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 街の門を出て、始めにぶつかった木立の影で、ヒヨコちゃん親子を迎えることになりました。


 徒歩20分程度の距離だったので、お散歩感覚で歩いて来ましたが、この木立の辺りまで来ると魔物出没地帯に入るとのことで、朝食の包みを開いて食べつつ、護衛の皆さんが交代で周囲を警戒してくれていました。


 因みに、サラマンダー肉をご相伴に預かった翌日はお父さんからの貢ぎ物はありませんでした。


 皆んなで内心ホッとしつつ、あれは群れの皆への大奮発したご挨拶だったんじゃないかという結論に至っていました。


 木立で朝食を済ませてしばらく、上空に影が差したかと思うと、羽ばたきの音と共に吹き付けるような風が来て、ヒヨコちゃんとお父さんが降りて来ました。


 ここ数日ですっかりお父さんと変わりない大きさまで育ったヒヨコちゃんは、それでも甘えるように駆け寄って来ます。


 そして、コルちゃんとの挨拶も忘れない辺り義理堅いのかもしれません。


「ピュルピー。」


 鳴き声にはまだ幼さの残るヒヨコちゃんの頭をヨシヨシと撫でつつ、抱っこ紐から降ろしたコルちゃんとヒヨコちゃんがじゃれ合うのを眺める間、おずおずと寄って来て頭を突き出してくるお父さんを撫でてあげます。


「ハザインバースは頭頂が弱点なんだ。」


 いつの間にかそっと斜め後ろから近付いて来ていたライアットさんが抑えた声で話し掛けつつ教えてくれます。


「そうなんですね。」


「ああ、だから雛鶏の内に背中を許すように育てるんだ。背中に乗るってことは、弱点の頭をいつでも押さえられる場所を許すって意味でもある。」


 その観点からいくと、身体強化付き殴りやらビンタやらでお父さんを結構躾けてしまっているかもしれません。


「野生のハザインバースは喉の奥の気管に付属の器官で作られた火炎と強酸を交代で吐く事が出来るが、騎獣にする為に人工繁殖させたハザインバースは強酸生成機能が失われていくらしく、火炎放射と魔力を使う波状攻撃魔法だけを使うようになるんだ。」


 流石ハザインバースの元獣騎士さんです、本当にハザインバースのことに詳しいようです。


「まあ、君の特殊な魔力を本当に取り込んでいるのかどうかは分からないが、ここまで許しているなら懐いているのは間違いない。旅の間の思わぬ追加護衛だと思ってこのままこの距離感で関わっておけば良いのではないか?」


 今日のライアットさん、何故か物凄く親切で優しくないでしょうか?


 少し驚きつつ頷き返します。


 キョトンとしつつさり気なく周りを窺ってみると、護衛の皆さんそれぞれこちらに何か気まずいような気遣うような視線を向けてくれています。


 もしかして昨晩の失恋話しのこと、弄りすぎたって反省してくれてるんでしょうか?


 それとは別件のシルヴェイン王子行方不明の件で顔色を無くして、他の面々にも気遣って貰っているようなので、相乗効果でそんな空気になっているのかもしれません。


 考えないようにしているだけで、そんな大丈夫なのに、とかは言えない状態なので、取り敢えず諸々気付かなかったことにしようと思います。


 好きとか嫌いとかその辺りは一先ず置くとしても、シルヴェイン王子はレイナードの代わりにこちらで生きていく為の命綱的存在です。


 あ、ヤバいですね、物凄く落ち込んできました。


「そ、ですね。もう色々嫌になって逃げたくなったら、お父さんの背中に乗って逃亡図ろうかな。何処か誰も知らなくて追って来れないようなところに。」


 ついそんなことを溢してしまうと、周りの皆の顔が引きつりました。


「いや、あのな。騎獣したハザインバースの飛速って、馬よりは速いが飛距離は稼げないからな。しかも上空飛んでると物凄く目立つ。逃亡には向かないと思うぞ?」


 その優しくない指摘にむうっと口を尖らせつつ、気持ちを落ち着けるべく深々と溜息を吐き出しました。


「まあ、そもそもお父さんとは意思の疎通が図れないので、行きたい場所を伝えることも出来ませんけどねぇ。」


 その場で伸びをして、大きく息を吸い込みます。


「それじゃ街に戻りますか? お父さんとヒヨコちゃんも今日は一日好きに過ごしてね。」


 言葉は通じませんがそう声を掛けて、お父さんから離れました。


 そのまま2匹を置いて街道へ出て、街への道を戻り始めます。


 そのまま10分程歩いたところで、後ろから馬と馬車が近付いて来る音が聞こえて来ました。


「お、お嬢様! いけません!」


 そんな声が聞こえてきて、やって来た馬や馬車を先に通す為に街道傍に避けたところで、迫って来る集団に目を向けました。


 と、その集団がゆっくりと目の前で止まって、馬に乗った人達と馬車の方で色々とやり取りらしきものがあった後、馬車の扉が開きました。


 こちらはクイズナー隊長とフォーラスさん、リックさんが前に出て対応してくれるようです。


 馬から降りた護衛の人達に囲まれつつ馬車から降り立ったのは、良いところのお嬢様という格好の女性と、お付きのメイドさんのようです。


「まあ、本当に凄いわ。魔力の強い方達がこんなに。特に奥の被りものをしてらっしゃる方。あの、もし! 貴方は大魔法使いタイナー様ではございませんの?」


 そう口にしたお嬢様の視線は真っ直ぐこちらを見ています。


 ちょっと驚いてしまいましたが、魔力量が見える人って結構いるものなんですね。


 そういえば、昨日もタイナーさんには一目で魔王の魔力持ちだって気付かれたんでした。


「いや、彼はそういった者ではございません。お人違いならば失礼させていただきたい。」


 クイズナー隊長がそうはっきりと否定してくれましたが、お嬢様はそれでもキラキラした目をこちらに向けたままです。


「お嬢様! 不躾に失礼ですよ!」


 護衛の1人にそう声を掛けられて、ようやくお嬢様はハッとしたようにクイズナー隊長に目を向けました。


「ごめんなさい。わたくしあんなに綺麗で強い魔力を持つ人を見たのは初めてで。申し遅れましたわ、わたくしキースカルク侯爵家のアルティミアと申します。まあ、貴方も素晴らしい魔力の持ち主でいらっしゃいますのね? 貴方がたもこちらへは大魔法使いタイナー様を訪ねていらっしゃったのかしら?」


 興奮したように話し続けるお嬢様ですが、その名前を耳にした途端、クイズナー隊長の肩がピクリと反応していたように見えました。


 同じくコルステアくんも息を飲んだようです。


「貴女はまさか、キースカルク侯爵家の魔力見のアルティミア姫? このような場所でお会い出来るとは。私、第二騎士団ナイザリークに所属しておりますクイズナーと申します。」


 どうやらお嬢様、かなり有名な人みたいですね。


「まあ、第二王子殿下直属の魔法騎士の方々でしたのね。道理で魔力の素晴らしい方が沢山いらっしゃるはずですわ。特にあの方、是非ご紹介頂けないかしら?」


 そして、やはり関心はこちらに向くようです。


 途端にコルステアくんがそのお嬢様の視線を遮るように前に出ました。


「あ、いえあの者は。ご挨拶させて頂くような礼儀がまだ身に付いておりませんので。またの機会にさせていただけませんか?」


 今のこの状況で下手に関心を持たれるのは良くないと分かるんですが、でもその断り方。


 内心ちょっとムッとしてしまいました。


「それは残念ね。わたくし礼儀など気にしないのだけれど。そこまで仰るなら諦めますわ。」


 これでこのお嬢様とのやり取りも一段落でしょうか。


 周りで静かに様子を窺っていた護衛の皆さん共々そうホッとしかけたところで、お嬢様がずいっとまた一歩クイズナー隊長に近付きました。


「それはともかく、貴方がたも大魔法使いタイナー様を訪ねていらしたのではなくて?」


 何を根拠にと思いましたが、お嬢様はやけに自信満々言い切ってくれます。


 それに、クイズナー隊長が少しだけ眉を寄せて警戒度を上げたようでした。

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