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 キースカルク侯爵とクイズナー隊長に目を向けて、一番大事な話しを始めることにしました。


「王宮晩餐会の時に見たあの魔人が居たんです。玄関から覗いた屋敷の中を階段を上って行ったんですが、多分私を呼んだんじゃないかっていう気がします。」


「それで君はその魔人を追い掛けてご子息の寝室に踏み込んだんだね。」


「階段を上がったらもう呪詛の帯が部屋の外まではみ出してたんですよ。前に見たものより明らかに大掛かりで、解呪し難いように3つ絡み合わせる対策も取ってて、この呪詛にかける本気度が見えたんですけどね。ただ失礼ですけど、一伯爵家のご子息の為に魔人がメンテするようなここまで大規模な呪詛を使うとは考えられなくて。」


 そもそも確かめたかったことの逆証明のようになってしまいました。


「この話し聞いた時から呪詛の対象はアルティミアさんだったんだろうなって漠然と思ってたし、それなら魔人が出て来るんじゃないかって。実はここに魔人の影がないか確認に来たんですよ。」


 クイズナー隊長はそれに黙って頷き返すと何か考え込むように黙ってしまいました。


「・・・今この国には何が起こっているんだろうか? 王家も王宮も全容を把握出来ていないのではないか?」


 キースカルク侯爵の言う通りだと思います。


「とある事件を起こそうとしている勢力が暗躍していて、それを後ろからこっそり支援しながら事件後のこの国の急所をおえさようとしている何者かがいるんじゃないかと、私は予想してます。但し、事件自体はこの時の為に呼ばれたマユリさんが収めるんだと思います。因みにこれ以上これに関する詳しい話しは出来ません。」


 侯爵に向けて説明すると、侯爵は眉を寄せて難しい顔になりました。


「ほとんど何も明かしてもらっていないようなものだな。だがここから独自に調べるのは自由ということだな?」


「はい。でも、マユリさんと起こる筈の事件のことに関してだけは深追いしないで下さい。人智を超えたところから梃入れが入りますから。」


 これには侯爵から小さな舌打ちと溜息が返って来ました。


「そういう言えない、か。まあ良い。暗躍勢力とその更に後ろについては調べてみよう。慎重にな。」


 侯爵に頷き返してから、クイズナー隊長に向き直ります。


「クイズナー隊長。魔人に殿下の無事を確かめてみたんですけど、魔人を使ってる勢力のところに囚われてて、今のところ無事みたいです。」


「・・・それには信憑性はあるのかな? 相変わらず私には魔人は見えなかったが、フォーラス殿によると、魔人は君の要求に応じるような行動を取ったそうだね?」


 この場にいないフォーラスさんは別室で休ませて貰っています。


「魔人の謎は大神殿に行ったら解けるんじゃないかって気がします。」


「だから、君の契約待ち魔人が大神殿に行かせようとしてる、として敵方の魔人が完全に寝返るなんてことは起こり得るのかな?」


 それが出来るくらいならあの魔人は無表情の中で涙を溜めたりしていなかったんじゃないでしょうか?


「まあ、私に今分かることは、あの魔人が好き好んで呪詛のお手伝いをしてる訳じゃないんだろうってことだけですね。だから、彼に出来るギリギリの抵抗の一環として、私の頼みを聞いてくれたんだと思います。何が起こるか分かってなかったから出来たんでしょうね。」


 あの魔人が今回の呪詛の失敗について責められたり罰を受けるような事になっていないことを祈っておきましょう。


「ねぇ、おねー様。ここまで色々聞いて来たけど、もう一つ心配しなきゃいけないことがあるんじゃないの?」


 唐突に言い出したコルステアくんがかなりの真顔です。


「ん?えっと何かな?」


 何のことでしょうかと首を傾げると、小さな溜息が返って来ました。


「これだけ各地で色々やってると、そろそろおねー様の仕業だって敵方に抜けてるんじゃないの? おねー様の主に豊富な魔力を利用しようとして拉致犯も来るだろうけど、殺した方が早いって考えるヤツもいるんじゃないの?」


「あーえっと、やっぱりそうですよねぇ。」


 視線を明後日に逃しつつ答えるとコルステアくんから呆れたような溜息が返って来ました。


「そうだな。あちらも冷静になれば、ウチのアルティミアよりも余程レイカ殿のほうが邪魔だと思い至るだろう。そこは大丈夫なのか?クイズナー殿。」


 キースカルク侯爵も心配してくれたようです。


「元々、レイカくんがただの貴族の若君に偽装して旅を進める前提で組まれた護衛体制ですからね。こうなっては心許ないのは事実です。ですが向かう先も先ですから、表立ってこれ以上の護衛はかえって目立つばかりで益がない。」


 それも正論ですね。


 それもこれも好き勝手目立ってばかりのこちらの所為だと言われそうです。


 でも、誓ってわざとではありません。


「第五騎士団にもう少しだけ人を追加で付けて貰えないか頼んでみるくらいしかないだろうね。」


 アッサリ流したクイズナー隊長は、チラリとこちらを向きました。


「国境越えは明日だな。今日は宿を取って休んだほうが良いだろうね。」


 それには申し訳ないですが賛成です。


 と、そこでまた扉が開いてヒルデン伯爵が戻って来たようです。


「皆様、息子が目を覚ましたのを確認して参りました。それどころか、奇跡です。起き上がってこちらに来ておりまして、是非ご尽力頂きました皆様にお礼を申し上げたいと。」


 そう言って振り返った先から、ガウンを羽織った若者が歩いて来ます。


「いやいやいや、ダメでしょまだ起き上がっちゃ。」


 こちらが慌てて視線を動かした先で、バンフィードさんがアルティミアさんの姿を見付けて微笑み掛けています。


「アルティミア!」


「バンフィード、大丈夫なの?」


 アルティミアさんが慌てて駆け寄って、支えようと手を出しています、がバンフィードさんはそれに首を振って断ると、かなりしっかりした足取りでこちらに向かって来ます。


 どういうカラクリだとこちらもびっくりです。


「おねー様、何かした?」


 隣からコルステアくんのじっとりした囁きが来ますが、キッパリと首を振りますよ?


「全く、カケラも心当たりないです。」


 バンフィードさんはカケラの躊躇いもなく目の前まで来ると、その場に膝をつきました。


「あなたの声を聞きました。そして、暖かな魔力が包み込んでくれて、全身に力が行き渡るように癒されて。」


 そこまで聞いてから、あっと一つだけ心当たりが浮かびました。


「はあ。あの魔石、マジでヤバい代物だったわ。」


 思わず溢してしまったところ、コルステアくんとクイズナー隊長から不出来な子を見るような冷たい視線を喰らいました。


「問題はおねー様の魔力だね。本当どんな仕様してるの?」


 続けて溢されたコルステアくんの一言に、肩を縮めておきました。


「ああそうね。レイカ様のあの綺麗な魔力ですもの、そのくらいの効果があっても不思議ではありませんわ。」


 バンフィードさんの隣からアルティミアさんがうんうん頷きながら追い詰めて来ます。


「いや〜。ノーモア実験体、解剖も飼育もやめて〜。」


 両手を頰に当てつつイヤイヤしていると、コルステアくんに呆れ顔を向けられました。


「おねー様、そんな大人しい生き物じゃないでしょ?」


「あ、そうか。更地にしてやるって脅して自由を勝ち取るという切り札があったよね?」


 それにまたもや隣から溜息が来て、宥めるようにポンポンと頭を撫でられます。


「ま、そういう訳だから、勝手にウチのおねー様に近付かないでくれる? 勝手に馴々しく話し掛けるのもやめて? 色々難しい人だから。」


「え?っと、それ。アポイントメントは事務所を通して下さいみたいな?」


 流石に呆れ顔で問い掛けてみると、コルステアくんが珍しく良い笑顔で微笑み掛けてくれました。


「僕が認めない奴なんか、おねー様の視界に入らなくていいでしょ?」


 あれ? ウチの弟様、何か吹っ切れて変な方向に向かってないでしょうか?


「あ、やば。もう熱とか出て来たかも。周囲の状況の正しい認識が出来なくなってきたわ。クイズナー隊長、早く宿取りましょう! もう色々忘れて休みたいです!」


 そんなこちらに、それはそれは素敵な笑顔のヒルデン伯爵の、ウチに是非泊まって下さい、お部屋を直ぐにご用意しますという言葉が来ました。

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