表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

254/436

254

 何処か疲れた切ったような顔になったテンフラム王子が気を取り直したように続きを話し始めました。


「ま、まあそれでだ。スーラビダンで古代魔法行使者の管理責任者をしている私の元へ、古代魔法を違法に使っている犯罪者の情報が入って来た。それが、先程捕まえた2人だ。」


 違法にということは、古代魔法には使用の可不可を定める法律でもあるんでしょうか?


「あの2人を捕まえる為に、目撃情報などを元にこの街に来たわけだが、それと時を同じくして、公女から救援要請の手紙が大使館に届けられた。」


 言ってテンフラム王子は視線を公女様に向けました。


「改めまして、わたくしメルビアス公女のパドナと申します。スーラビダンのテンフラム王子殿下、どうかわたくしを保護して頂けませんか?」


 パドナ公女のいきなり始まった保護要請に、皆が一様に首を傾げることになりました。


「・・・それは、メルビアス公国からの亡命ということか? 貴女を狙っていたふしのある我が国出身の犯罪者はこちらで捕らえたので、貴女はもう安全ではないのか?」


 テンフラム王子の問いは、状況だけみれば尤もなものだと思いますが、パドナ公女の手首に結ばれた呪詛の紐と、出会ってから随所で漏らされたミレニーがどうのという台詞からも、まだまだ根深い何かがありそうですね。


「お恥ずかしい話しですが、わたくしにとっての公国はもう安全ではないのです。」


 少し俯きがちに口にしてから、パドナ公女はこちらに目を向けてきました。


「レイカ様、わたくしの手首にはまだ呪詛織りの紐が付いていますか?」


 問われて頷き返します。


「さっきは紐の呪詛に魔力をぶつけて一時的に吹き飛ばしただけなので、根本的に解呪しないと呪詛がまた送り込まれて元通りになるだけですね。」


 そうはっきりと明かしておくと、テンフラム王子が眉を寄せたようです。


「貴女にその呪詛を掛けたのは? 後ろには誰が居るか分かっているのですか?」


 掘り下げていくテンフラム王子に、パドナ公女は思い切ったように肩を上げて深呼吸したようです。


「妹のミレニーです。あの子は去年エダンミールに王家の花嫁候補として王宮入りしています。わたくしとミレニーは双子の姉妹で、わたくし達には魔力織りの能力があります。わたくしが聖なる魔力から派生するものだけに特化した織りの能力を持っているのに対して、ミレニーは聖なる魔力以外の一般の魔力全般と呪詛さえも織れるんです。」


 魔力の織姫姉妹、これはエダンミールに目を付けられる訳です。


 話しを聞いて色々察した様子のテンフラム王子とクイズナー隊長も苦い顔です。


「ミレニー公女は、何故貴女に呪詛を?」


「・・・恐らく、わたくしの能力を封じるのが目的だと思います。」


 これはエダンミールの思惑を色々深読みしてしまいますね。


「アダルサン神官、解呪は可能なのか?」


 テンフラム王子に話しを振られたアダルサン神官がパドナ公女に歩み寄ります。


 パドナ公女が前に出した両手首に目を落としたアダルサン神官ですが、直ぐに顔を上げるとこちらに視線を投げて来ました。


「それ程複雑な呪詛ではないので、解呪すること自体は難しくないでしょうが。ここ最近流行りの呪詛は、ただ解呪するだけでは直ぐに再発することがあります。しかも、何故か始めのものよりも効果の高い命に関わるようなものに変質することがある。」


 これは、大神殿でも手を焼いていたようですね。


「ですから、最近は解呪依頼の対応には大神殿でも慎重になっていまして。」


 そのままこちらをジッと見詰めるアダルサン神官に、小首を傾げて返します。


「先程、犯罪者達に掛かっていた呪詛を解呪した時、レイカ様は何かされましたね? あの方法なら、完全解呪が可能なのでは?」


 大神殿所属のアダルサン神官からのこの発言は、あまり幸先良くありませんね。


「大神殿でも、完全解呪には辿り着いていないんですか?」


 困ったように問い返すと、アダルサン神官が目を瞬かせました。


「あれは、多分私限定の非正規解呪法になると思うんですよ。」


「では、他の誰かには真似出来ない?」


 アダルサン神官が真面目な顔で鋭く切り込んで来ます。


「多分今直ぐには。構造がはっきりして検証が済めば、いずれは方法も見つかると思うんですけど。」


 呪詛の起点に使われている魔法陣の構造をあの魔法犯罪者さんから聞き出せたら、魔法陣の破壊方法も見付かるんじゃないでしょうか。


「あのですね。最近流行りの呪詛には、かける時に古代魔法から着想を得た起点を設けてあるみたいなんです。そこに予め段階付きの仕掛けがあって、初回の呪詛が解呪されたら発動する二段階目の呪詛の起動を盛り込んであるみたいなんですよ。」


 その説明に、テンフラム王子始め、この話しの中心者さん達が難しい顔で考え始めました。


「ん? ではレイカくんが王都を出る前に施してきた一時凌ぎだと言っていたのは?」


「初回解呪後に、起点の根元に聖なる魔法で発動を止める時止めの魔法を施してあるんですよ。バンフィードさんのもそうです。」


 そこでテンフラム王子の視線を受けたアダルサン神官は、ゆっくりと首を振りました。


「聖なる魔法は本来時間を操作する魔法だと言われていますが、それを真面目に行おうとすると、話しにならないような魔力消費が必要です。意図して時を動かすことは、世界の摂理に反するからだと分析されています。ですから、聖なる魔法の使い手は、聖なる魔力をもって本来在るべき状態を取り戻すようにと意識して魔法を行使します。還元や修復促進等を使う治療魔法は限定条件を付けた狭い範囲を指定したり複数人で力を合わせて一つの魔法として成り立たせるといった方法を取っています。そもそも時限操作の出来るような魔力量を持つ聖なる魔法の使い手は神々の寵児以外には存在しませんから。」


 アダルサン神官からは、やはりという説明がされました。


「でも、さっきのは完全解呪が出来たと言ったよね? それは?」


 クイズナー隊長が話しを戻して続きを促します。


「あの古代魔法の魔法使いさん達が使った魔法陣を見て、起点には魔法陣の一種が使われてるんじゃないかと思い付いたんです。それで、根元が解呪されたところで、起点の魔法陣を壊してみたんですよ。魔法陣は魔石に魔力を流して描くからだと思うんですけど、私の魔力由来かレイナードさんの身体特性で、触ると魔石を時々破壊してしまうみたいなので。」


「・・・その破壊の法則は不明という訳だな? だから、今のところは君限定の完全解呪法ということか。」


 テンフラム王子が纏めて下さいました。


「では、わたくしの呪詛はレイカ様になら解呪して貰えるのですね?」


 と、パドナ公女が勢い込んで身を乗り出して来ますが、手首に目を向けて難しい顔になってしまいました。


「うーん。公女様の呪詛織りの紐は、普通の呪詛とは違いそうなんですよ。起点が見えるところにないんですよね。結んである紐を解くことは出来るんじゃないかと思うんですけど。」


 それで解呪完了になるとは思えないんですよね。


 もっと複雑な構造で解けないようになっているんじゃないかと思います。


「じゃ、出来るとこまでやってみますか? というか、大神殿で大神官様立ち会いの上で、やってみるのはどうですか? 私達も明日行くつもりですし。」


 一国のお姫様相手に万が一失敗したらリカバリー出来る人が側にいる方が良いですよね。


「分かった。では、今夜は君達とパドナ公女はここに泊まって行けば良い。部屋を用意させよう。そして、明日の大神殿行きには私達も同行しよう。」


 答えたのはテンフラム王子でしたが、それで話しは纏まりそうですね。


「それとは別に、あの魔法犯罪者共に起点魔法陣の事を尋問する必要があるということだな?」


 こちらに目を向けてきたテンフラム王子を、こちらも真っ直ぐ見返します。


「テンフラム王子は、どうして直接関係はないこちらの事情に協力して下さるんですか?」


 不躾な質問かもしれませんが、こういう詳細調整は早い段階でしておいた方が良いんです。


 何処まで協力して貰えて、何処からは手を離されるのか、そこが分かってないと、こちらはこれからやる事の先が長いですからね。


「正直に言おう。私はお前に興味がある。野放しには出来ないと思っている。理由は分かるな? だから、その辺で勝手にエダンミールに捕まって貰っても困るし、いつの間にか死なれるのも困る。」


 あ、嫌なのが来ましたね。


「え? そういう先の見えない動機、嫌なんですけど?」


「ん?では、こういうのは? お前、見えてる部分だけでもかなりの美形だ。呪いが解けたら相当な美人だろう? 私の3人目の妻に迎えよう。」


「・・・死ねば良いのに。ってこういう時使う言葉だよね?」


 物凄くボソッと呟いてやりました。


 不敬罪って、何処まで適用でしょうか?


 案の定、机周りの聞こえていた人達だけ空気が凍りましたが、気を取り直していこうと思います。


「あれ?何か聞こえました? 可笑しいなぁ心の声が漏れちゃったかも。冗談ですから忘れて下さいね。」


 にっこり笑顔で流してから、また真っ直ぐ目を向けました。


「そういう冗談は要らないので。古代魔法行使者リストですっけ? それには入れて貰って結構です。今回の色々が全部落ち着いた後でなら、師匠立ち会いの下で古代魔法の検証?とかにも出来る範囲で協力しますから。」


 それに、テンフラム王子には若干強張った顔で睨み返されましたが、まあ多分大丈夫でしょう。


 これからはちょっと言葉遣いには気を付けようと思います。


「お前、上等だ。いずれきちんと分からせてやる。」


 テンフラム王子の何かに着火してしまったようですが、気にしたところで最早手遅れなので、散水系か放水系の人と仲良くなろうと思います。


 そんな都合の良い方、絶賛募集中です。


 現実逃避が終わったところで、クイズナー隊長のゲンコツが来ました。


「大変失礼致しました。子供の言うこととお収めいただけないでしょうか? なにぶんこちらの世間知らずで、言葉の使い方がまだ分かっていないようでして。」


 物凄い勢いのマシンガン言い訳トークが、振り下ろされる拳と共にこの後しばらく続きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ