場に顔を出さなければならない年頃になってからは、そういう場にさり気なく自分の子飼いを紛れ込ませて、あの手この手で引っ掛けようとしてきてね。だから私もこの容姿を利用して、女性達の中に紛れ込んで、彼女らの関心ごとを学び話題を共にして、ただしどんな女性にも分け隔てなく優しく接して、決してだれとも親しくなりすぎないように細心の注意を払った。そうやって無粋な魔法の話しをするような奴らとは距離を置いていると、囲む女性達もある程度意図に気付いて匿ってくれるようにもなったしね。奴らの情報を入れてくれるようにもなった。」


 レイナードが社交界の女性達に人気だったことと、何をしていたのか漸く分かりました。


「それで、レイナード様って黄色い声を貰うキャラになったのね。ロザリーナさんは良かったの? 大事にしてたんでしょ?」


「・・・ロザリーナか。そうだね。引き篭もりの根暗だった私の元へ凝りもせず通ってくれて、いつも明るく楽しそうに話して帰って行く。彼女が来るだけで陽だまりの中にいるような気分になれた。感謝している。だからこそ、私との婚約が流れて将来有望なコルステアと婚約し直すことになって、心から良かったと思う。あのままの私では、彼女を幸せに出来なかっただろうから。」


 少しだけ寂しそうな声音が覗いたレイナードのことは、帰ったらロザリーナさんに伝えてあげようと思います。


「まあねぇ。コルステアくんは結構ロザリーナさんのこと好きそうだもんね。何だかんだで、あの2人も上手く行きそうな気がするよ?」


「・・・そうか。その、コルステアは君に突っかかって来なかったか?」


 漸くそういう細かいことにも気が回ってきたようですね。


「それはもう、最初の頃はツンツンと。それが可愛くって。でも最近つくづく思うんだけど、レイナードさんと入れ替わって良かったなって思うことも増えて来た。可愛いコルステアくんが弟になったこととか。パワハラ上司だと思ってたシルヴェイン王子が実はすっごく面倒見が良い格好良い人だって分かったこととか。外も中もイケメンなケインズさんと仲良くなれたことも。他にも色々。」


 ここはもう、認めてあげなきゃいけませんよね?


「だからね。今から仮に元通りになろうって提案されたとしても、返してあげられないかな? 私、こっちで頑張って生きて行くことに決めたから! だから、貴方はあっちで精々苦労しながら頑張って生きていきなさいよ! それから、私の大事な親友泣かすなよぉ!」


 冗談めかして締め括ると、レイナードが少しだけ目元を潤ませたようでした。


 それから徐にグイッと前に出て来ると、ギュッと抱き締められました。


「やっぱり、レイカ貴女は私の救世主。愛しい人だ。」


 言うなり後ろ頭に回った手に頭を持ち上げるように押し出されて、少し上体が離れたと思った途端に柔らかな感触が唇に当たりました。


「は? ま?」


 意味に成り損ねた言葉が解放された唇から漏れました。


「ちょっと! やめてよこの浮気者! しかも元自分とキスとか、絶対に嫌〜!!」


 生理的な嫌悪感に身震いしてしまったところで、ふっと笑ったレイナード(怜樺)の姿がぼやけ始めます。


「え? ちょっと待った! 神様と交渉は?」


 慌てるこちらに応えて貰える様子はありません。


 ここはもう、言ったもん勝ちだと思い込むことにしますよ!


「私の総魔力の半分を聖なる魔力に固定して、破壊される筈の王都の守護の要の修復に注ぎ込む。完全修復完了まで10年、魔力を遠隔で供給し続けられるようにすることと、修復完了と共に私の中の聖なる魔力は消失させること。」


 ドンドン続けますよ!


「私がイレギュラー救助しちゃった人達に引き続き生きて行く権利を。そして、生きることと引き換えに魔人になった元寵児達に恩赦を。消えたいモノには消える権利をあげて欲しい。それから、役目を終えた寵児達にも残った聖なる魔力を手放す機会を。世界運営にコンサルが必要なら別途雇いなさい。異世界から連れて来た人間を荒遣いし過ぎだからね!」


 何とかねじ込んで言い切ったところで、目の前に前足を揃えて座った姿勢のコルちゃんの姿が見えて来ました。

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