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 一階の応接間らしき部屋に通されて、ソファに座って待つことしばらく、始めに塔の扉を開けてくれたお婆さんがお茶を出してくれました。


「それで? クイズナー、王都からわざわざ訪ねて来た用件は何だ?」


 早速始まったタイナーさんの質問に、クイズナー隊長がシーラックくんに目を向けました。


「あちらの少年と、彼に付いている魔人を見て欲しいんです。」


 タイナーさんは意外そうな顔になって、こちらをチラッと見てからシーラックくんに目を移しました。


 そのまま目を細めて見入るタイナーさんは流石に真面目な顔付きです。


「シーラックくん、カランジュに出て来て貰えるかな?」


 クイズナー隊長に促されて、シーラックくんが頷き返しています。


 相変わらずシーラックくんの肩に張り付いていたカランジュが、一瞬だけ不安そうな目をこちらに向けてから、パタパタとシーラックくんのお膝に降りて行きました。


「・・・ドラゴンの一種か? いや、何だコイツは・・・。」


 途端にタイナーさんの呟きが聞こえて、じいっとカランジュに視線を注いでいるようです。


 そこは黙ってお任せすることにして、せっかくなので出して貰ったお茶でも頂こうと思います。


 そっと応接テーブルからカップを取り上げて、引き寄せたカップにふうっと息を吹き掛けると、何かふわりとフルーツの香りがしたような気がしました。


 そのまま鼻を近付けてくんくんしてみますが、香りは熱気に紛れてよく分かりませんでした。


 なので、そのまま頂いてみることにして、口に含んだお茶は見た目の薄茶色からは意外な程にしっかりした味で、渋味の後に桃とベリーのような香りが鼻腔内を通り抜け、後味にはさっぱりした甘みが微かに残る物凄く女子ウケしそうな美味しいフレーバーティーでした。


 滅茶苦茶美味しい!と笑顔で二口目を口に含んだところで、じっとりした視線がこちらに向けられているのに気付きました。


「クイズナー、この凶悪な魔王、どうにか出来ないのか?」


「タイナー、悪いんですが彼のことは放っておいて下さい。」


 タイナーさんとクイズナー隊長のやり取りの意味は分かりませんが、今は確かに魔王問題じゃなくて、シーラックくん達の問題が優先です。


「おい魔王。人の家でお花畑な魔力を発散するな。」


「ちょっと聞いてればタイナーさん。私現在魔王でも魔王になる予定もありませんから、人聞きの悪い呼び方しないで貰えますか? 人よりちょっとだけ魔力多めに集められる身体に住んでるだけなんで。」


 ここは一言言っておくことにしますよ?


「はあん、成る程。人よりちょっとだけ多い魔力な。」


「紅茶美味しかったんです。何のフレーバーティーですか?これ。茶葉のブレンドも淹れ方も絶妙で、人生一飲んで美味しかった紅茶なんですけど。」


 矢継ぎ早に話題を変えていくと、タイナーさんの目が何故かギラッと光りました。


「へぇ。どう見ても貴族のお坊ちゃんが? もっと高い茶葉も幾らでも手に入るんじゃないのか?」


「さあ、私の記憶にある限りでは一番なので、お値段は関係ないんじゃ?」


 そう真っ直ぐ返したところで、目を細めたタイナーさんにまたじっと見つめられましたが、不意に溜息と共に身体を起こしたタイナーさんは身体をソファの背もたれに預けて目を閉じてしまいました。


「クイズナー、ちょっと目を離してる隙に、この国に何が起こってる?」


 と、唐突に来たこの言葉に、クイズナー隊長が物凄く口元を苦くしてますね。


「その全貌が見えなくて困ってるんですよ。」


 無難に返したクイズナー隊長に、タイナーさんがふんと鼻を鳴らしてから、やっぱりこちらに目を向けて来ました。


 味わいつつ最後の一口になった紅茶をしっかり飲み干してから、こちらも見返してみせます。


「突き詰めれば、間違いなくその魔力が人よりちょっとだけ多いお坊ちゃんの所為だろ。」


 タイナーさん嫌味が過ぎますよ?


「レイナードです。突き詰めても今のところ打つ手なしなので、一個ずつ手繰り寄せて元凶に迫りたいんじゃないですか。」


 渋々タイナーさんの話しに乗ってみると、肩を竦められました。


「何だ、一応自覚はあったんだな?」


「あのですね。ほんと色々事情があるんですよ。こんなとこで話せない事とか色々。でも、現時点でどうにも出来ないことはこの際置いといて、ここに相談に来たのはまだ子供のシーラックくんとカランジュを何とか救う術がないか模索する為なんです。」


 こちらも真面目モードで返していくと、タイナーさんはまたシーラックくんとカランジュに目を向けました。


「坊ちゃんのコイツらに対する考察は?」


「私自身は最近魔法が使えるようになったばかりだし、知識もないので偉そうな事は言えないんですけど。契約待ち魔人から聞いた話しによると、カランジュは魔物から人工的に作られた魔人擬きで、シーラックくんと契約して魔力を貰って生命維持してるんだってことです。」


 指人形からの情報を隠さず伝えてみると、タイナーさんはまた考えるような顔になっています。


「まああんたに突っ込みたいところは色々流すとして。その子供、何でそんな魔人擬きと契約したんだ? そんなのもう長く生きられないだろ。」


 身も蓋もない言い方をしたタイナーさんですが、やはり考えることは一緒ってことですよね?


 俯くシーラックくんにカランジュとライアットさんが心配そうな目を向けています。


「契約の解除は、やっぱり出来ないのか?」


 黙っていられなかった様子のライアットさんが口を挟みました。


「魔人契約か。前にちょっと興味が湧いて調べてみたことがあったな。その資料を掘り起こすとして。一般論から入るとな、契約ってのは交わす段階から互いが何かしらの制約を払って行うものなんだ。ってことはそれを反故にするなら、それ以上の代償が必要になる。」


 代償という言葉を聞くと、呪術を思い出しますね。


「あ、ねぇ。契約って呪術の一種?」


 口を挟んでみると、タイナーさんがこちらを振り返りました。


「うーん。そんな風に考えたことはなかったが、言われてみるともしかしたらそういう括りなのかもしれないなぁ。」


 あれ?とちょっと不穏なことが頭に浮かびましたが、今追求するのはやめておきましょう。


「僕が死ねば、シーラックは解放される?」


 と、唐突に言い出したのはカランジュです。


 シーラックくんと似た容姿のもっと幼い男の子に姿を変えたカランジュに、タイナーさんが目を瞬いています。


 とそこで俯いたまま立ち上がったシーラックくん。


「そんなの絶対ダメだよカランジュ! また一人ぼっちになるくらいなら、僕はカランジュと一緒に死んだほうがマシだよ!」


 拳を握って涙目のシーラックくんの叫びにはグッと来てしまいました。


 お姉ちゃんが何とかしたげる!って宣言したいところですが、最終手段は本当の最後に取っておこうと思います。


「シーラックくん落ち着いて、こちらの偉い魔法使いの先生が、何か手立てがないか調べてくれるから、ね?」


「ああ? 誰がただで調べるって言ったんだ?」


 せっかくシーラックくんを宥めようとしてたのに、ここでそんな発言が出来るタイナーさん、何となくそういう人だって気がしてましたよ。


「報酬のお話しは、クイズナー先生として下さい。」


 水を向けた先で、クイズナー隊長の口の端が歪んでいます。


 多分ここからが一悶着あるって分かってたんでしょうね。


 交渉頑張って下さい!

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