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朝の走り込みを終えて、足取りも軽く朝食へ。
今日の朝ご飯何かなぁのノリで向かった食堂で、踏み込んだ途端にパラパラと昨日まではなかった視線を感じます。
厨房と繋がるカウンター配膳台の方へ向かうと、相変わらず一緒のケインズさんが、配膳台に並ぶいつものパンを見てから一言。
「今朝もあれ、やるのか?」
その発言の後で、不自然に集まる視線に、おやと周りを見回してみると、サッとこれまた不自然に視線が散りました。
何でしょうか、さり気なくやったつもりでしたが、匂いですかね。
皆様意外と気付いてらっしゃったようです。
「そうですねぇ。美味しいんですよ? 滅茶苦茶。」
「・・・だろうな。良い匂いだった。」
そこは素直に認める事にした様子のケインズさんが、何だか可愛いです。
「えっと、ケインズさんのも炙りましょうか? いつもお世話になってる事ですし。」
皆んなのは無理でも、直属の先輩のくらいはやってあげてもいいかもしれません。
「・・・いや。何か、ここで折れてはならない何かがあるような気がするから、いい。」
何か良く分からない葛藤の末にそう返して来たケインズさんには、やっぱり色々ご迷惑掛けてるかもしれませんね。
「ええ? ケインズさんのだけなら、特別やりますよ?」
はい、ほらそこの物欲しそうな人達、悔しかったらレイナードと仲良くしましょうね。
都合の良い人間になるつもりはないので、お友達は厳選しますよ?
人の悪口言って謝らない人とはお付き合い出来ませんからね。
「いや、だから良いと言ってる。」
何ですかね、ケインズさんは意外と潔癖症ですよね?
「ケインズさん、意外と奥ゆかしいですよね?」
言葉を取り繕って返しておくと、ケインズさんは不本意そうな顔になりました。
「いや、お前みたいに自由になり切れないだけだ。怖いものとかないんだろうな。お前は本当に羨ましい奴だよ。」
肩を落とし気味にケインズさんが言ったところで、食堂の入口がザワッと騒がしくなりました。
振り返って見ると、確かに珍しいお顔があって驚きです。
トイトニー隊長と何とあのドSでパワハラな王子様が場違いも甚だしく食堂に踏み込んで、空きの多い長テーブルの一角に座りに行きました。
特に食事を取りに来る様子はないので、誰かお2人の為に運んであげるんでしょうか。
それにしても、王子様がここの食事に耐えられるとは思えませんけど。
そんな事を考えている内に、順番が来てトレイに食事を取って置いていきます。
今朝は、細切り肉の入ったピリ辛スープと、いつものパンと、骨付きフランク的な腸詰肉の燻製みたいです。
フランクフルト、ちょっとテンション上がりますね。
これ炙ったら絶対美味しくなるやつです。
粒マスタード、ないですかね? ないですね、残念です。
にこにこ笑顔で受け取って、くるっと振り返ったところで、笑顔のトイトニー隊長がくいくいっと手招きして来ます。
気の所為ですよね?
誰のこと呼んでるのかなぁと、ボケて見渡してみますが、ポンと後ろからケインズさんに肩を叩かれて、顎でしゃくられました。
何ですか? 売られた仔牛ですか? ドナドナですか?
折角上がり切ったテンションは急降下です。
「ほら、諦めて行け。」
ケインズさん、無情にも言葉にするのやめて欲しいです。
「折角美味しいご飯の時間なのに。」
グズグズと歩いて行きながら、ついブツブツと零していると、近付くトイトニー隊長と王子様の笑顔が怖いことになってました。
笑顔じゃなくて、凄んでるように見えるの、気の所為ですよね?
「ははっ。美味しいご飯の時間な。そうらしいな。俺も是非味わってみたいもんだな。魔法で上手いこと炙ったパンだったか? 良い香りが立つんだってな。」
あーこれ、目が笑ってませんねトイトニー隊長。
何だか知りませんが、メッチャ怒ってますね。
こういう時は、引っ掻き回してうやむや作戦です!
「そうなんですよ〜。仕方ないですねぇ〜、俺の史上3回目の魔法で炙ったパン、食べてみますか? ケインズさんには遠慮されちゃったので、是非。」
にっこり笑顔で、隊長のお向かいの席にトレイを下ろします。
「ほう? 3回目。1回目はいつだ〜?」
笑ってない笑顔で続けてきますねトイトニー隊長。
まあこちらも負けずに笑顔で返しますけど。
「昨日ですよ〜。図書館で本読んで、こう何か行けそうな感じだったので、廊下でぽっと。ねぇ、ケインズさん?」
及び腰で付いて来ていたケインズさんも、しっかり巻き込んでおくことにします。
「で、折角なのでその後の食堂でこそっと炙ってみたんですけど。ケインズさん以外には何にも言われなかったのに、皆んなこそこそと良く見てたんですねぇ。」
嫌味も付け足しておきますよ。
悪意で告げ口する奴には、優しくしてあげるつもりないですから。
「お前な。使えたら使えたで、報告義務はないと思ってたのか?」
トイトニー隊長が、漸く怖い笑顔を崩して真顔に戻りました。
「今日の夕方の訓練の時に言えば良いかと思ってましたが、何か問題でも?」
開き直り大事です。
「問題あるに決まってるだろ! てゆうかむしろ問題しかないじゃないか、お前、レイナードだろ? レイナードなんだぞ?」
はい、レイナードですが?
「はあ。レイナードですけど? 多分? そう呼ばれてますからね。」
ほら、また忘れてますね貴方達。
レイナードは記憶喪失ですが?
そこで、トイトニー隊長、言葉に詰まりました。
この勝負、勝ちですね。
にっこり微笑み返してあげました。




