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 先代大神官として描かれた20代くらいに見える男性は、黒にダークグリーンのメッシュが嫌味なくサラッと入った肩上までの長さの髪と、パーツバランスが神がかった整った顔、光の加減で明るく見える赤みがかったダークブラウンの瞳が穏やかな色を浮かべています。


 名前はレンと書かれていますが、同時に日本語で蓮と表記されているのが見えますね。


「日本人だったかぁ。あのヤンデレ寄りチビ魔人。」


『我が君、何気に容赦なく酷いですよね? どうですか?大人の私はイケメンでしょう? やはり契約された暁には大人の私をお側に置きませんか?』


 いつの間にやら姿を現した指人形が肩にしがみ付きつつこちらを覗き込んで来ます。


「良く言うわ。絶対外見美麗補正されてるでしょう?」


『何を仰いますか、聖なる魔法で世界を救う英雄が不細工だったら興醒めではありませんか!』


 拳を握って力説する指人形にはドン引きです。


「・・・あんたのキャラが分からんわ。マルキスさんがあれだけ慕ってたレンさんは、品行方正な正統派美男子でしょ。それともこの肖像画が美化し過ぎ?」


『・・・長く生き過ぎると、段々本当の自分も善悪の境界すら分からなくなって来るものなんですよ。』


 そう返して来た指人形がこれは本音だと分かる言葉を溢しました。


 こちらも溜息を吐いて、そっと指人形の小さな頭を人差し指の先で撫でてみます。


「ヨシヨシ。なんか知らんけど、指人形が頑張って来た軌跡はこの肖像画にギュッと詰まって残ってる気がするよ? マルキスさんを救い上げて大神官として誇りをもってやっていけるまでに育て上げたのは、あんたの功績でしょ?」


 俯いた小さな顔は少しだけ赤らんでいるように見えます。


『そうじゃないかもしれません。私は、逃げ出したくなったのです。元から大神官の座にしがみついていたのは私で。そこだけが私に許される居場所のような気がしていました。ところが、そんな私を崇めるように見上げながら、一歩でも近付こうと上って来るマルキスが、いつからか私の全てを奪う者のように見え始めて、怖かったのです。』


 腕に額を当てて顔を隠すように呟いた指人形は、少しだけ肩を震わせているように見えました。


「まあ、そういう事もあるよね? リーマンだって、若手の台頭は中途半端な上司にとっては恐怖だからねぇ。ポストを守る為につまらない嫌がらせとかする人居るよ? でも指人形は、マルキスさんにそういうことは一切しないで、綺麗に譲り渡した訳でしょ?」


『・・・だから、逃げ出したんです。先達と同じく。それがどういうことになるのかも分かっていないままに。』


 漸く顔を上げた指人形は、目を潤ませていましたが、いつものおふざけとは違って真剣な縋るような瞳でした。


『マルキスから聞かれたのでしょう? 魔人は神もしくはそれに類する世界運行システムから高魔力保持対象の元に遣わされる監視誘導役だと。』


「まあ、指人形の当初の説明とはちょっと違ったよね? 魔人は本来魔力さえ貰えれば誰とでも契約するみたいな説明だったもんね? だから、私だけの為に遣わされた貴方は特別だって。」


 魔人が契約者から魔力を貰い続ける必要がある以上、他者に継続して魔力を与え続けられる魔力量の対象に絞られるとなれば、結果としては同じ事になるのかもしれませんが。


『私が他の魔人と少し違うのは事実ですよ。私は自ら望んで神の元を飛び出し、我が君だけを目指してお側に上がったのですから。』


「うーん? それは特別な事なの?」


 魔人の一般基準が分からないので、ピンと来ないですね。


『・・・我が君は、私以外の魔人を幾人か見たことがありましたね? アレらと私は少し違うと思いませんでしたか?』


「そーだね。確かに、指人形は色んな意味で自由な魔人だなとは思うけど?」


 ここは正直に、一番に感じたことを述べてみました。


『・・・我が君には負けますけどね。』


「あら珍しい。随分素直じゃないですか?指人形さん。ところで我が君は止めてって、出会ったばっかりの頃に言ったよ? レイカって呼んで良いから。」


 少し緩んだ空気にそう挟んでみると、指人形はふっと疲れたような笑みを浮かべました。


『いえ、止めておきます。貴女を名前で呼んで一線を引けなくなると、自分が惨めで哀れな魔人という存在だと忘れてしまいそうになりますからね。』


「うーん。貴方本当は物凄く根暗な思考回路の人だったのね。そっかだから気分の浮き沈みがあってヤンデレるのかも。あれはそう装ったんじゃなくて、偽りなく貴方の一側面だったのかぁ。怖いわぁ。」


 そうまぜっ返してみると、指人形にはふっと笑われたようです。


『では、もっと正直になりましょうか。我が君の眩いばかりの前向きな行動力には心惹かれています。そうやって他人を振り回す癖に、他人を慮る優しさも。閉じ込めて独り占めしてしまいたい程に。でも、閉じ込めてしまえば貴女は壊れてしまうくらい脆いところもあって。だから、もしも私が魔人というつまらぬ存在だということを忘れてしまったら、貴女に手を伸ばして、思いっきりこの腕の中に抱き寄せて、形の一欠片も残さないように力を込めて轢き潰してしまうでしょうね。愛ゆえに。』


 ここで全身にびっしりと鳥肌が立った上に腰が退けかけたことは内緒です。


「ふうん? ミニマムなのに?」


 少々冷たい声音でそう言ってみせると、指人形はふっと目元を緩めて微笑んだようです。


『そこで抜いて来ますか? そんな貴女が好きですよ、レイカ。もっと早くに、私が壊れてしまう前に出会いたかった。』


 そう言って目を伏せた指人形は、ふるっと頭を振ると、改まったようにまた顔を上げました。


『それでは我が君、戯言はここまでとして、本題に入りましょうか。』


 そう口にした指人形は、肖像画の中の人を彷彿とさせる何処か凛とした佇まいに見えました。


『先程もご説明しましたが、私は神が派遣を決める前に、自主的に我が君の元へ降りて行ったので、我が君と神を繋ぐ仲立ちをする事が出来ないのです。ですから、少々強引にでも、我が君がマユリ殿の使命に巻き込まれる前にここまで導くことに致しました。』


 そうはっきりと言い切った指人形は、腹を括ったのか、このところの躊躇いがちな様子が形をひそめたようです。


「まあ、今色々知った後なら、それも仕方ないことだったのかもしれないって思うよ? だけどごめん。丁度良いからってシルヴェイン王子にレイナードの役割を擦りつけたのだけは、人としても私個人としても承服出来ない。だから、ここを出てからの私の最優先はシルヴェイン王子を助けることだから。」


 これだけは譲れなくて、かなり語気を強めて言い切りました。


『承知致しました。』


 あっさりと返して来た指人形の言葉には感情は感じられなかったので、こちらの譲れない主張が受け入れられたのかどうかは微妙ですね。

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