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「お待ちしておりましたよ。定めなき招かれざる寵児殿。」


 誰が口を開くよりも先に、歩いて来て目の前に膝をついた神官さんがいきなりぶちまけて下さいました。


 軽く凍りついた室内に、乾いた笑いと共に溜息を吐き出しました。


「あのですね。不法侵入のニート扱いはやめてもらえます? 言っときますがちゃんと招かれてます。ウチのレイナードに。じゃなきゃ来てないでしょ? 穴があった事を責任転嫁とか、上の方がやることじゃないですよ? 見苦しい!って言ってやって下さい。あなた方の神様に!」


 軽く青筋付きで畳み掛けてみると、神官さんが青い顔になりました。


「・・・失礼致しました。何かお気に障りましたか? あ、いえ触られたからそのようにお怒りなのですよね?」


 焦って言い募る神官さんが何と無く気の毒になって、深々と溜息を吐いて気持ちを抑えることにしました。


「ええと、ごめんなさい。これまでの色々な理不尽にちょっと・・・。貴方は悪くないのに八つ当たりでした。さっきの台詞は忘れて下さい。神様には大神殿で直接ディスってやることにしますから。」


 にっこり笑顔でそう締めくくると、神官さんが何故か物凄く困った顔になってしまいました。


 そこで漸く復活して来た様子の王子様が身を乗り出しました。


「アダルサン神官、彼は神々の寵児、つまり異世界人なのか?」


 勢い込んで聞いて来る王子様ですが、その表情は不信感満載です。


「あ、いえ。彼女、でいらっしゃいます。」


「あーそれはいい。どうせ身元隠しの女装だろう? ベールを取って顔を見せてくれ。」


 決め付けてくれた王子様に対する心象が更に暴落しましたね。


「いえいえ、ですから女性で間違いございません。何やら複雑な呪詛に掛かっておられまして、見た目だけ男性に見えるようになっておられるようです。」


 流石、大神殿所属の高位の神官さんなんでしょう、説明なしで一発で見抜きましたね。


「うん? では、女性で異世界人で。・・・何故古代魔法が使える?」


 そうなんですよね、それがあるから、最早この王子様には隠し事は出来ないと諦めたんですよ。


 神官のアダルサンさんは、これには困ったように首を傾げながらこちらに視線を投げて来ました。


「スーラビダンの前々代の王様の末妹を祖母に持つ女性がカダルシウスの伯爵家に嫁いでいて、その息子が2人いるんですけど、その下の息子が物凄い魔力持ちで。」


 と、一から丁寧に説明し出したところで王子様手を上げました。


「知ってる。カダルシウスのランバスティス伯爵家だろう? 兄の方は父親似の火魔法の優秀な使い手だが、古代魔法は相性がイマイチなのか扱えなかった。弟の方は魔力だけは多いと言われていたが、成人しても魔法に変換出来なかった筈だ。古代魔法の適性も探らせようとしたが、幼い彼が魔法暴走させてから父親の伯爵が周りに魔法使いを近寄らせることに慎重になった所為もあって、断念した。」


 長い解説を聞き終えてから、こちらも手を上げ返します。


「それ、魔法変換出来なかったんじゃなくて、しなかったんだって最近発覚しました。彼レイナードさんは、禁呪を使って異世界人の私と中身だけ入れ替わったんです。後に性別も入れ替えたんですけどね。今にして思うと、その禁呪って、古代魔法の一つだったんじゃないですか?」


「・・・・・・。」


 痛そうな顔になっている王子様の様子が正解を物語っていますね。


「30年前にスーラビダンの禁書庫から持ち出された禁書か。王城のジジイ共が最近の事件に古代魔法の気配がすると言っていたが、どうやら間違いなさそうだな。」


 そんな王子様の言葉に続けるように、情報整理していきます。


「レイナードさんは多分、今回の事件の黒幕さんから古代魔法の禁書を見せて貰ったんじゃないですか? そこから、中身入れ替えの禁呪を知って、黒幕さん達の思惑を思いっきり外した形でそれを使ってしまった。」


「黒幕連中は、元々レイナードくんの膨大な魔力と古代魔法を扱える彼の血筋に目を付けていたんだろうね。ところが彼はいつまで経っても魔法を使えるようにはならなかった。だから、彼の中に眠る膨大な魔力を取り出して他者に使わせる研究に方向転換した訳だ。そして、古代魔法の使い手も他から補填することにした。」


 クイズナー隊長も引き継ぐように纏め上げていきます。


「だが実際には、魔法は使えないフリをしていただけのレイナードくんは、黒幕連中の目論見を真っ向から裏切る種類の古代魔法を行使してみせた。・・・と分析出来る訳だが、彼は事前に何かを察知していて黒幕連中を完全に騙し討ちにして逃げ出したとしか思えなくなるね。彼が実際どう考えていたのかはもう知りようがないけどね。」


 溜息混じりになったクイズナー隊長に思わずこくこくと同意してしまいました。


「まあ、そこはある意味こちらには都合が良かった訳だが、問題はそれを知った黒幕連中の計画が残念ながらそれで頓挫しなかったことだね。そして、折角代わりに補填した筈の古代魔法の使い手を、彼らが手放して使い捨てにしたのは、あちら側はある程度の準備が整ったという事だろう。」


 これまた重い口調になったクイズナー隊長でしたが、ふいと言葉を切ってこちらに目を向けてきました。


「だが、これだけ色々企まれていたのに、レイカくんがほぼ無傷でこちらに残ったのは、思わぬ幸運に違いないね。」


 クイズナー隊長は少しだけ険しい表情を緩めて微かに微笑みました。


「レイカくん、君の予想は恐らく正しいと認めよう。カダルシウスは、エダンミールに侵略戦争を仕掛けられている。しかも巧妙にそれとは分からないように。カダルシウスからも周辺国家からも非難される材料を見せることなく、何か致命的な負債を負わされて、助けを求めざるを得なくなるように。そして、その助力を受けた為に、気付けば属国のように扱われることになり、カダルシウスは彼らの魔法研究の実験場にされる。そういうことなんだね?」


 クイズナー隊長も漸くこちらの懸念した通りの結果に辿り着いたようです。


「さて、これでこちらの状況は包み隠さずお話しした訳ですから、王子様と公女様にもさっくりと話して貰えますよね?色々と、関わりがありそうですけど?」


 そうにっこり笑顔で切り込んでみると、王子様にはそれはそれは苦い顔をされました。


 そして、公女様の方はこちらの話しの途中から、明らかに顔色を失っていましたから、しっかり心当たりがあるんでしょう。


 それはもう、色々と漏れ聞いてるだけでも、エダンミールが手広くやってそうなことが分かって来ましたからね。


「分かった。ここはある程度の協力体制をしいた方が、双方の為になりそうだ。だがその前に、君達それぞれの立場と発言力を確認しておきたい。君達の力で、カダルシウスを国としてどの程度動かすことが出来るのかだ。」


 これにはクイズナー隊長と微妙な顔を見合すことになりました。

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