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「お前はダメだ。王城魔法使いだろ? 魔法の造りが気持ち悪いくらい王城風だからな。王城魔法使い共に俺の研究を見せてやるつもりはない。」


 はっきりきっぱり言い切ったタイナーさん、過去に王城魔法使いと何かあったんでしょうか?


 と、それはともかくもっと気になることを聞いてみることにします。


「んん? そんな魔法の造りの違いって分かるもの?」


 それにはタイナーさんに頷き返されました。


「ああ。魔法は本来術者が自由に構築するものだ。大きい魔法なら、最低限の安全確保の為に呪文を唱える方が良いが、結局は思い描いた結果を魔力をもって具現化する。だが、誰もが想像力豊かで望んだものを明確に思い描けるわけじゃない。だから、師匠とする魔法使いが見本を見せたりするんだがな。」


 これにはうん?と首を傾げてしまいました。


「私、誰かに見本とか見せて貰ったことないですよ? あ、でも結界魔法はコルステアくんのを参考にしてるかな。」


「それはな。あんたが俺達とは違う知識や理論を元に魔法を構築してるからだ。だから、誰の魔法とも違うものを使ってるってことだ。その弟の結界魔法も、あんたが使う時は参考にしてるだけで全く違うものとして組み直してるんだろうな。」


 そう言われるとそうなのかもしれません。


 自分の理解が及ぶ魔法になるように、無意識に魔法を組み直して構築しているのかもしれませんね。


「へぇ。そういうこと気付くのも、タイナーさんだから? それとも魔力を見える人特有のものだとか?」


 これが魔法の素養のある人なら誰でも分かるような違いだとすると、魔法を使うだけで異世界転移者だと気付かれるということになります。


 もしそうなら、魔法の使用には別の意味でも気を付けないといけませんね。


「うーん。まあ、そもそもあんたの魔力からして特殊過ぎるからな。それでも魔力をはっきり見る奴ってのはそんなに多くない。だがな、魔法の構造となると魔法研究にのめり込んでるような奴ならあんたの魔法がちょっと違うってのは見て分かるだろうな。」


 えっと少しだけ引きつった顔になっていると、タイナーさんはふっと苦い笑みを浮かべました。


「だけどな、安心しろ。特異性には気付いても、精々誰に師事したんだって訊かれるくらいだろう。」


 これにはかなりホッとしました。


「という訳で、そんな風に問われた時は、お前の師匠は俺だって事にしといたらどうだ?」


「お願いします師匠。」


 これは一も二もなくそう返事しておきました。


 と、途端にタイナーさんが拳を握ってにやりと笑いました。


「よし! これでお前は俺に貸し一つだ。忘れるなよ!」


「あー、はいはい。」


 ところでこの子供みたいな大魔法使い様ですが、おいくつなんでしょうかね。


「よし、それじゃ改めて、俺の研究室に連れてってやろうか。」


 ご機嫌なタイナーさんが立ち上がったので、こちらも席を立って付き合うことにしました。


 じっとりしたコルステアくんの視線が追い掛けて来ましたが、ここは気付かなかったふりでタイナーさんに付いて行くことにしました。


 応接間のある階から更に上がった研究室は、昨日シルヴェイン王子行方不明の一報がなければクイズナー隊長と一緒にお邪魔する予定だった部屋です。


 昨日見損ねた空の装置も見せて貰えるんでしょうか?


 個人的には興味がありますが、今は流石にそんな場合ではないと、少し焦った気持ちになっています。


 立ち止まった扉の前で、タイナーさんが扉に向かって手を突き出すと、魔力が扉の溝模様に吸い込まれて、それが個人認証魔法になっているのか、扉がポコンと内側に開きました。


 この塔の入り口が開いた時も思いましたが、こちらに来てから王都でも王城魔法使いの塔でも見なかった何処か覚えがあるような構造に違和感を覚えましたが、部屋に入った途端にそれが確信に変わりました。


 正面に身体を包み込むような背凭れ付きの椅子の背が見え、その前方には画面分割された複数のモニター、改めそれを模した明かり取りのはめ殺しの窓が並び、椅子の前には横広のデスクがあって、制御盤のキーに似せた魔石が並んでいます。


「うわ〜。一昔前のコックピットか。」


 思わずボソリと呟いてしまいました。


「ん? やっぱり異世界風なのか? 実はな、これも長命種が受け継いで来た建築様式なんだよな。」


 これはもう、マジか〜と低く呟くしかありませんね。


 過去の異世界転移者さん、遠慮なく趣味に走りまくった技術露出をしてたみたいですね。


 まあ、確かにヤケクソになって趣味に走りたくなった気持ちは分からなくもないです。


「そうか。そうだよな。やっぱお前には話しとくべきだな。名前だけでも弟子ってことにしたし。クイズナーも何だかんだ気に入ってる。最悪な形であいつを巻き込んで欲しくもないしな。」


 何やら長い前置きが来て、目を瞬かせてしまいます。


 それからタイナーさんは扉が閉まるのを目で確認してから顔付きを改めたようです。


「お前に付いてる監視誘導員だったか? そいつに大神殿に行けって言われてるんだろ? こう言っちゃ何だが、気を付けろよ?」


 いきなりそんな話しを始めたタイナーさんに驚きの目を向けてしまいました。


「どういう意味ですか?」


「長命種の俺たちには普通の人間と比べると何をやるにも長い時間がある。何かを探求すればより深くまで潜ることが出来、人との関わりも多くなる。つまり、見ようと思えばより深く広く世界を見渡すことが出来るって訳だ。」


 その話しが何処に繋がるのか今一良く分からなくて、一先ず相槌を打っておくと、タイナーさんは満足したように続けました。


「他の世界からやって来たという神々の寵児なるものは、大抵意図的に神殿に繋がれる。そもそも彼らは魔法使いではなく聖なる魔力を行使する者だからだ。そして、その力をもって世界を救う為に呼ばれる。」


 これは、そうなのだろうと納得出来る話しです。


「そうやって呼ばれた寵児達は、この世界の危機を救う為に、この世界に生まれた者が持ち得ないような強力な聖なる魔力を持ってやってくる。」


 これもその通りなんでしょう。


「だがその役目を終えた神々の寵児は、俺の知る限りでは二通りの道を歩む。まず役目を終えても聖なる魔力を失わなかった者は、大神殿に召喚されて神殿で世界と人々の為に尽くした生涯を送る。そして役目と共にその力を失った者は、各国の王族など、権力者と婚姻関係を結ぶ。」


 その二通りの先しかないというのは驚きと共に、作為を感じますね。


「ところがだ。その子孫に聖なる魔法を受け継いだ者が生まれた例はない。つまり寵児に与えられた聖なる魔力は一代限りだってことだ。」


 言葉を切ったタイナーさんが、こちらをジッと見つめて来ます。


「纏めると、神殿と神々の寵児には何かがある。だが、神殿は表立って神々の寵児は全て神殿に属するなんて事は言った試しがない。つまり、表立っては言えない秘密にしなきゃならないような何かがあるってことだ。」


 強い瞳のタイナーさんが言い切ったところで、小さな手が耳の辺りに触れているのに気付きました。


『・・・我が君、だめです。お願い聞かないで。』


 らしくもないような小さな震える声で呟いた指人形は、小さな手で耳を塞ごうとしたようでした。


「指人形・・・。」


『もう彼にやめさせてください。これ以上は口にしてはいけません。僕と我が君と彼が消されてしまう。』


 半泣きの声で囁く指人形に、目を見張ってしまいます。


「えっと、タイナーさん。貴重なお話しありがとうございます。ただ、これ以上はヤバいみたいなので、口にしないで下さい。」


「ふうん? まあ、お前の場合はっきり監視誘導するって言われてるからな。だがな、だからこそ大神殿での立ち回りを間違えるなよ。お前は聖女様なだけじゃない。俺の弟子の魔法使いなんだからな!」


 そう言葉を尽くしてくれたタイナーさんに、驚きと共に感謝の目を向けて頷き返しました。


 大神殿では、何が起こるのか分かりませんが、何かが待っていることは確かなようです。


 その中で解呪にも取り組んで貰わなければいけませんし、何より一番大事なのは、マユリさんのシナリオのモブキャラとしてイレギュラー出演の権利を貰うことなんじゃないでしょうか。


 神様的存在に接触出来るとしたら、恐らく大神殿で一番偉い神官さんか司祭さんか、その人を通してになりそうな気がします。


「まあ、負けませんけどね。」


 いつもの如く、それに関しては強気発言で締めくくることにしました。

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