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昼休憩時ご一緒して先に出て行ったご一行に追い付いたのは、広場を引き払って出発してから数時間後のことでした。
無敵絡んで来る魔物なしだからなのか、ナシーダちゃん達軍馬の性能のお陰でしょうか。
いつかの商隊を追い抜いた時のように街道脇から声を掛けて追い抜いて行くことにしたようです。
リックさんの掛けた声に返事を返してきた一行は、旅慣れた風な武装した6名の集団でした。
ウチの護衛さん達のようなハンター兼護衛みたいな職業の人達でしょうか。
全員が馬移動で、6名の中で1人だけ女性のようです。
それぞれの馬にそこそこな大きさの荷物が括り付けられているので、馬車よりは早い運送業のような仕事をする人なのかもしれません。
そんな事をチラッと観察しつつ追い抜いて街道に戻ると、速度を上げて先を行く事になりました。
それから小一時間程経った頃でしょうか。
雨も上がったので、夕暮れ頃には国境の街に辿り着けるだろうと前列での話しが聞こえてきたところで、上空からピュルルル〜!と鋭い警告するような鳴き声が降って来ました。
そこから羽ばたきの音と共に、お父さんが少し高度を下げて真っ直ぐ前に進んで行きます。
ヒヨコちゃんは上空待機の指示が出ているのか、真上の上空をこちらの速度に合わせて飛んでついて来るようです。
ざわざわしつつ前列のリックさん達が少しだけ速度を落とし気味に進みつつ、伝言が回って来ます。
「レイナード様、今の何? それからクイズナーさん、このまま進んで突っ込んで良いかってリックから伝言。一回前まで行って相談して来てくれる?」
「分かった。行ってこよう。レイナードくんはこのままここにいなさい。」
クイズナー隊長がしっかりこちらに釘を刺しつつ、列を外れて横から皆を追い抜いて行きます。
「ハザインバースが近付いて逃げて行かない魔物が前方にいるということでしょうね。」
アルティミアさんの後ろに並ぶヴァイレンさんがこちらに話し掛けてきました。
「そうなんでしょうね。お父さんが警戒音出すくらいだから、ちょっと厄介なのがいるのかも。」
「ところで、レイナード殿は実戦ではどの程度お出来になるんでしょうか? クイズナー殿からは貴方を省いた大体の対処能力と雇いの護衛達の戦力は聞いていますが、貴方の情報が全くない。」
怖い追求をし始めたヴァイレンさんに顔が引きつります。
「あはは。それは戦力外通告ってやつですよ。隠しても仕方ないので正直に言いますけど、実戦経験なんか全くのゼロですし。魔法は使えますけど制御が全然らしいので、使えない判定なんですよ。その他、武器戦闘なんかは全くの役立たずです。」
「・・・なるほど。」
この正直過ぎる申告には返す言葉もなかったのか、ヴァイレンさん何やら真面目な顔で考え込み始めてしまいました。
「それでも、第二騎士団に所属なのでしょう? 困ったりはなさいませんの?」
アルティミアさんのその問いはちょっと痛いですね。
「どうしていくのかは、殿下と模索中だったんですよ。遠征中は後方支援とか。」
「そうですわね。聖なる魔法の使い手で治療魔法が使えるのなら、魔物の討伐遠征では重宝されそうですものね。」
それも制御が甘すぎてやり過ぎてしまっていることは、取り敢えず黙っておこうと思います。
「つまり、貴方がたの旅の目的は、貴女を大神殿に連れて行くことなのだと。今改めて良く分かりましたよ。」
ヴァイレンさんが何か得心がいったというように口にしてくれましたが、何とも複雑な気分になってしまいます。
「ふふ。シルヴェイン王子殿下と王家にとってどれだけ大事な方なのか分かるというものですわ、ね?」
アルティミアさんが声を顰めつつ、ヴァイレンさんに同意を求めていますが、ここはスルーの方向でいこうと思います。
と、前方からドッカーンという爆破音のようなものと共に、ギャーという怪獣の鳴き声のようなものや人の叫び声も聞こえてくるようです。
そして前方に薄ら見えてきた砂煙のようなものも。
「や、ば。お父さん突撃しちゃった? しかも誰か人がいそうですよね?」
ボソッと呟くと、前方からクイズナー隊長の声が上がります。
「とにかく急いで駆け付けるから! 遅れずついて来るように!」
何故か振り返ってしっかりこちらを向いたクイズナー隊長の言葉は、個人限定指示ですね。
「あ、はーい。」
何となく釈然としないものを感じつつ、返事をしたところで、先頭から順にスピードアップして行きます。
ナシーダちゃんも空気読んで前の馬に合わせてくれて、特に何もしなくてもいい状態で馬の背から落ちないようにだけ気を付けておくことになりました。
街道の先に土煙りが上がり大きな影が幾つかとその中から後退って来る人影が幾つか見えてきました。
上空からその中にヒヨコちゃんが突っ込んで行って、どうやら参戦するようです。
「もうやだ。怪獣映画みたいになってきた。何で火に油注ぎに行くのかな。」
冷や汗混じりに溢していると、クイズナー隊長に代わって隣に来たコルステアくんから深い溜息が返って来ました。
「ペットと旦那の手綱はちゃんと握りなよ。人に被害がないと良いけどね。」
じっとりと冷たい口調で言われますが、カケラも身に覚えも責任もないと思います。
そんな中、土煙りの中から出てきた様子の人達のところに辿り着いたところで先頭が止まりました。
馬から降りて出会った人達と何か話し始めたリックさん達と、クイズナー隊長は武器を抜いて前方に目を凝らしているようです。
因みに土煙りの向こうでは、地響きと共に焼けた臭いと怪獣の声、時折お父さんの声やヒヨコちゃんの声も聞こえます。
追い付いた先で馬を降りてクイズナー隊長のほうに駆け寄ると、リックさん達と一緒に話し始めたクイズナー隊長達の方からダンプラルドの変異種がハザインバースがという上擦った声が聞こえて来ます。
「ダンプラルド?」
直ぐ後ろから追ってきていた様子のオンサーさんの呟きが聞こえました。
「ダンプラルドってどんな魔物ですか?」
振り返って問い掛けると、オンサーさんが小さく首を傾げていました。
「ああ、山羊をデカくして凶悪な角と真っ赤な血走った目で魔法攻撃を仕掛けてくる魔獣だけどな、普通はもっと山奥の森の中とかに生息してる。」
想像してみて腰が引けて来ました。
「魔法攻撃バンバン展開してくるんですよね? 迂闊に近付けないじゃないですか。」
「ああ。だから、魔獣認定されてて、討伐となると第二騎士団が呼ばれる率が高いんだ。」
「・・・来てくれない、ですよね?」
今の第二騎士団の出動場所と状況を考えても、直ぐに駆け付けてくれるとは思えません。
「そうだろうな。大体ダンプラルドがこんな平地のしかも街道に現れるなんて、聞いたこともない。大抵、山道付近に出たから討伐隊を出してくれって要請があって、団長がそれから派遣を検討するような緊急度が高くない出動になる場合が殆どなんだ。」
オンサーさんの説明に何とも嫌ぁな気分になってきます。
「変異種って聞こえましたよ?」
「そうだよなぁ。」
これにはオンサーさんも苦笑いでした。




