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 厨房に袋を持って入った途端、いつかの再現のように料理人達の視線がザッと集まって来ました。


「レイナード様! が何故?」


 これまたこの間も聞いた台詞です。


 そのまま料理人達が女の子を厨房の隅に引っ張って行こうとするので、時間もない事ですし、遮る事にしました。


「ここの責任者って誰だ?」


 女の子との間に身体を挟んで遮りつつ、発言です。


「はあ。私がここの料理長ですが?」


 恰幅の良い中年の料理人がどんと前に出てきます。


 その姿には流石に貫禄があって、相手がレイナードだろうが隊長の誰かだろうが、自分の城に文句は言わせないという威圧感を滲ませています。


 これには、少し嬉しくなってしまいました。


 こういう人なら、話を分かって貰いさえすれば、心強い味方になってくれる筈です。


 料理長は、女の子とレイナードに値踏みするような視線を向けてから、続けて畳み掛けて来ました。


「その子に対する処遇の話でしょうかね? 女の子なのに重い荷物を持たせるなとか?」


 いえいえ、やはり誤解しているようですね。


「レイナード様はその子を気に入って下さったのか知りませんが、その子は厨房の料理人見習いですからね。見習いの仕事に口を出されては困りますな。その子自身がレイナード様に取りなして貰うように言っているのなら、クビにすることを考えなきゃいけませんな。」


 途端に、後ろに庇った女の子の顔色が真っ青になっています。


 誤解は早めに解かないといけませんね。


「いや。荷物運びに文句を言ってるんじゃない。因みに、この子がどうとかも関係ないな。」


 そのまま料理長に歩み寄って、手に持っていた袋を差し出します。


 料理長は、訝しげにしながらそれを両手で受けとりました。


「それ、持って歩いて、何とも思わないか? 脇門からここまでその状態で運んで来るとしてだ。」


 言われた料理長は、少し考え込んだようでした。


「持ち難いことは、持ち難いでしょうね。」


 それが? と返して来る料理長に、小さく肩を竦めてみせます。


「他の料理人が持ってきた包みと比べてみたら?」


 一つずつヒントを与えるように口にすると、料理長は軽く眉を寄せたようです。


 他の料理人達も訝しそうにしながら自分の運んできた荷物に目を落としています。


「あいつは、わざとそうしてるって言ってたけどね。女の子の癖に料理人見習いなんて生意気だとか? それで料理長、貴方のこの城に所属の者がこんな風に蔑ろにされてる事を知ってたか? 彼女は、貴方がここに入る事を許した人材じゃないのか? 貴方の知らないところで、あの商人が彼女を蔑ろにする事を許して良いのか? ・・・それにな、あいつに蔑ろにされてるのは、本当にそれだけなのか?」


 料理長の顔色がさっと青ざめました。


 はい、これで本日のお話は終わりですね。


 そのまま厨房の出口に向かって、何とも言えない顔でこちらを見ているケインズさんが目に入ったところで、もう一つ思い出して振り返りました。


「もしも、何か困った事が出てきたら、いつでも声を掛けてくれたら良い。何と言っても、俺は第二騎士団ナイザリーク食堂改革責任者として殿下とトイトニー隊長から任命された身だからな。」


 にっこり笑顔でアピール完了です。


 ケインズさんが痛そうに片手で顔を覆って呻いたのは、見えなかった事にしようと思います。


 そのまま厨房を出て宿舎に向かって歩き出すと、ケインズさんの溜息が追い掛けて来ました。


「レイナード、お前な。」


 呼び掛けて来るケインズさんを仕方なく振り返る事にします。


「言っても無駄な気がするけど、一応言っておくな。」


 前置きしてから、ケインズさんは大きく息を吸い込んだようです。


「何処までも突っ走るつもりみたいだけど、あんまりやり過ぎるなよ。出過ぎる釘は、言いたくないけど思わぬところから打たれる事がある。殿下も隊長もお前に対しては割と甘いところがある。他の奴が同じことしたら、絶対に許されてない。お前に対するあれは、特別措置なんだからな! だから、それを超えるような事を仕出かすなよ!」


 言わずにはいられなかったのだろう。


 本当に良い人だ。


 だが、こちらは常に崖っぷちなので、今更躊躇う理由などない。


 色々と考えた末、好きにさせてもらうことにしたのだから。


 これでも一応、絶対に守るべき一線は設けて守っていますしね。


 ケインズさんには感謝を込めて微笑み返しておくことにしました。


 頷くでもないこちらを見て、ケインズさんは無駄を悟ったように肩を落としていました。


 ご苦労お掛けして済みませんね。

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