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はあ〜と、盛大な溜息がトイトニー隊長から出ました。
「殿下、コイツの首根っこ引っ掴んで脳みそ揺さぶって正常に戻して良いですか?」
トイトニー隊長が隣で苦い顔で沈黙中の王子様にとんでもない嘆願してます。
「ん? その程度で元に戻るのか? 特大の雷魔法でも脳天に落としてやった方が良いんじゃないのか?」
しれっと言いましたけど、この人本当に鬼畜ですよね。
「こ、殺す気ですよね? お2人共。せめて炙り立てカリッと香ばしいパンと皮目パリッと噛み付くとジューシーな肉汁溢れ出すフランク食べてからで良いですか?」
「・・・。どんな凄い料理だ・・・。」
トイトニー隊長、遠い目になってます。
では、この隙に。
2回目で火力調整も完璧な指先バーナーを着火。
鼻歌混じりにフォークに刺したパンとフランクをパリッと炙ってしまいます。
特に他に要望の声も上がらないので消火。
では、ルンルンでいただきま〜す。
と、かぶりつこうとしたところで、ガシッとその腕を掴まれました。
「おいレイナード。お前、本当いい度胸してるよな。」
剣呑なトイトニー隊長の声が聞こえますが、香ばしい香りを立てるパンとフランクから目が逸らせません。
と、ヒョイっと持っていたパンを横から奪われました。
斜め向かいからパリッパリッと音が聞こえて来ます。
「ああ、確かにパリパリだな。まあ、悪くはない。」
貴方何してるんですか、王子様!
「殿下! 毒味もせずに良くもそんな怪しげなもの食べられましたね!」
トイトニー隊長の苦い言葉が挟まれます。
「こっちの腸詰肉の燻製。これも噛み付いた時の歯応えは中々だな。肉汁はよく分からなかったが。」
言いながら、何と王子様はフランクまで食べてます。
「野営の時、持ってって炊き出しの火で炙ったらこんな感じになるんじゃないか? 次の遠征の時、持って行ってみるか。」
この人、なに人のご飯当たり前みたいに食べてるんでしょうか。
滅茶苦茶剣呑な目で睨んでみますが、ちょっと涙目になってるかもしれないです。
「さて、これで心置きなく話が出来るなレイナード。」
ここで王子様の声のトーンがぐんと下がりました。
人のご飯食べといて、何が心置きなくですか!
こちらの心の叫びは無視されるようです。
まあ、あくまで心の叫びですから、外に出てないんですけどね。
「はっきり言っておく。お前は柱の結界付きの訓練場以外での魔法の使用を禁止する。」
な、どんな嫌がらせですか!
王子様に恨みがましい目を向けますが、微塵も動揺してくれないようです。
ご存知でしょうか? 食べ物の恨みは怖いって言われてるんですよ?
いつか、後悔させてやりますからね! 覚えてて下さい!
「まあ、見たところその程度の魔法制御は訳もないようだな。今日の夕方から、本格的な訓練に入る。・・・サボるなよ。」
そこまで一方的に告げた王子様は、こちらの返事を待つ事もなく立ち上がりました。
ご馳走様もなしですか。
余りにも悔しくてこちらも立ち上がって睨んでやりました。
「一食抜かれましたから、お腹が減って力が出ません! 訓練なんて無理ですね!」
言い返してやりました。
しかも彼には出典が絶対分からないお子様向け某アニメの台詞から嫌味を込めて抜粋です。
因みに、これで首が物理的に飛んだら、まあその時ですね。
踵を返して去りかけていた王子様がちらりと振り返って。
「だったら、自分だけセコイことして手を加えてこれ見よがしに美味いものを食べてるんじゃなくて、厨房に手を入れれば良んじゃないのか?」
その捨て台詞はどうでしょう。
確かに、1人だけちょっとズルい感はあったかもしれませんが、食べた事は全然謝ってませんよね?
本当に腹が立ちます。
そのまま立ち去る王子様を追い掛けようとしたトイトニー隊長も一度立ち止まって。
「ま、ここの飯は不味いって有名だからな。その上、改善を申し入れても、予算がどうたら原価が云々鼻息荒く言い返してくるんだよな。そしていっつも喧嘩別れだ。ま、これが良い機会かもしれないな。ちょっと騒いでみたらどうだ?」
その無責任な煽りもどうかと思いますが、不味いって分かってるなら、改革してやろうじゃないですか。
焚き付けた事、後悔させてやりますからね!
2人揃って食堂から出て行く後ろ姿を睨みながら、心に固く誓いました。




