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 前方から再びドッカーンという爆発音が聞こえて来ると、こちらにまた人影が逃れてくるのが見えました。


「くっそ! メチャクチャだ! ゲホゲホ 何だってハザインバースが出て来るんだ!」


「いやいやいや、ゲホッ、でも助かりましたよ? あれが来なかったら間違いなく全滅コースでしたからね?」


「斥候の意味! マジで今回は死んだと思いましたからね、班長! ハザインバースと潰しあってる内にさっさと逃げますよ!」


 そんな喧しい会話がその人達から聞こえてきて、それにクイズナー隊長や先に避難してきていた様子の人達が近付いて行きます。


「班長! こちら特別任務中の第二騎士団ナイザリークの人達だそうです!」


 クイズナー隊長やリックさん達と話していた人が逃れて来た内の1人に報告しているようです。


「ああん? 第二騎士団ナイザリークがこんなとこに落ちてる訳ないだろ! っていや、落ちてたわ。あんたまさかの第二騎士団ナイザリークのクイズナー隊長じゃないのか?隊一番の魔法の使い手で、団長殿下の懐刀だって噂の? え、てゆうかそんな人が動いてる特別任務って・・・俺ら消されるんじゃね?」


 一気に言い切った班長さん、軍の関係者の方でしょうか?


「あーうん。君は第五騎士団の斥候班長ってことでいいかな?」


「あ、はい! 自分第五騎士団第七斥候班長のナッキンズであります!」


 ビシッと敬礼付きのナッキンズ班長、これぞ軍隊って感じで良いですね。


「じゃ、消えて。うそうそ、ここで出会ったこととこれから何か起こったとしても、忘れていいよ? 気絶してました、以上、良いね?」


 クイズナー隊長がにっこり笑顔でエグい要求をしています。


 これには、こちらの護衛さん達始め、ヴァイレンさん達もどん引いた顔になっています。


「と、冗談はともかく、状況説明してくれるかな? あの中では何が起こってたの?」


「あ、えっと。実は数日前から街道傍にダンプラルドの姿が見えるっていう未確認情報が第五騎士団に入ってまして、我々は事実確認の為に斥候として派遣されていました。本当にダンプラルドだった場合は状況によっては王都に援助要請が必要ですし、街道傍という事で早急に手を打つ必要がありましたから。」


 丁寧に説明を始めたナッキンズさん、中々の及び腰です。


 本来クイズナー隊長って油断ならない曲者感のある人ですからね。


「それで、本日確認に来た訳なんですが、思ったよりも街に近いこの場所でしかも街道上で出会す事になって、こちらも大いに焦りまして。」


「ん? 君達斥候班なんだよね? 仕掛けて来られる程近付いたのは油断してたからかな?」


 クイズナー隊長、容赦なく糾弾していくようです。


「いえ。こちらも何処で出会すか分からないという頭はありましたから、慎重に捜索を進めていたつもりでした。が、遠目に発見して直ぐに近付くのを止めたんですが、真っ直ぐな街道上で遮るものがなかったからか、気付かれて一気に距離を詰められてしまいました。」


 クイズナー隊長が顎に手をやって考える顔になっています。


「当然我々斥候班なので戦闘能力は高い方ではありませんから、すぐさま展開して逃亡を図ろうとしたんですが。そこへドッカンですよ。何故かハザインバースが突っ込んで来まして。」


「あー、そう。」


 そこで頭が痛そうな顔になったクイズナー隊長がチラッとこちらに目を向けました。


「それで? ダンプラルドとハザインバースは、どっちが優勢だったのかな? 今さっき、ハザインバースがもう1匹加わったように見えたけど?」


 あくまでハザインバースの出所には言及しないクイズナー隊長、そこはやっぱり誤魔化しときたいですよね?


「ええ、それが。あのダンプラルド、どうも変異種じゃないかと思うんですよ。普通の個体よりも明らかに好戦的で、魔法の二重展開とか当たり前みたいにバンバン使って来るんですよ。魔力量も半端なくて、それはハザインバースの方もそうなんですけど。どちらも本来無理なく倒せる相手以外に当たるとさっさと逃げ出していく筈なんですが、何故かどちらも引かずに戦闘が激化してまして。それで、さっきまで様子を窺ってたんですが、身の危険を感じて諦めて逃げて来ました。」


 これが報告の全てですという顔で締め括ったナッキンズさんにクイズナー隊長が苦い顔で溜息を吐きました。


 そして、仕方なくというようにこちらに視線を投げて手招きするクイズナー隊長です。


「レイナードくん。止められるの?」


 お父さんとヒヨコちゃんのことでしょうが、ここは無情にも言い切りましょう。


「無理です。多分。意思の疎通図れませんから。」


「・・・だよね。ナッキンズくん、ハザインバース側が勝つ可能性はありそうだった?」


「いえ、奇襲で倒し切れていませんから、ハザインバース側が不利ではないかと思います。後から突っ込んできた個体はまだ若そうでしたし。」


 ナッキンズさんの答えに、ドキリとしてしまいます。


「それって、ハザインバースの方が倒される可能性があるってこと?」


 思わず口を挟んでしまうと、ナッキンズさんが目を瞬かせつつこちらを見返してきます。


「はあ、まあ。貴方は?」


 それには答えずにクイズナー隊長に強い目を向けます。


「はいはい、ダメだよ?」


 半眼でダメだしをしてくれるクイズナー隊長に、こちらも腕組みで睨み返します。


「リミッター解除の許可をお願いします! 全力で潰してやりますからそのダンプラルド。山羊は山で大人しく草食んでれば良いんですよ。」


「いやいやいや、あんな血走った目の巨大山羊が平和に草食んでたら、逆に何か企んでるんじゃないかって心配になりますよ。」


 ナッキンズさんの隣の斥候班員さんが思わずというように突っ込んで来ましたが、申し訳ないですが今は無視とさせていただきたいと思います。


「じゃ、まずは現状把握の為、土煙り消しましょうか。」


 言ってお空前方に向かって手を翳します。


「待った待った! 何しようとしてるかな? 他人の目! 分かってるの?」


「分かってますけど! このままだとお父さんとヒヨコちゃんを犠牲にした挙句、何も問題が解決出来ないじゃないですか。」


 負けずに言い返しつつ、丁寧に作り上げたい魔法のイメージを頭の中に描いていきます。


「私達が逃げ切れても、後ろから来る人達、ほらちょっと前に追い抜いて来た人達ですよ、確実に山羊の餌になっちゃいますよ?」


 これにはクイズナー隊長も言い返せないのか反論はありませんでした。


 さて気を取り直して、今回は派手さは省いてコスパ優先です。


 巨大扇風機をイメージした旋風を土煙りの中にぶち込んで行きます。


「吹き飛べ土煙り!」


 何故か地面から巨大ファンが立ち上がって高速回転していたのは、見なかったことにしようと思います。


 想像力貧困とか、言わないで下さいね!


 お陰で土煙りが吹き飛ばされて視界がクリアーになりました。


 その中で血みどろであちこち毛並みにハゲが出来てところどころ切り傷のある巨大な山羊と、そこから少し離れた辺りで地面に降り立った片足を曲げて同じく怪我だらけのお父さんの姿が見えました。


 あれ? と思って見渡した上空に旋風に巻き込まれた様子のヒヨコちゃんが吹っ飛ばされていましたが、羽ばたいて旋風の軌道から抜け出して体勢を整え直した様子です。


「満身創痍だし・・・。お父さん!ヒヨコちゃんも退却!!」


 言い放つと、パッと3組の視線がこちらに来ました。


 ギロッと睨まれる山羊の視線にも、頑張って怯みませんよ!


「コルちゃん、取り敢えず遮断結界展開後、あれやるよ?」


 指差したのは山羊の胸元、心臓の辺りです。


 明らかに不自然に膨れ上がった腹の胸に近い辺りに、有り得ない場所に詰め込まれるように存在する2つ目の心臓。


 そう、ハートが2つあるんですが、その内の一つには血管は繋がっていなくて、代わりに黒い呪詛の帯で出来た管が伸びてもう一つの心臓との間をジョイントしています。


 不自然な律動によって無理やり動かされている黒い管の付いた心臓は、時折何処からか送り込まれるドス黒い液体に溶け出している魔力を濾し出してもう一つの心臓に送っているようです。


 ダンプラルドがこちらに向かって魔法展開を始めたところで、魔法結界の構築を始めます。


「おにー様、魔法避けの結界で良いの? 僕が張ったのに重ね掛けして。」


 と、コルステアくんが早々に唱えた呪文に従って展開されていく結界魔法に、別途効果の重ね掛けと強化を施していきます。


 流石は塔で一二の結界魔法使いです。


 仕事が早い上にムラのない綺麗な魔法避けの結界魔法が出来上がっていて、それに重ねたお陰で、かなりの強度が出たのではないでしょうか。

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