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「テンフラム王子、こちらも解呪完了しましたよ!」


 神官さんの言葉にホッとした空気になったところで、不意にグイッと二の腕を肩ごと後ろに引っ張られて、直後ザクっと嫌な音が聞こえました。


 そこからギャッと上がった悲鳴は、魔法犯罪者さんのものでした。


 何事と身を起こして覗き込もうとしたところを、グイッとまた引き戻されてホールドされます。


「レイカ様、下がりましょう。」


 と、この声はバンフィードさんのものです。


 抱え込まれたまま何が起こっているのか把握出来ない内に、剣戟の音と悲鳴が幾つか上がって、漸く静かになりました。


「ちょっと、そろそろおねー様離してくれる?」


 そんなコルステアくんの冷たい一言で、漸くバンフィードさんが抱え込んでいた腕を離してくれました。


「あ、済まない。つい。」


 何がついか分かりませんが、何がどうなったのやら。


「おねー様? 分かってる? あいつ、おねー様を真っ先に狙ったんだよ?」


 と言われて視線を辿ると、スーラビダンの兵士さん達に地面に押さえ付けられている犯罪者さんの1人がこちらに睨むような視線を向けて来ました。


 反射的に目を逸らしたくなるような怖い目ですね。


「そうだ。レイカ様を遠ざけたから、あの魔法使いに標的を変えたようだが、狙いが浅くなって、魔法使いは命拾いしたな。」


「始めから紛れ込ませてあった暗殺者のようだね。君が聖なる魔法を使うまで第一標的だと確信出来なかったんだろうね。まあ、変装の効果が多少はあったってことだ。」


 バンフィードさんに引き続きクイズナー隊長の解説に寒気がしますね。


「・・・アサッシンですか? 私に? いやいや是非ご遠慮したいんですけど? 物理、弱いですよ?」


「知ってるけど? だから君には護衛が付いているんだが?」


 クイズナー隊長の半眼お説教に、冷や汗が出そうです。


「毒無効とか、物理ダメージ軽減の魔道具とか、ないんですか? 暗殺者なんかに狙われたら、秒で死ねる予感しかしませんけど?」


「まあ確かに、当初は移動中の魔物避けと誘拐を想定した護衛だった訳だが、こうなってくるとバンフィード殿が加わってくれたのは不幸中の幸いだったね。」


 ん?そこで何故バンフィードさんなんでしょうか?


「バンフィード殿は、第一騎士団に見習いからずっと所属していた人でね。対人警護にも慣れている。そういえば、アルティミア嬢が婚約者候補を降りて王都を去ったのと同じ頃に、彼も第一騎士団を辞めて自領に戻ったようだったけど、そういうことかと今回納得したよ。」


 成る程と、これにはこちらも納得しました。


「そういう訳ですから、私のことは鬱陶しがらずにお側に置いて下さい。」


 バンフィードさんが爽やか笑顔でそう言ってから、何故か手を握って来ます。


「ちょっと!」


 コルステアくんの声が上がって、バンフィードさんはまたハッとしたように手を離しました。


「済みません、つい。」


 そしてまた来た脈絡のない、つい、ですか?


 目を瞬かせていると、バンフィードさんが気まずそうな顔になりました。


「その、レイカ様の魔力が凄く心地良くて。」


「はあ?」


 思わずズザッと身を引いてしまいました。


「あ、誤解しないで下さい。変な意味じゃないですから。ただ、側にいるだけで癒されるというか、ほんの少し触れるだけでも魔力の波動が身体を巡って。」


「・・・マッサージ機か。血行促進効果でもあるのかな、私の魔力。てゆうか、普通に気持ち悪いから触らないで。アルティミアさんに言いつけるよ?」


 両腕を抱えてさすりつつそんな言葉を返していると、今度はケインズさんが前に出て来てバンフィードさんとの間に入ってくれました。


「バンフィードさん、それ護衛としてどうなんですか? レイカさんは愛玩動物じゃないんですよ?」


 真面目に怒ってくれているケインズさんですが、愛玩動物っていう台詞には苦笑いしか出ませんね。


「いや本当に悪気はないんだ。ただ、誘引力に慣れてなくて。どうか気を悪くしないで欲しい。私にはアルティミアがいるし、君の気持ちも分かってるから。」


「今度こんなことをしたら、アルティミアさんと侯爵にも報告させて貰いますよ?」


「いや、それだけは勘弁して欲しい。」


「だったら、レイカさんにも気を遣って下さいよ。バンフィードさんと変な噂にでもなったら、レイカさんが迷惑するんですからね?」


 バンフィードさんとケインズさんの間で交わされるやり取りには口を挟む隙もなかったので、そちらはお任せすることにしてクイズナー隊長に目を向けました。


「なんなんでしょうね? 解呪した他の人にはそんなこと言われなかったのに。バンフィードさんだけ瞬時に元気になったのと、魔力がどうのって、やっぱり例の魔石を使った所為ですかね?」


 呆れたようにこちらを見ているクイズナー隊長に問い掛けると、溜息混じりに肩を竦められました。


「タイナーに良い検証材料が出来たってきっと喜ばれるね。」


 何故か若干冷たい台詞なのは納得出来ませんでしたが、バンフィードさん1人だけのことなら過剰に気にするのはやめようと思います。


 という訳で、目の前で果て無く続くバンフィードさんとケインズさんのやり取りに終止符を打つべく声を上げました。


「バンフィードさん、とにかく勝手に触るの禁止です。体調良くない時とか、肩凝り酷い時とか、業務に支障を来たしそうな時は、言ってもらえたら電磁波治療もとい魔力治療しますから。」


 この辺りで折り合いを付けつつ、アルティミアさんには要報告相談案件として心に留めておこうと思います。


「それはともかく、敵は何処まで君の暗殺に本気なんだろうね。あの場面で殺害の優先順位が確実に口封じしたかった筈のあの魔法使いくんより上になったんだからね。脅す訳じゃないけど、少し大人しく守られることにも慣れなさいね。」


 こちらの話しがそう纏まった頃、犯罪者さん達が牢屋に連行されて行きました。


「では、今度こそ応接室でゆっくり話しをしようではないか。」


 王子様の威圧感満載な笑顔に促されて庭に面した応接室に入ることになりました。


 こちらはこちらで取り調べ室行きな雰囲気満載ですね。


 そういえば、こちらの世界に来てから、王子様という人種とは出会い頭に揉める出会い方しかしていない気がします。


 国家権力と仲良くなれない呪いでもかかっているんでしょうか?


 いえいえ、終わり良ければ全てよしって言いますから、これからの頑張りが未来へ繋がるってことで頑張ろうと思います。


 遠い親戚らしい王子様のことは適当にするっとかわして、ウチの王子様を何としても無事に取り戻してみせます。


 その為に解呪の精度を上げるべく各地で実践修行中ですし、起点破壊のメドも立って来ましたからね!


 気合いを入れ直したところで、公女様の隣の椅子を勧められましたが、腹を括って堂々と座ることにしました。

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