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 コツリと革靴が硬い地面にぶつかる音を立てながら近付いてくる人影は、ダークカラーのスーツをパリッと着こなしているようです。


 背丈は威圧感を感じる程は高くないのに、無音の空間に存在感だけを半端なく感じます。


 何処か覚えのあるような質感とはねグセのあるの黒髪は短くカットされていて、その前髪の下から現れた顔は。


「あ!」


 何度か夢の中に一方的に出てきた時とは違って、今回はこちらの上げた声が通りました。


「ああ、久しぶりだ。また会えるとは。」


 そうこれまた聞き覚えのあるような声質の覚えのない低い声か掛かりました。


「久しぶり?というか実は初めましてじゃない? レイナードさん。」


 それに市井怜樺男性バージョンのレイナードが一瞬だけ戸惑い顔になってから、ふっと表情を崩して笑いました。


「そうか。最近は怜樺くんとか市井くんとか呼ばれてるから、本当はそういう名前だったことは忘れてたな。」


 その何とも幸せそうな笑顔に、微妙にイラッと来るような気がしながら、溜息を溢して流しておきます。


「はあ。なんか知りませんけど、お幸せそうで羨ましい限りで。」


 途端に真顔に戻ったレイナードが訝しそうにしながら近付いて来て、上から覗き込んで来ました。


「君は、どうしてまた性別が男になってるんだ? それに、入れ替わりでそちらでの問題は解決されなかった?」


 そう簡単に返して下さったレイナードさんをこれは睨み上げてしまいました。


「全然。何も解決してないっていうと語弊があるけど、問題の根本解決は全くしてないよ? あ、因みに男に見えるのは呪いの所為ね。あれから事情説明してこっちでもちゃんと女の子認定してもらって、貴方のお父さんの娘として届け出て王家に認められてるから。」


「そうか。性別と君自身を父や国に認めて貰えたなら、一先ず安心だな。名前は? レイナードではないだろうから、レイカと名乗ってるのか?」


 ホッとした感を出しつつにこにこと話しを続けるレイナードさんですが、根本解決してないって言いましたよね?


「まあ、レイカルディナって、お母さんの名前を繋いで付けてもらって、普段はレイカって名乗ってる。ランバスティス伯爵家の皆さんは良い人達だけどね?」


 これにも目を細めてうんうん頷いているレイナードさん、万事解決したみたいな満足顔ですが。


「それじゃなくて、魔王問題! 私の魔力量貴方に合わせて量増しされてるから何も解決されてない上に、起こるべき事件は中身を微妙に変えつつも、やっぱり起こってるんだよね。」


 訴えてみると、また少ししゅんとしたような眉下りの困った顔になりました。


 その顔が、親戚一イケメンと言われていた叔父さんに似てるとか、絶対に認めませんからね!


「そもそも、レイナードさんは何で中身入れ替えをしてまでこの身体とこっちの世界から逃げ出したんですか?」


 これはレイナードに会う機会があったら是非確かめておきたいと思っていた、今となっては一番の疑問でした。


「うーん。それはなぁ。昔小さい頃に、魔力暴走で公園を更地にした事があって、その時というか直前に会った何処かの国の王子様に、嫌なことというか妙なことというか。とにかく、その頃言われたことを回避しなくちゃいけないって強迫観念みたいに思ってたんだ。」


 その要領を得ない説明の中にチラチラ出て来るワードが琴線に引っかかって寒気がして来ます。


「えーと正直になろうかレイナードさん。その時の出来事、覚えてること全部話して。」


 尋問のようになりつつ促すと、レイナードは顎に手を当てて思い出そうとするような顔になりました。


「3歳の頃だったと思う。王都のマルクオール公園を家族で訪れていて、私は家族や家の者達を振り切って駆け出して、軽く迷子になってしまったんだ。何か心惹かれるものが目の前を掠めて飛んで行って、それを追い掛けて駆け出したんだと思う。」


 難しい顔で思い出し思い出し語るレイナードの言葉に、段々と嫌な予感がして来ます。


「その先で、仲良さげに支え合うようにくっ付いている良く似た2人の男の子達を見たんだ。身なりが良くて、私よりも少し年上そうで、具合が悪そうな1人をもう1人が気遣うように呼び掛けて口にしたのが、王子という言葉だった。」


 脳裏に浮かんだのは、何処ぞの大国の双子の王子様の片割れの姿でした。


「当時の私にもその2人の間に妙な魔力の流れがあるのは見えていて、ただ当時はそれが魔力だとは気付いていなかったから、変な紐で繋がってるとしか分からなかった。しかも、凄くトゲトゲした嫌な感じのする魔力の流れだったから。痛そうな茨が付いてて可哀想、取ってあげようか?と口にしてしまったんだ。」


 途端にマドーラに入る時見たサヴィスティン王子の憎々しげな顔が浮かびました。


「今にして思うと、あれは彼ら2人を循環していた魔力だったのだろうけど、恐らく出どころになっている子の方が嫌々流している魔力だったんだろう。だから、あれ程尖った魔力になっていて、恐らく送り込まれた方は何らかの被害を受けていたんじゃないかと思う。」


 その説明にピンと来なくて首を傾げてしまいました。


「循環し合わないと生きていけないんじゃなくて?」


 双子の王子はそういった存在だったと聞いていましたが、実際は何か違ったんでしょうか?


「うーん。その一回しか見ていないからはっきりと今言い切れるか分からないけど、あれは一巡りしたところで切ってしまえば、それぞれの魔力として定着して終わりだったんじゃないかと思う。それぞれを満たしてる魔力は、ひと1人生かすのに充分な魔力だったし、等分しても両方とも魔法使いを名乗れる程の魔力量に落ち着いたと思うんだが。」


 この説明には首を傾げるばかりです。


「えっと?それで? 取ってあげようかって言ったら?」


 レイナードはここでちょっとだけ苦笑いしました。


「具合の悪そうな子が物凄く怒ったんだ。循環する魔力がもっと尖って、もう一人の子が凄く痛そうな顔になってた。それなのに、もう一人の子に私を懲らしめるように言ったんだ。」


 この説明と、魔人だったサヴィスティン王子を並べると、良く分からなくなって来ました。


 魔力を与えて契約したのは兄のラスファーン王子で、身体が弱かったのはこの人の筈です。


 となると、今回の色々はサヴィスティン王子に無理やり色々させているラスファーン王子ってことでしょうか?


 それにしては、サヴィスティン王子がこちらを睨むあの憎悪は本物のように感じたんですが。


「泣きそうな顔になりながら魔力をこちらに向けて来たあの子の後ろで、具合の悪そうな子が言ったんだ。折角の成功品だから、完全に壊してしまわないようにと。魔法を使えるようになったら研究者共に凡ゆる実験の材料として与えてやって、用済みになったら、魔王に祭り上げてこの国の王都の守護の要を破壊する兵器に仕立て上げる予定なのだから、と。」


 流石に笑みの引いたレイナードの言葉に、こちらも顔から音を立てて血の気が引きました。

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