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「結果として、レイカの解呪だけがメドが立たずになったな。」


 テンフラム王子の纏めに確かにガッカリしたのは事実ですが、それどころではない気持ちの方が強いかもしれません。


「そうですね。この旅の途中から何となくそうなるんじゃないかと思ってましたけど、これはもう最悪長期戦でも仕方ない気がして来ました。」


「・・・本当に、それで良いのかい?」


 クイズナー隊長の気遣うような台詞に、苦めの笑みを向けてしまいました。


「まあ、良くはないかもしれないですけど、ここはもう殿下を助け終わってからでも良いかなって。それに、それよりもう一つの用件の方が今となっては大事なので。」


 神様との対話だと信じているクイズナー隊長はこれまた気遣わしげな表情です。


「そうかもしれないね。助けにはなれないが、君にとって上手く行くことを祈っているよ。」


 何だかんだと、旅の間中クイズナー隊長には叱られてばかりでしたが、しっかり面倒も見て貰ってましたし、折りに触れて気遣っても貰って来ました。


 異世界人の血が入っているクイズナー隊長とは実はルーツが近いのかもしれません。


 そう思うと前よりも身近に感じるような気がしてきました。


「マルキス大神官。この後、しばらくこの礼拝堂をお借りしても構いませんか?」


「ええ、構いません。お一人で神と向き合われるのですね? 誰も邪魔せぬように外で見張っておりますので、心置きなくお祈り下さい。」


 そう丁寧に返してくれたマルキスさんですが、少しだけ寂しそうな目をしているように見えました。


 それから他の皆さんが礼拝堂から出て行く移動が始まりましたが、そこから女性2人がこちらに向かって来ます。


「レイカちゃんありがとうね。それから、何だかごめん!」


 言い出したのはジリアさんですが、呪詛が解けて元の年齢の30歳前後に戻ったはずですが、20代半ばくらいにしか見えない綺麗なお姉さんです。


 出るところは出て、引っ込むところはギュッと締まったメリハリボディの羨ましい限りの肉体美です。


 これは、旅仲間の皆様目の毒になるのでは?


「良いですって。それより早いとこ身体に合った服に着替えて来ないと、若者には目の毒ですよ? 誘惑したいのは1人だけでしょ?」


 そう言って茶化すと、満更でもなくにへらと嬉しそうに笑ってジリアさんは去って行きました。


「レイカさん、わたくしには何か出来ないかしら?」


 そう声を掛けてくれたパドナさんは、手首の呪詛の紐の結び目は解けて今はバンフィードさんが持って来た毛糸玉の箱に一緒に収納されています。


 解いたと簡単に言いましたが、神官さん皆さんに手伝って貰いつつ、還元魔法で呪詛を崩してから再構築された呪詛の帯が結び目を作る前に小箱に押し込めてやりました。


「魔力織りの祝福の織物ってどうやって作るんですか?」


 ふと気になって訊いてみると瞬きの後、パドナさんが慌てて説明し始めました。


「まずは、魔力をこの手の中に提供してもらって、それを細かく撚って織り糸を作るんです。それからそれを織り込んで形にしていくんですけど。」


「それじゃ、これからお渡しするんで、この魔力を織って何か身に付ける小物でも作って貰えませんか?」


 言って手の中に集めた魔力をパドナさんの手の中に落とし込みます。


 少しだけ粘度のあるポヨンとした魔力の塊がパドナさんの手の中でバウンドしてから収まりました。


「それで行けそうですか?」


「え、ええ。大丈夫そうですわ。少し癖のある魔力ですけれど、お部屋の外で待つ間にお作りしておきますわね。」


 戸惑いを抜いてにこりと返して来たパドナさんにこちらも笑顔で頷き返しました。


「おねー様、本当に大丈夫? 何か無理してない?」


 勘のいいコルステアくんには時が止まっていたことは感じ取れなくても、こちらが何かに消耗していることには気付かれているかもしれません。


「ありがと。終わったら弟の癒しを所望しようかな。」


 途端に呆れたように溜息を吐かれましたが、ポンと頭に一度だけ手を置いて去って行きました。


 それと入れ違うように寄ってきたのはケインズさんです。


「レイカさん。何があっても、1人で抱え込まないで。俺はどんなレイカさんでも大丈夫だから。好きでいられるから。」


 相変わらずの優しい言葉には、涙腺が緩くなりそうです。


「いつもいつも優しい言葉をありがとうございます。ケインズさん、もう暫く色々待ってて貰っても良いですか?」


 我ながら狡いと思うのですが、ケインズさんの優しさが身に染みる程有り難くて、今は手放す勇気がありません。


「ごめん。実は今まで言えずにいたんだけど、俺にとってレイカさんは、あの時から他とは隔絶して特別なんだ。」


 何のことかと首を傾げていると、ケインズさんは少しだけ躊躇うようにチラッとこちらを見ました。


「命を救って貰ったあの後から、レイカさんの周りを物凄く綺麗な魔力が縁取ってるのが見えるようになったんだ。」


 これには驚いて目を大きくして見返してしまいます。


「え? ケインズさんって魔力が見える人だったんですか?」


「いや、これまで見えたこともないし、本当にレイカさんだけなんだ。だから、実は呪詛で外見の認識阻害が起こっても、あんまり気にならなくて。」


 なるほど、そういうことだったんですね。


「えっと、何だか済みません。もうちょっと魔力総量が落ち着いたら目がチカチカせずに済むようになるかもしれないので。」


 そう謝ってしまうと、ケインズさんに呆れたような顔をされました。


「そうじゃないのにな。まあ、そういうどうしようもなく話しの通じないレイカさんも可愛いんだけど。」


「え? は?」


 思わずそんな疑問符を浮かべてしまうと、クスッとケインズさんに笑われました。


 それからすっと笑いを収めると、ケインズさんが一転真面目な顔になりました。


「レイカさんは、もう少しわがままになっても良いと思う。レイカさんはもうレイナードじゃないし、アイツの尻拭いはもう良いんじゃないかと思う。もしも神様に願うなら、レイカさんがレイカさんの為に生きる人生を願ったら良いと思う。そこに俺も積極的に関わって行くつもりだから。」


 言葉が出ずにいる内に、ケインズさんが優しい笑みを浮かべてから去って行きました。


 全員が去って静かになった礼拝堂で、何故か酷く疲れた気分になりましたが、今日のスケジュールはまだまだこれからです。


 という訳で、気を取り直して祭壇の側にかかる肖像画にもう一度歩み寄って行きました。

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