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 スーラビダンの王子様に連れて行かれたのは、メルビアス公国のスーラビダン大使館の敷地内、応接室に面した前庭でした。


 スーラビダンの魔法犯罪者さん達ご一行は縛られて連行されて来たんですが、中心のお二人は未だに直立不動の敬礼の格好のままです。


「・・・そろそろ、彼らに掛けた魔法を解いてくれないか?」


 前庭で落ち着いたところで声を掛けて来た王子様は、元から用があったメルビアスの公女様ではなく、何故かこちらにずっと視線を向けていたようです。


 しらばっくれる訳にはいかないでしょうが、大使館にいた他のスーラビダン人の人達が増えたこの場で、やってしまっていいものか判断に迷います。


「レイカくん。タイナーにも見様見真似でやってみたりしないようにと言われていただろう? 次からは気を付けないといけないよ? さあ、解除して。」


 クイズナー隊長が上手い具合に誤魔化しに掛かってくれるようです。


「えっとそうでしたね。タイナー師匠せんせいには咄嗟の判断でって、言い訳しとかないと。すっごく怒られそうです。」


 そんな会話を繋ぎつつ、敬礼の2人に手を向けます。


『もういいですよ?』


 途端に、身体にガクンと圧が掛かる程の魔力消費が来て、ふらつき掛けました。


「おねー様?」


 慌てたように隣にいたコルステアくんが腕を支えてくれて、踏ん張ることが出来ました。


「え?あれって、消費が物凄い?」


「・・・そんなことも知らなかった癖に、よくやってみようと思ったものだね。」


 クイズナー隊長が呆れたようにそう返してきましたが、こちらに向けた表情には心配と探るような色合いが滲んでいます。


「・・・やはり、魔法陣なしで古代魔法を使っていたか。一体、どんな魔力量をしているんだか。」


 王子様の漏らした不穏な言葉は、聞こえなかったふりをしようと思います。


 魔法陣とかまたこちらでは聞き覚えのない言葉も出て来たところですし。


「まあいい。そちらはゆっくり探り出すとして。メルビアス公女殿とお付きの方々は、応接室でお寛ぎ下さい。」


 そう気を取り直したように公女様とこちらに声を掛けてきた王子様、絶対に不穏なことを企んでいそうですね。


「いや、何度も言っている筈だが、そちらの公女殿と我々は無関係だ。良い加減に解放して頂きたい。」


 クイズナー隊長がもう一度ダメ元発言をしてみているようですが、王子様はふんぞり返ったまま鼻を鳴らしました。


「では、スーラビダン人に変装して何を企んでいたのか、怪しい集団として取り調べてみようか。」


 口の端を上げて言い切った王子様に、クイズナー隊長も苦い顔です。


「おねー様が古代魔法を使った時点で、スーラビダンの王族の血筋だって証明されてるんじゃありませんか? それを怪しいはそちらにも苦しい言い訳では?」


 隣からコルステアくんも援護射撃をしてくれましたが、そこを押していくのは何となくマズイ気がします。


「ほう?では奴らは? 古代魔法で君達を無力化したのを忘れたのか? 奴らもスーラビダン王族の血を引く者ということになるが、明らかに犯罪者だ。」


 王子様はコルステアくんに威圧の篭った視線を向けて言い放ちました。


「・・・確かに、スーラビダン王家の血を少しでも引いていれば、古代魔法を扱う最低限の条件を満たす。だが、実際に使えるとなると、それなりの魔力と修業が必要とのことでしたね? では、彼等はスーラビダン王家の末端者で汚点ということでしょうか?」


 今度は攻守変わってクイズナー隊長が押していくようです。


「そうとも言うな。だから奴等は犯罪者として私が追っていたという訳だ。」


 へぇ、血筋で使える魔法っていうのは凄いですね。


「古代魔法は我が王家の血筋にしか使えないものであり、威力の故に魔力消費が莫大だ。だから、本来ならば予め用意された魔法陣の中でのみ使える。その昔、スーラビダンの王は玉座の間では最強と言われた所以だな。」


 玉座の間には強力な魔法陣でも描かれているんでしょう。


「ん? てことは、さっきの粉砕した魔石で地面に描いてたのが魔法陣? そこに結界が出来るような古代魔法をあの人達が使ったってことですか?」


 そう問い掛けてみると、王子様には何故か苦い顔をされました。


「おかしいな。王家の血筋でお前のような術者は確認されていない。そもそも魔力量がそこまであるという時点で見落とされた訳がないのにな。古代魔法でなくとも、相当な魔法使いとして知れ渡っていた筈だ。」


 と、この独白のようなお言葉には、ぎくりと肩が揺れてしまいます。


 チラッと盗み見たクイズナー隊長は無表情を保とうとさり気なく視線を逸らしています。


「殿下。」


 と、王子様のお連れのスーラビダン人の人がこちらを見ながら口を開きました。


「カダルシウスの伯爵家に王家の血筋の娘が嫁いでいますが、昔魔力暴走を起こした令息がいた筈です。魔力量が相当多いと思われていましたが、成人しても魔力を魔法へ転換出来ない状態だったので数年前に追跡調査を完全に打ち切りましたが。」


 これまた身に覚えのある台詞が聞こえて、そっと目を逸らしておくことにします。


「まあ、その辺りは後程じっくり聞くとして、逆らわずに応接室で待つように。」


 こちらに後ろ暗いことが多過ぎて、これには流石に逆らえそうにありませんね。


 王子様はそう言い切ってから気が済んだのか、こちらに背を向けて庭園に早足で歩み寄って来る人影に目を向けたようです。


「テンフラム王子! 間に合いましたか?」


「ああ、まだ大丈夫そうだ。」


 何のことか分かりませんが、近付いてきた神官服の男性と王子様がそう言葉を交わしてから犯罪者さん達に向かっていきます。


 フォーラスさんがはっと息を飲みつつその神官さんを見送っていますね。


 大神殿の有名な神官さんとかでしょうか?


 改めてその神官さんに目を向けた先で、敬礼体勢を解除されて両手に縄を巻かれつつある犯罪者さん達の側に、唐突にぶわっと黒い霧のようなものが発生して、呪詛の帯が組み上がっていきます。


「あ!」


 とこちらが上げた声と、公女様の息を呑む声が被りました。

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