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 夕食時、クイズナー隊長の紹介でここからの道中の同行者としてアルティミアさんとヴァイレンさん、その他2人の護衛騎士さんが紹介されると、リックさん達護衛の皆さんが微妙な反応を返して来ました。


「これは、追加料金案件だよな?」


 すかさず言い出したピードさんの言葉は想定内だったのか、クイズナー隊長は少し苦い顔になりつつも頷き返していました。


 そこから護衛の中心をレイナードとアルティミアさんの2人に据える事など、クイズナー隊長とヴァイレンさんが護衛の皆さんと細かい話しを詰め始めたようです。


 その間に食事をと席についたところで、隣に来ようとしていたコルステアくんとの間にするりとアルティミアさんが割り込んで来ました。


 呆気に取られるコルステアくんににこりと微笑み返してから、アルティミアさんはしっかり隣の席に座ってしまったようです。


 一つ分向こうの席になったコルステアくんが何か納得出来ないような顔になって、それでも何も言わずに食事を始めたようでした。


「レイナード様、何かお取りしましょうか?」


 テーブルの真ん中に並ぶ大皿料理を指して言うアルティミアさんの迫真の演技に軽く引きつりそうになりつつ、ブンブンと頭を振ります。


「大丈夫です。アルテさんこそ、大皿料理大丈夫ですか? 何か取ります?」


 護衛さん達には、アルティミアさんのことは魔力見のアルティミア姫だとは明かさず、貴族のお嬢様のアルテさんで通すことになっています。


「まあ、レイナード様に給仕して頂けるなんて、そんなのわたくし幸せ過ぎて食事が喉を通りませんわ。」


 白熱する演技にどうしようかと戸惑っていると、アルティミアさんを挟んだ向こうからコルステアくんが立ち上がって身を乗り出すと、大皿からさっと取り皿に幾つか取り分けてアルティミアさんを避けて差し出して来ました。


「はいおにー様、この辺でいい?」


「・・・あ、うん。ありがと。」


 何でしょう、この、弟に好みをしっかり把握されてる状況。


 しかも、これまで大皿から取り分けて貰ったことなんかないんですが、さも当たり前のように捩じ込んで来ましたよ?


「あら、コルステア様。流石ご兄弟ですわね。レイナード様の好みは把握してらっしゃるんですのね?」


「当たり前でしょう? おにー様、朝は控えめにパンと脂の少ないハムかオムレツとあっさりスープか果実水くらい。お昼は少し多めパンはパリパリ固めが好き。肉料理込みで添えられてる野菜は必ず完食派、一応身体の事考えてるみたい。夜は主食は控えめ、肉魚どちらも食べるけど味付けは濃過ぎないのが好きみたい。薄味煮込み野菜とかも結構好きみたいだよ?」


 その列挙には、ドンびいてしまいそうです。


「ちょ、何でそこまで把握されてるの? ハイドナー? それともメイドのどっちか?」


 これはもう情報漏洩があるとしか思えませんね。


「は? 別に使用人に聞かなくてもあれだけ一緒にご飯食べる機会があったら分かるでしょ?」


 いやいや、ウチの弟様って何故にここまで無駄に有能なんでしょうか。


「明らか能力の無駄遣いだよね?」


「別に? ロザリーナに弟ならそのくらい把握してなくて恥ずかしくないのかって言われるの癪に触るし。偶に実家の晩餐に参加すると、話題おにー様のことばっかりだからね。」


 えっと、ロザリーナさんもランバスティス伯爵家の皆さんも、色々大丈夫でしょうか。


「暇か? 暇なんだよね?みんな。」


 ボソッと呟いたところで、隣のアルティミアさんがばっとコルステアくんの方を向きました。


 そして徐にコルステアくんの左手を両手で包み込むように掴みましたよ。


「コルステア様。ご兄弟なんてズルいですわ。どうしたって勝てませんもの。この際、是非お友達になって下さいませ!」


 本当に演技かと思えるようなこのアルティミアさんの推し活ぶりには軽く腰が引けつつも、感心してしまいました。


「・・・あれ、修羅場?」


「まあ、ある意味そうだろ?」


「弟、お兄ちゃん好き過ぎでしょ。」


「また、更に騒がしくなりそうだな。」


「台風の目っていうのは、ああいう人を言うんだね。」


 お向かいから護衛さん達の遠慮ない突っ込みが聞こえて、物凄く深々と溜息を吐きたくなりました。


「あ、そういえば護衛と言えば朝出発したら加わるあの凶悪最強の護衛のこと、お嬢様達には説明したのか?」


 ふと思い出したようにリックさんがクイズナー隊長に問い掛けています。


「あー、あー、そうだったね。」


 微妙にげんなりした顔になったクイズナー隊長ですが、しっかりアルティミアさんとヴァイレンさんの関心を引きつけたようです。


「凶悪最強の護衛?」


「というのは?」


 アルティミアさんの言葉に被せるように問い掛けるヴァイレンさん、護衛としては中々の遠慮の無さですね。


 と、そこでこちらを向いたクイズナー隊長の顔が疲れ切っています。


「ハザインバースの親子と仲良しなんですよ。それで何故か護衛のように着いて来てて。お陰で魔物が勝手に避けてくんですよ。うん、役得だよね。」


 ちょっと明後日の方を向きながら垂れ流しておくと、そこら中から深い溜息が聞こえて来たのは何故でしょうか?おかしいですね。


「・・・ま、まあ素敵。流石レイナード様ですわ。」


 さしものアルティミアさんでもこれには動揺を隠し切れなかったようです。


「魔物が避けるのはともかく、それはこちらには影響はないのでしょうか?」


 気を取り直した様子のヴァイレンさんからの冷静な確認が始まります。


「・・・多分? まあ、刺激するような事をしなければよっぽど大丈夫だと思います。」


 これには視界の端で護衛の皆さんが一斉に凪いだ目になっているのが見えた気がしましたが、きっと気の所為です。


「クイズナー殿、段々というか益々というか心配になってきましたよ。」


 ヴァイレンさんがクイズナー隊長に訴えているのが耳に入って来ましたが、そちらからはそおっと視線を外しつつ、食事を始めることにしました。


 揚げ魚の南蛮漬け風は酒のあてに良いようにかなりピリ辛気味ですが、お陰で少し臭みのある川魚のクセが緩和されて、口の中の痺れが薄れると次を食べたくなる不思議とクセになる逸品です。


 パリッと焼き上げて一口大に斜め切りにされた太めのウインナーは、添えてあるタバスコのような辛味ソースに付けて食べるとこれまた美味しいおつまみになります。


 ですが、目の前には美味しい天然水を生成して入れる為の空のコップしか置かれていません。


「一杯だけエールとか・・・。」


「ダメ。」


 いつから聞いていたのか即行で返ってきたクイズナー隊長からの一言にはムッと唇を尖らせてしまいます。


「成人してるのにぃ。」


「自立して自分の面倒を自分で見られるのが大人の定義だと思うけど?」


 小憎らしいお言葉がまた即行で返って来て、更にムッとしてしまいます。


「は? 自分の面倒くらい自分で見れますけど? それはちょっと、常識に乏しかったり、生活力ないところもあるかもしれませんけど!」


 頑張って言い募るこちらに、ふんと鼻を鳴らされました。


「へぇ、そうなの? それで面倒見られてないつもりなんだね?」


 冷たい視線と共に来た台詞にちょっとだけ視線を逸らしてしまいました。


「・・・飲酒と中身大人かどうかは関係ないし。身体的に大人なら問題ないはずなのに。」


 負け惜しみのようにボソッと溢した一言に、アルティミアさんを挟んだ隣のコルステアくんから溜息が聞こえて来ます。


「おにー様、往生際悪いよ?さっさと諦めたら?」


 言いながら自分のコップをこちらに差し出してくるコルステアくん、アルプスの美味しい天然水希望ってことですよね?


 何となく不本意な気分になりつつも、今日も皆さんのコップに順に生成した美味しい天然水を注ぐことになりました。

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