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 朝から小雨の降る街道を走り始めましたが、出発して直ぐにヒヨコちゃん達親子の姿を上空に見掛けました。


 出発前にクイズナー隊長から教えて貰った撥水魔法を掛けておいたので、不快感は軽減されています。


 ただ、視界だけは薄曇った感じになってしまいます。


 基本移動はナシーダちゃん任せなので、それ程困る訳ではないのですが、雨の日の移動はイマイチだと良く分かりました。


 ところで、今日からの移動は真っ直ぐ国境の街ルウィニングに向かっていますが、国境を越えるのは早くて明日、ルウィニングへの到着が遅れれば明後日になるそうです。


 国境を越えると漸く今回の大神殿行きの旅程の半分をこなしたことになるそうですが、道のりはまだまだ長いですね。


「カダルシウスを出たら、ファデラート大神殿のある神聖都市マドーラまで3日か4日掛かるんですよね?」


 今日から左隣に並んで進んでいるクイズナー隊長に問い掛けてみると、こちらに目を向けて頷き返してくれました。


「国境の向こうはスーラビダン王国だが、この国は掠め通るくらいのもので、一泊はすることになるだろうが、翌日には直ぐにファデラート大神殿の直轄地に入るんだけどね。」


 そこで言葉を切ったクイズナー隊長は片方の口の端を少しだけ吊り上げました。


「そこから山の上にあるマドーラまで徒歩で登れる修行者の道があるんだけど、マドーラまで山道を登り下りしながらの工程になるから、素人なら5日は掛かるそうなんだね。」


 それはかなり体力勝負なハードな旅になりそうです。


「そこで、山の麓を回り込む街道が整備されているんだが、これが途中からメルビアス公国の領土に入っていて、公国側から大神殿に向けて馬や馬車も通れる立派な街道が整備されてるわけだ。が、漏れなく安くない通行料を取られるんだよね。」


 公国、商売してますね。


「大神殿の麓の公国の街の宿に宿泊するとその通行料がお得になるというので、そちらに様子を見つつ最低でも一泊はする予定だよ。」


 世知辛い世の中です。


「成る程。クイズナー先生は過去に大神殿に行ったことがあるんですか?」


 長命種のクイズナー隊長なら凡ゆる土地を訪れた事がある可能性があるんじゃないでしょうか。


 が、これにはクイズナー隊長が何処か皮肉げな笑みを微かに浮かべたように見えました。


「そもそも魔法使いが神殿に興味があると思うかな? 僕もね、第二騎士団ナイザリークに入って討伐任務に出るようになってから初めて神殿の治療師や神官と関わりが出来たくらいだね。」


 そういうものなのかもしれません。


「そうなんですね。私も信心深い方じゃなかったので何とも言えませんけど、魔法使いってみんなそんな感じなんですか?」


「さあね。私は長命種だからなのか、タイナーの影響なのか、そんな風になってしまったが、神の奇跡を信じて真摯に祈りを捧げる者達がいるのは事実だ。そして、それが悪い事だとも思わないな。だが、こちらに強要するのだけはやめて欲しいけどね。」


 そんなクイズナー隊長の本音も聞けて、少しだけホッとしたような気がしました。


 あちらでは、初詣とお盆の墓参りとクリスマスをイベント括りで適当な匙加減でこなしてきた身としては、神を信じないとか有り得ないとかいうツッコミが一番困るんですよね。


 信心深い人が熱心に祈ってらっしゃるのは別に気にならないのですが。


「そですか。ちょっと気が楽になりました。私も元からあんまり信心深くないので。」


 正直にそう答えてみると、ふっと苦めの笑みを返されました。


「フォーラス殿の前では胸張って言わないようにね。」


 言われてから後ろの後ろ辺りにいるフォーラスさんをチラッと振り返ってみましたが、流石に聞こえていなかったようです。


 考えてみると、何の神様かもよく知りませんが、大神殿に行って大神官様に色々相談するとなると、神様信じてます的なパフォーマンスも必要なんでしょうか。


 信じるものは救われる的な雰囲気だった場合、取り繕うことも大事かもしれません。


「えっと、その辺りはまあ頑張ります。」


 諸々込めて答えたところで、先頭の方から休憩の合図が来ました。


 ゆっくりと速度を落とした先で見えてきたのは、腰丈程の木の柵が囲う樹木の生えていない広場のような場所でした。


 柵の範囲はちょっとした庭付き一軒家の敷地くらいでしょうか。


 10名1組くらいの集団で3組くらいならテント張ってキャンプ出来るくらいの広さですね。


 入って行った広場には先客がいらっしゃるようで、早めの昼食を終えたところのようです。


 馬を降りて広場の片隅に繋いだところで、リックさんとフォーラスさんが先客に軽く挨拶しに行くようですね。


 その間に他の皆でお昼ご飯の準備です。


 朝街を出る前に買ってきた軽食をもそっと食べるのですが、時間に余裕がある時は護衛の皆さんが作ってくれたスープをお裾分けして貰ったりもします。


 この休憩時間が大抵ヒヨコちゃん親子との交流時間になったりするので、クイズナー隊長とコルステアくん、ケインズさんとオンサーさんは付き合ってくれています。


「レイナード様、わたくし野営地には初めて入りましたけど、こんな風になっているんですのね。」


 近付いて来たアルティミアさんが興味深そうにキョロキョロしつつ話し掛けてきましたが、実はこちらも初野営地だったりします。


 これまでの道中の休憩場所は、道の脇の樹木がない開けた場所でだったので、囲いのあるような人の手の入った広場は初めてです。


「本当ですね。でもアルテさんは旅の間のお昼はどうしてたんですか?」


 ふと気になって聞いてみると、にこりと微笑み返されました。


「馬車で移動していましたから、わたくしやお付きの者は馬車の中で頂いておりましたわ。」


 成る程、馬車の中ならお嬢様でも安全圏なのかもしれません。


「あちらに魔物避けの魔石を置いて、柵の結界を発動させるんですね。」


 言われて目を向けると、お隣のブースの先客さん達が滞在している周りには、薄らと結界が広がる膜のようなものが見えます。


 その中心には石碑のような物が建っていて、そこに魔石が乗せられています。


 その魔石からは少しまだらで荒いところもありますが、薄いオレンジ色の魔力が広がって結界を形成しているようです。


 目を戻してこちらも護衛さん達が荷物を広げ始めた辺りの中心を見ると、小振りな石碑にコルステアくんが魔石を乗せています。


 途端に広がる結界は、流石の高品質なのか、綺麗に赤っぽい魔力を満遍なく広げて柵の辺りまでをすっぽりと包んでいます。


「さっすが高品質高魔力だねぇ。」


 ボソッと呟いてみると、アルティミアさんにクスッと笑われました。


「さて、レイナードくんはちょっとお散歩ね。ここではまあ色々マズイからね。」


 クイズナー隊長にそう声を掛けられて、ヒヨコちゃんとの触れ合いタイムは少し離れた場所で行うようです。


「はーい。」


 返事をして続こうとしたところで、上空からピュルルルと呼び掛けるような鳴き声が聞こえて来ます。


「あ。」


 声を漏らしつつ、引きつった顔になったクイズナー隊長と急いで広場の入り口に向かいます。


 先客さん達やヴァイレンさん達アルティミアさんの護衛さん達が上空を一斉に見上げて警戒体制に入っています。


 お構いなくと声を上げたいところでしたが、大急ぎで向かった広場入り口から外に踏み出したところで、バサッという羽ばたきの音と共に、少し前方にお父さんが降りてきました。


「手遅れでしたね〜。」


 乾いた笑いを浮かべつつクイズナー隊長に言ってみると、深々とした溜息と共に傍へ避けて、お父さんと遅れて降りて来たヒヨコちゃんに向かう道を開けてくれました。


「おはようお父さん、ヒヨコちゃん。ここは公共の場所なので、他の人の迷惑になるといけないから、ちょっと離れようか。」


 と声を掛けてみますが、そういえばこちらの言葉は理解してくれないんでした。


 近付いて行ったこちらに、お父さんとヒヨコちゃんが頭を突き出して来ます。


「キュウッ。」


 抱っこ紐からコルちゃんが顔を出してヒヨコちゃんに挨拶しているんだか、離れようと通訳してくれているのか分かりませんが、少しだけ頭を引っ込めたヒヨコちゃんとは違いお父さんは全く気にも止めていないようです。


「ハザインバース!? 離れろ!! 危ないぞ!」


 後ろの方から先客の皆さんのそんな声が上がりつつ騒ぎが聞こえてきますが、そこはリックさん達が宥めておいてくれることを祈りつつ、もう仕方がないのでナデナデタイムに入ろうと思います。


 多分無意識に魔力を分け与えているのだろうとライアットさんが言っていた日課をこなすことにしますね。


「はいはい。お父さんとヒヨコちゃん、今日は他のお客さんもいるからお邪魔にならないように手早く済ませようね。間違っても見知らぬ相手だからって火吹いたりしないようにね!」


 言ってる側からチラッチラッと騒ぎ声のする広場に目をやるお父さん、ホントにやめて欲しいです。


 頭を撫でつつよそ見させないように頭をグイッとこちらに向けてみます。


「ピュル〜。」


 少しだけ不満そうなお父さんを苦笑付きで宥めつつ、好奇心に目を輝かせているヒヨコちゃんの頭も撫でて宥めておきます。


「あれ? そういえばヒヨコちゃん達って当然国境越えてもついて来る気だよね? いくら上空を超えて行くにしても、連れですって気付かれて問題になったりしないのかな?」


 ボソッと呟いてみると、クイズナー隊長の溜息が聞こえてきて、チラッと振り返った先ですっと目を逸らされました。


 あれは、ノープランってことですね。


 まあなるようにしかならないんでしょうが。


 そんなことを考えつつ撫で撫でしている内に、気が済んだのか、珍しく空気を読んだのか、ヒヨコちゃん親子は上空に去って行きました。

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