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 脇門の方から第二騎士団ナイザリークの兵舎に向かって行くと、前方に危なっかしく荷物を運ぶ先程の女の子が見えて来ました。


「レイナード、お前な。」


 そこでケインズさんが躊躇いがちに声を掛けて来ます。


 その声音が何か迷うような調子だったので、足を緩めてケインズさんの方を振り返りました。


「あの子が気になってるとかじゃないよな?」


 ケインズさんの発言に、思いっきり目を瞬かせてしまいました。


「あのな。言うかどうしようか迷ったけど。お前、その、一応伯爵家の子息だからな。厨房の下働きの女の子は止めとけよ。」


 思い切ったように口にしたケインズさんには、取り敢えず苦い顔を向けておきます。


「ええと。何処から突っ込み必要ですか? あの子は、下働きじゃなくて、料理人見習いみたいです。それから、俺はあの子をそんな目では見てませんよ?」


「そ、そうか。」


 ケインズさん何処となく気まずそうに返してきます。


「以前の俺の事は知りませんが。今の俺は自分の事で手一杯なので、恋愛とか興味ありませんから安心して下さい。」


 そうなんです。


 色んな意味で恋愛は無理なので、蓋をする事に決定です。


 なので、その他の欲求には忠実に、まずは食に対する欲求を満たす事に邁進します。


「それよりも、食堂の厨房に足掛かりを作るのが目的ですよ!」


 良い笑顔で宣言すると、足を早めて女の子を追い掛けていきます。


 これ、一歩間違うとストーカーですね。


 ケインズさんに引かれないように気を付けようと思います。


「ねえ、君!」


 呼び止め方って難しいですね。


 このナンパ感のある話し掛け方で逃げられたらどうしましょうか。


 くるっと振り返った女の子は、案の定、レイナードの姿を見た途端に、固い表情で固まってしまいました。


「あ、の、レイナード様。先日は、その、ありがとうございました。」


 何とか言葉にしたという話し方で、勢いよく頭を下げてそれから顔を上げようとしない女の子の肩が細かく震えています。


「あーえっと。怖がらなくて大丈夫。過去の俺と何があったか分からないけど、出来ればそれとは切り離して考えて貰えると助かるかな。」


 こちらも流石に気まずくそう返して、女の子の持つ袋にひょいっと手を伸ばします。


「え? レイナード様?」


 女の子が驚いて顔を上げました。


 そのまま一歩下がると、よいしょと袋を抱え直します。


「ウチの食堂に食材卸してるあの商人。やな奴だな。」


 それだけ言葉にしておくと、そのまま食堂に向かって歩き始めます。


「あ、あの! レイナード様!」


 女の子が慌てて追い掛けて来ました。


「おい、レイナード。訓練!」


 ケインズさんも呆れ気味に声を掛けて来ます。


「レイナード様! 私、自分で運べますから!」


 半泣きな声音には少し気の毒になるが、あのまま運んでいては、やはり食堂に辿り着く前にまた袋が破れるか転がり落ちるかしていたでしょう。


「ケインズさん、これ終わったら直ぐに着替えて訓練に向かいますから。ちょっとだけ寄り道許してください。」


 足を早めながらケインズさんに返しておくと、深々と溜息が聞こえて来ました。


「レイナード様! 待って下さい! またこの間みたいに運んで貰ったら、私が怒られてしまいます!」


 女の子が縋るように袖を少し引っ張って訴えて来ます。


 ちょっと良心が痛みますね。


「ふうん。君を怒るんだ、厨房の連中。」


 ちょっと冷たい声音になってしまいました。


「まあ、ちょっと任せてくれる? あれは、ほっといちゃダメだよ。」


「へ?」


 女の子がキョトンとした目になるのに、にこっと笑みを向けておきます。


 途端に女の子は真っ赤になって俯いてしまいました。


 みかん箱の中の腐ったみかんを放って置くと、他のみかんも徐々に腐り始めてしまうんです。


 みかん箱の中は常に調査とメンテが必要なように、些細に見える問題を放って置くのは監督者の不調法ですね。


 それに、この件が始めの腐ったみかんとは限らないのではないかと思い始めていますしね。


 舐められ過ぎでしょ、天下の第二王子直下の第二騎士団ナイザリークが口にする食材を卸す商人があの態度とは。


 俄然燃え始めた様子に気付いたのか、ケインズさんがまた遠い目になってます。


 という訳で、意気揚々と厨房に向かって行きました。

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