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 まずは解呪の話しということで、ジリアさんとバンフィードさん、パドナさんの隣にこちらも並びつつ、大神官さんや他の神官さん達が順番に呪詛の様子を見てくれるのを待ちました。


 一通り4人を見終わった神官さん達が難しい顔をこちらに向けました。


「こちらの女性と次の男性、そしてレイカ殿は同じ構造の呪詛をかけられているようですが、どうしてこうなったのか、状態がそれぞれ違う。」


 確かに、呪詛の段階別見本のような状態になっているかもしれません。


「私の方から追加説明しますね。まずジリアさんは、呪詛をかけられたのが何年も前だそうで、当時一度神殿で解呪を受けてより強い作用の二段階目の呪詛が再発して今に至っています。」


 恐らく、ジリアさんの呪詛はまだ実験段階の初期のもので、二段階目の作用が最近のものほど強くなかったのでしょう。


「そしてバンフィードさんのは、最近かけられたもので、やはり一度神殿てー解呪を受けてから死に至る呪詛に切り替わっていたところを、私が解呪して、二段階目の呪詛発動を根本で時限停止魔法で仮止めしています。」


 その説明を受けてマルキスさんがバンフィードさんの呪詛の根本がある辺りに目を凝らして覗き込んでいます。


「それで、私がかけられた呪詛ですが、元々性別を見た目誤認識させるもので、二段階目が控えてるはずなんですが、かけられた時に偶々別口の呪詛を解呪していた所為で意図しない形でその中途半端に解呪しかけの呪詛と混ざってしまったそうです。その所為で、そもそも始めの解呪が神殿では不可能だと匙を投げられました。」


 マルキスさんはこちらにも改めて近付いて呪詛を覗き込んでいるようです。


「確かに、複雑過ぎて普通の方法での解呪は出来なさそうですね。ですが、下に潜むのがどんな呪詛か分からない以上、下手に解呪しなくて良かったのかもしれませんが。」


 ここで苦い顔になって腕を組むマルキスさんの様子に、解呪について見通しが良くないことは間違いなさそうです。


 そこから時限停止魔法についての説明と、呪詛の起点に古代魔法の魔法陣をアレンジしたものが使われている事、一度それを破壊して完全解呪が出来たことなどを説明していきました。


 マルキスさん始め神官さん達は興味深げに聞いていましたが、やはり再現は今のところ難しいと結論が出ました。


「現時点で起点破壊は我々には難しいとしても、時限停止魔法に近いもので2度目の呪詛発動を抑えることは工夫して構築すれば出来るかもしれませんね。私や今も力を保つ寵児であれば。」


 そう結論を出しながら考え込む表情のマルキスさんですが、そういう人達って今現在他にも存在するんでしょうか。


「大神殿には今、マルキスさんの他にも転移者さんがいるんですか?」


「ええ。私達は与えられた使命を果たす為にそれに応じた聖なる魔力を授かって降り立つはずなのですが、使命を果たしても魔力が残った者は、この大神殿に来ることになる。その理由はもうお分かりでしょう?」


 ここに来てから立てられた予測通りならば、それも納得出来るような気がします。


「それに気付く年月を経てから、ということですよね?」


「まあ、そうです。でも、貴女が迷わずにここに来た理由にも関わるのでは?」


 何となく嫌な気持ちになりながら、この予測はここで皆の前で言うべきではないような気がしますね。


「じゃ、その辺りも後ほど折り入ってということで。マルキスさんの他にあてに出来る人がここに居るって事で良いですか?」


「・・・ここにやってきたばかりの寵児は、大抵大なり小なり心が疲弊している者が殆どです。私も先代の元でしばらくはただ生きる事だけを繰り返していましたから。」


 物語の主人公は、その物語が完結して自分が世界の中心で無敵だったモードが解除された後は、そんな風に糸が切れたようになってしまうんでしょうか。


 そう考えると、複雑ですね。


「うーん。つまりマルキスさんお一人にかかって来るってことですよね?」


「まあ、今のところは?」


 そう答えたマルキスさんの瞳の奥に少しだけ誇らしげな色が掠めたような気がして、これまた複雑な気持ちになりました。


 この人ももしかしたら、今の立場を生き甲斐に歳を重ねている人なのかもしれません。


「えーっと、取り敢えずジリアさんの解呪を手伝って貰いつつ、起点破壊を試みるのと、バンフィードさんの起点破壊もしてみたいんですが、その前にこれも見て下さい。」


 言って、バンフィードさんに目を向けて頷き掛けます。


 と、バンフィードさんが荷物から例の小箱を取り出しました。


 慎重に蓋を開いた小箱から、呪詛の毛糸玉から毛糸の先が飛び出して来ますが、それに聖なる魔力をぶつけて押し戻します。


「ミレニー。」


 と、パドナさんの漏らした言葉に皆の視線がそちらに向きます。


「公女殿下の手首の呪詛と構造が似ていますね。」


 マルキスさんが小箱とパドナさんの手首を見ながらそう溢しています。


「パドナさん、魔力織りってそもそも何なんですか? 織るとどうなるんですか?」


 今更ながらですがそれを問い掛けてみると、パドナさんは戸惑ったような顔になりました。


「魔力織りの能力は、元から公家の血筋に伝わる能力で、祝福の織物を作る能力でした。その人の持つ魔力を織り込んだ織物で衣服や小物を作って能力強化や万が一の魔力枯渇を防ぐ補助魔力としてとっておく事が出来るようにと。」


 それは確かに祝福だと言われても可笑しくない代物ですね。


 流石大神殿と癒着関係にある公国の公家に相応しい能力なんじゃないでしょうか。


「ただ、公家に必ず魔力織りの能力者が生まれる訳ではなくて、わたくしとミレニーもお祖母様以来の能力者として生まれて来ました。魔力織りの能力者は公国でも大事にされるので、本来なら国を出て嫁ぐことなどないのですけれど、2人もいるのだからとエダンミールから押し切られて、様々な圧力から父が断り切れなかった所為でミレニーがエダンミールに行く事になりました。」


 そこからはここへ登ってくる道中聞いたミレニーがパドナさんの能力を封じた話しに繋がるのでしょう。


 問題は、ミレニーとその後ろにいる者達の思惑が何処にあるのかですね。


 実際、パドナさん絡み以外の呪詛織りの毛糸玉の役割と構造がどうなっているのか割り出したいところです。


「レイカ殿は、公女殿下の呪詛をどう見る?」


 マルキスさんに訊かれて正直答えに困ります。


「どうと言われると困りますけど、呪詛の結び目を解いてから、出来るなら還元魔法でなら解呪可能かもしれませんが。」


 歯切れ悪くそう答えると、マルキスさんに苦笑されました。


「確かに、還元では魔力消費が追い付かないかもしれませんね。そして、公女殿下が一見不自由しているように見えないから、優先順位は下がると思っておられるのでしょうか?」


 そう見透かすように言われて肩を竦めてしまいました。


「ですが、恐らく公女殿下の解呪を進めて魔力織りの能力を取り戻しておいた方が良いでしょう。恐らく、公女殿下の聖なる魔力を織る能力で何かを覆せるから、一時的にでもその能力を封じたのではないでしょうか?」


 そう言われると確かにそうなのかもしれません。


「はあ、そうですかぁ。じゃ、ちょっと頑張っときますか。」


「レイカ殿。これからを生きる貴女に一つアドバイスを。聖なる魔法は多くが願う事でその威力を発揮する魔法です。何かを成し遂げたいなら、多くの人々の心を掴みなさい。」


 これは以前から薄々気付いていたことですが、経験者の口から聞くと重みが違いますね。


「これまでも聖なる魔力を持つ人の補助は受けたことがあるんですけど、神殿はそれだけじゃなくて人々の想いが込もった水晶みたいなものを補助で使っていますよね? あれは、何なんですか?」


 あの中には聖なる魔力を持たない一般人の願いや祈りが込められているのだと聞いています。


 それが、何故聖なる魔法を使う時の補助になるんでしょうか。


「人々の願いや想い祈りが、神という名の世界を動かす所謂システムのようなものの原動力となっているのです。」


 マルキスさんがそう話し始めた途端に周りから音が消えました。

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