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ダンプラルド遭遇から撃退?襲撃者捕獲事件の決着が付いて、国境の街に辿り着いたのは日付が変わる少し前のことでした。
本来なら街の門が閉まっていて朝まで外で待たされるところですが、ご一緒した第五騎士団の皆さんのおはからいで、少しだけ開いた脇門から中に入れることになりました。
その脇門を入ったところで、さあ解散と行きたかったところですが、第五騎士団の皆さんが笑顔の圧で営所への案内を申し出てくれました。
因みに、あの後街道傍で休んでいたところへ、街から第五騎士団の騎士さん達が駆け付けて来て、襲撃犯の人達はそちらへ引き渡され、身元を名乗ったクイズナー隊長との間で色々と押し問答があったようです。
斥候班長さん、ダンプラルドと接触したところで、騎士団に救援要請を送っていたようなんですよ。
そこから街の営所で騎士さん達が出動準備を整えて、駆け付けてきたのが決着が付いて暫くしてからだったということで、こちらが偶々行き合わなければ斥候さん達完全に手遅れだったでしょうね。
こちらの人員全てを営所に泊めてくれるとにこやかに話している第五騎士団の隊長さんですが、時々物凄く鋭い目をこわちらに向けて来て、逃がさないぞオーラが凄いんですよ。
斥候班長のナッキンズさんが道中でこそこそとここまでの出来事を報告していたようなので、何をしたのか完全には分からなくとも、断片的に聞こえた話しやらを繋ぎ合わせてとんでもない魔法を使ってしまったことは知られてしまっているようです。
後は、クイズナー隊長権限で、何処まで秘匿強要が可能なのかということになりますが、今回ばかりはちょっと大事になり過ぎていて、小手先の言い逃れでは躱し切れないのではないでしょうか。
国境の街ルウィニングにある第五騎士団の営所は、街の門から程近い場所にありました。
第三騎士団の営所が王都の東門の側にあったのと同じように、街の構造がそのようになっているのでしょう。
営所の門を潜ってまずは厩に案内され、鞍から外した荷物を次に案内された大部屋に入れることになりました。
女性のジリアさんとアルティミアさんは別室に案内されたようなのですが、ここでクイズナー隊長が物申してくれました。
「申し訳ないが、もう一部屋この2人の為に用意して貰えないだろうか?」
コルステアくんと2人でと指定して丁寧に頼んでくれましたが、案内してくれた騎士さんがこれには訝しそうな顔になっています。
「構いませんが、どういった理由でこのお二人だけ?」
クイズナー隊長よりも優遇措置を頼む意味が分からなかったのでしょう。
「ああ、まあいずれ分かるだろうから言っておくが、彼は神殿から聖獣認定された元サークマイトを連れている。色々と配慮が必要なのだ。」
成る程という言い訳を捻り出してくれて感謝です。
「聖獣? サークマイトがですか?」
信じられないというように問い返して来た騎士さんに、苦笑いを返してしまいました。
「悪いんですけど、他の誰かに何か影響があってもいけないから、お願い出来ないかな? それにこれから色々お話しすることになるなら、王都の父に伝紙鳥を飛ばして許可を取る必要があるんですよ。そうすれば、王弟殿下にも話しが通る筈なので。」
にっこり笑顔でそう爆弾を落としておくと、騎士さんが目を見開いて一瞬動きを止めました。
「わ、分かりました! ご用意致しますので暫くお待ち下さい!」
途端に丁寧になった騎士さんが走って行きました。
「ちょっと、君ね!」
クイズナー隊長が怒りの滲む顔で睨んで来ます、がこれは譲れませんね。
「クイズナー隊長、そろそろシフトチェンジのタイミングですよ。一先ず今は殿下を頼れないなら、私の立場としてはあちらを巻き込んでしまうしかないと思うんです。」
「しかし、裏もはっきりせず、事態がどう転ぶか分からない状況で、王弟殿下がこちらに付いて下さるとは思えないよ? 空振りだったらどうするつもりなのかな? 知ってると思うけど、王弟殿下は鬼の現実主義者だ。」
厳しく追求してくれるクイズナー隊長に、ふっと笑みを浮かべてみせます。
「そこはまあ、お父さんに頑張って貰うしかないですけど、実際には王弟殿下が動いて下さらなくても、ここで今後ろを匂わせられたら、一先ず第五騎士団での追求を躱して先に進めると思いませんか?」
「・・・普段は馬鹿な子に見えるのに、時々腹黒いんだからね。タイナーの言う通りだよ。」
聞き捨てならない台詞が続いて、ムッと唇を尖らせました。
「馬鹿な子って。しかも腹黒いって。私は最初から保身に一生懸命なだけですけど? ここってうっかりするとバッドエンドフラグがそこら中にゴロゴロ転がってるんですから! 必死になるに決まってるじゃないですか!」
「まあ、何に対する熱意かは知らないけど、まあ確かに、今となってはそれが最善策かもしれないね。」
漸く同意を取れたところで拳を握って勝利のポーズを取っていると、隣から溜息が聞こえて来ました。
「はいはい。それじゃ父上に伝紙鳥送れば良いのね? 伝えたいこと後でもっと詳しく教えて。上手く暈して仕上げるから。」
持つべきものは、やはり有能な弟ですね。
そんなやり取りをしている内に、先程の騎士さんが戻って来て、案内された個室に入って直ぐ、遅くに申し訳ないがと前置き付きで何と隊長さんが呼びに来ました。
クイズナー隊長が先に待っていた会議室には、第五騎士団の偉い人が深夜にも関わらず数名と、斥候班長のナッキンズさんもいました。
そこからは、改めてナッキンズ班長とクイズナー隊長が状況説明をして、時折こちらに集まる視線に、笑顔で許可がまだ出てないので、と躱す時間になりました。
あちらにとっては未消化のまま終わった報告会でしたが、小一時間程で解放して貰えてほっとしました。
帰って来た部屋で寝支度をしていると、コルステアくんが真面目な顔でこちらを見ていることに気付きました。
「おねー様。本当に王弟殿下に頼って良いの? 王弟殿下は、シルヴェイン王子殿下みたいに甘くないよ? 王家の為になると思えば情を捨てられる方だし、おねー様の気持ちを優先するなんて事もないよ?」
そう改めて言われてしまうと心配になって来ますが、クイズナー隊長も言った通り、今の最善はそれしかないと思うんです。
「そうだよね。でも、何とかするしかないでしょ? お父さんとか家に迷惑掛けることになったらごめんね?」
「・・・そんなの、父上と兄上が何とかするでしょ? おねー様はもうランバスティス伯爵家の人間なんだからね。」
いつも通りのぶっきら棒な口調ながら、優しい言葉をくれるコルステアくんに感謝しつつコルちゃんと一緒に布団に入りました。




