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護衛さん達に与えられた大部屋で、報告会もとい反省会?的な会合を開催中です。
「・・・よくもここまで黙ってたもんだな。」
苦々しい口調で吐き捨てたのは、リックさんです。
「だがまぁ、言えなかった理由も分かってくれたのではないかな?」
クイズナー隊長も苦い顔ながらそう理解を求める言葉を返しています。
「信じられねぇな、黙ってこんな厄介な仕事を引き受けさせたんだからな! 後で危険手当とか、そんな程度の話しじゃないだろ!」
ピードさんが憤る気持ちも分からなくはないんですが、全てが始めから分かってた訳じゃなかったですからね。
「ここまで大事になるとは、流石のおねー様も予想してなかったはずだから。今振り返って責められてもどうしようもないんじゃない?」
コルステアくんがこういう会合で発言するのは珍しいですが、何か言いたいことがあったんでしょう。
「あのまま王都に残ってたら、あんた達も今頃事情も分からないまま何かに巻き込まれてたかもしれない。それより、真相の分かる場所で自分達の暮らす場所を守る為に何かをしてみようって気持ちにはならない? ここで、仕事の契約内容を見直すことにすれば良いだけのことじゃないの?」
これまた正論ですが、これでは護衛さん達の騙されてた感は払拭出来ないんじゃないでしょうか?
「ふうん? では、これから君達はどうするつもりなんだ? 国家的一大事が発覚しても、どうにかする程の権力を持つ者がいる訳じゃない。結果として指を咥えて見ているしかない状況に陥るんじゃないのか?」
と、これはライアットさんですね。
一国の騎士だった人だけあって、正確に痛いところを突いてくれました。
「うーん。これからどうするかですか? それじゃ、話せるとこだけ話しましょうか?」
そう発言してみると、クイズナー隊長がギョッとしたような目を向けて来ました。
「レイカくん!」
そう制止するような声が上がりましたが、にこりと微笑み返します。
「クイズナー隊長、もうどの道タイムリミットは迫ってます。これから優先順位決めて無駄なく動かないと、手遅れになりますよ?」
途端に睨むような半眼が返って来ました。
「その根拠は? というか、良い加減気付いてること全部話しなさい。」
それは、こちらもそろそろ本当に潮時だと思ってますから。
「さっきも話してたじゃないですか。スーラビダン出身の魔法犯罪者さん達。それにここの公女様の話し。ウチの殿下が攫われてからの日数。もう決行準備は整ってる段階だと思うんです。だから、後は最後に邪魔されるかもしれない余計な芽を念の為潰してるだけじゃないかって。」
「それは、カダルシウスに元から巣食っていた犯罪者達の決行が、だったね? その後援をしつつ後の混乱に付け込もうとしている例の大国は、その後援を匂わせる証拠の後始末をもう始めているということだね。」
続けたクイズナー隊長に頷き返します。
「なあそれって。今から戻って色々阻止するの、間に合うのか?」
リックさんのその突っ込みに、ふと苦い笑みが浮かびました。
「ね? それが段々不安になってきたんですよね。犯罪者さん達の決行自体は止められない事が決まってるので、間に合わなくても仕方ないと思ってます。それにその結果は、マユリさんの活躍で最悪の事態は回避されるので、犯罪者さん達が望む結果にはならないことになってるし。」
それには、リックさん達護衛の皆さんが首を傾げています。
「問題はその後ですね。最悪の事態を回避しても元通りになる訳じゃないから、そこに例の大国が付け込む隙が生まれるんですよ。その大国がタイミングよく出て来る前に滑り込みで戻りたいんです。」
「・・・間に合うのか?」
真面目な声音で冷たく突っ込んで来たライアットさんに、肩を竦めてみせました。
「だから、神様とこれから密約交わして来ようと思ってるんですよ。」
「はい?」
一大告白には、皆さんに呆気から呆れの表情を貰いましたね。
「あの、レイカ殿? 大神殿に行けば神様と密談出来ると期待しておられるんでしょうか?」
フォーラスさんが少しだけ気まずそうな顔になっているのは、分からなくもないです。
神殿には神様が住んでいて、願い事を聞いて叶えてくれるとか思っていて許されるのは、小さな子供までですからね。
「まあ、私のほうにも交渉の材料があるんだと思ってて下さい。何処までやれるか分かりませんけど、少なくともちょっと好き勝手に派手な事をしても目を瞑って貰えるように。本筋じゃないサイドストーリーへの梃入れを許してもらおうと思います。ま、ここまでも結構書き換えて来た筈ですからね、今更だと思うし。」
明るく言い切ってみせると、何故か周りから諦めたような溜息が幾つも上がりました。
「まあそれは、気の済むようにすれば良いと思うけどな。現実見た方が良いぞ? カダルシウスの王都までここからどんなに急いでも8日はかかるんだからな。」
リックさんの少々冷たい纏めに、こちらも苦笑いが浮かびます。
「戻る方法については検討中です。真面目に8日もかけたくないですからね。」
この具体的な方法については、幾つか検討中ですが、どこまで許されるのかそれも明日の大神殿での成り行き次第でしょう。
と、左腕に感じた小さな手の感触。
指人形が心配そうな顔でこちらを見上げています。
ベストタイミングですね。
「あ、お帰り指人形。それじゃシーラックくんとカランジュ、昼間の約束通りこれからちょっと真面目に見てみようか。」
カランジュのことは指人形の意見も聞いてみたかったので、本当に丁度良かったですね。
「えっと、良いの? 今の話し終わり?」
躊躇いがちに言って来たシーラックくん、いい子ですね。
「はあ。まあいーぞシーラック。この秘密主義のお嬢様は、その場にならないと何も言わないつもりらしいからな!」
やけっぱちな口調で吐き捨てるように言ったピードさんの言葉で、場の張り詰めたような空気が漸く解けたようです。
「別に秘密主義ってわけじゃないですけど、非常識だって自覚はあるので、事前予告すると強制的に潰されて身動き取れなくなりそうで。」
「そう、つまり無謀で止められそうな事を強行しようとしてるってことだね。覚えておくよ。」
クイズナー隊長のスンとした返事に、乾いた笑いが浮かびました。
「まあまあ、何をどう聞いたってレイカちゃんに振り回されることは間違いないんだから。男どもは腹括りなさいよ。」
ジリアさんの微妙な取り成しが入って漸く話しに一段落ついたようです。
おずおずとこちらに向かって来るシーラックくんと並ぶように、カランジュがパタパタと飛んで来て目の前のテーブルの上に降り立ちました。




