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結局、王子様に奪われた朝食は、見兼ねたケインズさんがパンとフランクを追加で貰って来てくれて。
ただ、魔法禁止を言い渡されたので、仕方なくバサついて冷たいまま食すことになりました。
上り詰めて谷底まで落とされた気分は、どうやっても浮上して来ず、午前中の訓練は絶不調のまま終わりました。
カルシファー隊長が、ケインズさんとこっち見ながらボソボソやってましたから、事情を聞いて、勘弁してくれよとかまた言ってたんじゃないでしょうか。
言っておきますが隊長さん、パワハラ王子が虐めてきたんですからね?
人の楽しみにしてたご飯これ見よがしに奪った挙句、冷たく威圧と正論で押さえつけてから、嫌味で釘刺すような鬼畜な上司がいる職場とか、レイナードじゃなくてもやる気無くしますって。
教えて貰った騎士団の剣の型をなぞりながら、不貞腐れ顔をしてたので、今日は先輩達も弄りにくるのを控えてくれたようです。
最近、真面目に訓練してると、意地悪い口調と態度を装って、さり気なくアドバイスとかくれる素直じゃない先輩達がちらほら絡んで来るようになってました。
やっぱりイケメンが頑張ってると、周りも優しくなるんですよ。
顔面偏差値大事ですね。
まあ、やっかみも多分にあるんですけどね。
特に、朝の訓練が一緒じゃない他所の隊の方達からは、まだまだ当たりがキツいです。
それでも夕方の訓練で王子様と隊長から鬼の扱きを受けてるのを見てる人はまだ良いんです。
取り敢えず、当たらず触らず放って置いてくれるので。
食堂とか風呂とか、共同施設にいる時が一番ゲンナリします。
まあ、お風呂は人が少ない時間狙って猛スピードで周り見ないように済ませて、さっさと上がってしまうことにしてるんですけどね。
なんて言うんですか、覗いちゃいけない空間を、覗いてる気分になるので。
自分のというかレイナードの身体にすら慣れなくて、困る事色々なのに、です。
なので、食堂が一番雰囲気悪い、ご飯も不味い、だからこその、これ見よがし食事改革だったんです。
「レイナード、終われよ〜。飯行くぞ〜。」
ケインズさんが声を掛けてくれます。
もう最近では、レイナードはケインズさんとセット扱いです。
周りがそう扱うのに、ケインズさんが馴染み過ぎです。
何か妙な使命感に駆られちゃってるみたいで、本当申し訳ないですね。
でも、そのワードは今聞きたく無かったですね。
また今朝の事思い出して腐った空気を発散し始めてしまいました。
ダラダラ不貞腐れ気味にケインズさんに付いて行った食堂に足を踏み入れるなり、妙な視線とザワザワ。
鼻で笑う感じが伝わってきて、そんな子達には正座させてお説教してあげたくなりましたね。
長〜い単調な口調でお経読むみたいにおんなじ事何度も聞かせて、居眠りしたら背中パシッて叩くあれ、やってあげたいです。
勝手な妄想でメンタルちょっと持ち直したところで、配膳の列に並びます。
「なあ、レイナード。思ったんだが、お前が魔法でやったみたいに、厨房でパンを炙って貰うようにしたらどうだ? 希望者皆んながやって貰えるようにしたら、不公平感もなくなるし、何処かから告げ口や不満は出なくなるだろう? お前も、魔法を使わなくても満足出来るんじゃないのか?」
ケインズさんが、物凄く考えてくれて出してくれた代案なのでしょうが、残念、却下です!
「ケインズさん、厨房の人達、殺す気ですか?」
キョトンとして目を瞬かせるケインズさんに、うーんと唸りながら言葉を探します。
「ちよっと計算してみて下さいよ。カットされてるあのパン、1人大体2枚ですけど、それを火の前で誰かが一枚ずつ付きっきりで炙り続けるんですよ? ざっと第二騎士団の人達が100から150人だとして、とんだけ時間掛かると思います? パン一つに数時間コースで手間が掛かった上、食べる頃には最初に炙ったやつなんか冷めて余計に固くなってるんですよ?」
「う〜ん? つまり、手間掛かり過ぎて出来ないってことか?」
きちんと分かって貰えたようで良かったです。
という訳で、うんうん頷いていると、ちょっとだけ拗ね気味な難しい顔をされてしまいました。
「今の食堂の状況や設備では無理だってことですよ。例えば、思い切って設備投資して、一度に何十枚並べてさっと焼いて簡単に引き出せるような焼き窯を用意するとか。まあ、いずれはそういう技術が発展すれば可能ですよね。まあ、一番は保温設備と温め直し装置ですけど。」
これは、文化レベル的に、魔法でも使わない限り実現しそうにない話しだ。
ケインズさんは、途中から良く分からなくなったのか、こまったような顔になっていますね。
「なので、パンの焼き直しはこの際諦めます。それよりも、焼き直しが必要な程質の良くないパン自体の見直しを、まず始めの課題にしようと思います。」
ふふっと口元に企むような笑みを浮かべて言い切ってみせると、ケインズさんがまた困り顔で目を瞬かせました。
「お前さ、またろくでもない事企んでるだろ?」
呆れたようなケインズさんの突っ込みには、華麗な笑みを返しておきます。
「だってですね。殿下とトイトニー隊長が許可してくれたじゃないですか。食事改革して良いって。」
そうです。
あの方達、後から後悔しても許してあげませんから。
やると言ったらやるのが、新生レイナードですよ。
そうと決まればまずやる事は、きちんとした現状把握の為の実地調査と、改善するに当たって、実現可能な方法と方向性の決定です。
まずは、厨房に入り込んで調査する為の足掛かりを作る事。
それに並行して、図書館で調べ物です。
今のこの世界の文化レベルで出来そうで、妥当な改善を割り出します。
という訳で、やる気になって拳を握っていると、ケインズさんの溜息が隣から聞こえて来ました。
あ、これケインズさん巻き込まれること間違いなしですね。
そのやるせないお顔、ホントに済みませんね〜。




