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 そんな脱線した話しをポツポツと続けていると、タイナーさんも興味を引かれていたのか身を乗り出して来ました。


「それは、ちょっと覗いてみたいような世界だな。羨ましいような気もするが、皆が一定水準の学力があって、知識が売りにならないなら、賢しい国民ばっかりが集まったやり難い国になってそうだな。」


「まあ、そうかも。だから、知識は生かすものって言われて、上に突き抜けたいならそこから先が求められるんですよね。」


 成績が全ての学生時代が終わって、いきなりやってくるそのギャップに、社会人の皆さんは苦労するんですよ。


「それはまあ、何処の分野でもそうだろうが。色々面倒そうだということは分かった。あんたがネジくれてる理由もな。」


「ちょっと! 失礼ですけど?」


 これには眦が上がってしまいますよ?


「まあ、あんたは王家に繋がれといた方が良い人間かもな。」


 聞き捨てならない言葉が続いて更に目に力が入ります。


「やろうと思えば国家転覆出来そうなのは、魔力だけじゃないかもなって俺でも思うからな。」


「・・・え? それ、危険思想主義者とかそういう意味?」


 これには少し焦って冷や汗が滲む気がしました。


「おう、分かってるじゃないか。あんたは王子様をさっさと助けて仲良くしろ。クイズナーが拾って育てた王子様ならどうしようもない奴には育ってないだろ?」


「当たり前です。殿下は優秀で部下からも慕われる人格者でいらっしゃる。」


 間髪を入れず口を挟んできたクイズナー隊長、シルヴェイン王子命ですね。


 がここは一言付け加えておきますよ?


「どSで俺様でパワハラ気味ですけどね。」


「あ? お前の話しには時々よく分からん言葉が挟まるけど、嫌いな訳じゃないんだろ?」


 何でこう、行って欲しくない方向に話しが流れて行くんでしょうか。


「だから、嫌いじゃないけど踏み込める程勢いを付けられないことってあるでしょ? 特に今は呪詛が解けるかも分からないし。」


 いつもの言い訳を口にすると、タイナーさんの目が挟まりました。


「手痛い失恋でもしたのか? クイズナー、そういう時は荒療治の吊り橋効果だぞ。」


 もう本当に放っておいて欲しいのですが。


「なあ。臆病者のお嬢ちゃん。一つ良く考えてみろよ? あんたの王子様は、あんたの見立て通りなら、あんたの代わりに敵にとっ捕まって利用されてる。あー、それに責任を感じろって言ってるんじゃないぞ?」


 こちらの顔色が変わったのを見てフォローを入れつつタイナーさんは話し続けます。


「あんたの王子様は、その事実を知ったらどう考えると思う? あんたに何て言うと思う?」


「それは・・・。」


 シルヴェイン王子なら、何でもないような顔を向けて強がった挙句、困ったようにこちらを向いて頭に手を乗せてくれて、お前が捕まらなくて良かったとか言ってくれる気がします。


 と、そこまで考えた途端、物凄い勢いで瞬きを繰り返したくなりました。


 溢れそうだから。


 目元には力を込めて、赤くなった自覚のある顔を口元を中心に両手で覆ってしまいました。


「ほら、簡単だろ? お嬢ちゃんあんたな、そもそも魔力見のお嬢様にあんな話しを振った時点で、王子様の隣を意識してるってこった。」


 これには悔しいですが反論の余地もありませんね。


「回り道して時間を無駄にしてる暇はないだろ? 大神殿にどうしても行かなきゃならないなら、さっさと済ませて戻って来い。魔王と非道な魔王信者どもの戦い。面白そうだから特等席で観戦してやるよ。」


 面白がるタイナーさんにはしっかり釘を刺しておこうと思います。


「だから、人聞きが悪いから魔王魔王言わないで下さいって。それから、観戦とかせこいこと言わずに、ガッツリ手伝って貰いますからね。世界の巨悪に1人で立ち向かうとか、そんな勇者ばりのメンタルもカリスマも持ち合わせてないんで。誤解されて魔王認定されて僻地封印とか困りますから。こうなったら大丈夫そうな人一杯巻き込むことに決定です。」


 大分赤みの引いた筈の顔から手を外してチラッと周りを窺ってみると、好意的に微笑み返してくれるアルティミアさんと、肩を竦めつつ呆れた顔を装うコルステアくん、フォーラスさんは何処かホッとした顔をしていて、クイズナー隊長も呆れつつも薄らと微笑み返してくれているように見えます。


 チラッと振り返った先でオンサーさんが頷き返してくれて、ドキドキしながら目を向けたケインズさんは少しだけ複雑そうな顔でそれでも口元を微かに緩めて頷き返してくれました。


「それじゃ、大神殿から急いで戻って、殿下を探して助け出します。この世界の魔力についての常識を覆す陰謀をアルティミアさんに協力して貰って暴き出します。そして、黒幕を炙り出してレイナードさんの代わりにプチッと潰してやりますから!」


「プチッとって、魔王っぽいよね。」


 隣でボソッと呟いてくれたコルステアくんには、是非矢面に立って防御魔法を展開して貰いつつ、その影に隠れてコソッと敵に致命傷を与える一撃を繰り出すとか、理想の布陣じゃないでしょうか。


「という訳でタイナーさん、調べ物と情報収集と連絡中継係、しっかりお願いしますね。」


「おいおい、どんだけこき使うつもりだよ!」


 ブスッとして言い返して来たタイナーさんですが、結果やってくれるんだろうなという気がします。


「そこは、プチッとやる為の布石として頑張って下さい。」


 無情な言葉を返しておくと、タイナーさんはふんと鼻を鳴らして反論を諦めたようでした。


「とは言っても、魔力見のアルティミア姫を大神殿まで連れ歩くのは、色んな意味でマズイね。」


 クイズナー隊長が冷静にそんな事を言い出して、アルティミアさんとヴァイレンさんが視線を交わします。


「そうねぇ。わたくし、レイナード様を愛でる会の隠れ会員ってことにしましょう。そして、旅の途中で出会ってしまったとしたら? それは、大神殿に行く口実を作ってでも付いて行くでしょう?」


 キラリと目を輝かせつつそんな事を言い出したアルティミアさんに、ヴァイレンさんが半眼になっています。


「それ、後で困ったことにならない?」


 こちらも若干引き気味で返すと、アルティミアさんはにっこり良い笑顔になりました。


「レイナード様がレイカ様になっていなければ後々問題があるかもしれませんけれど、レイカ様なんですもの。何も問題ございませんわ。後で如何様にも言い訳も出来ます。」


 そう自信満々に言い切られると、複雑な心境になってしまいますね。


「アルティミア嬢は乗馬は? 馬車移動では速度が落ち過ぎる。一月後を目処に戻ろうと思うと、人数を絞って貰って馬で移動出来るならお連れしましょうか。」


 クイズナー隊長の最低条件の擦り合わせが始まって、アルティミアさんとヴァイレンさんも相談し始めました。


 細かな情報交換として、こちらの事情を余り明らかにしていない護衛人員がいることなども話題に上ります。


 それを聞くともなく聞きつつ、視線を外したところで、タイナーさんと目が合いました。


「おい、魔王の嬢ちゃんとはこれからちょっと打ち合わせだ。今後の共同研究についてな。って訳でクイズナー、ちょいと嬢ちゃん借りてくぞ?」


 にやり笑顔を浮かべたタイナーさんに言われて目を瞬かせてしまいます。


「えぇ? 勝手におねー様連れて行かないでくれる? 僕もついてくからね!」


 すかさず間に入ったコルステアくんに、タイナーさんが鼻を鳴らしました。

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