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 周りの景色が薄暗くなって来た頃、街道の先に明るい街の明かりが見えて来ました。


 薄暗くなってからの乗馬は思ったよりも周りが見えにくくて困りました。


 車と違ってライトが点く訳じゃありませんからね。


 もっと暗くなってから先頭や最後尾の人が明かりを持つのだそうですが、当然有効範囲も狭いので、走行速度は落とすしかなくなるのだそうです。


 夜間明かりを持ちながら高速走行するような早馬の人なんかは、物凄く乗馬が上手な人なんだとか。


 実際に乗馬してみると良く分かります。


 お日様が沈み切って直ぐに辿り着いた街の門を潜った時にはホッとしてしまいました。


 ナシーダちゃんは軍馬として訓練されている子なので、任せていれば他の馬に合わせて走ってくれると言われていたのですが、それでもやっぱり少し緊張してしまいましたね。


 街に入ると宿確保組とクイズナー隊長の師匠を訪ねる組に別れることになりました。


 コルステアくんやケインズさん達とクイズナー隊長について行く気満々で待機していましたが、シーラックくんとカランジュにライアットさんが保護者代わりに付いてくるというので、ケインズさんオンサーさんは宿確保組に割り当てられてしまいました。


 街への到着が遅くなったので、夕食を食べられる場所の確保と、明日の朝昼食の手配もあって人が要るのだそうです。


 クイズナー隊長と共に向かったのは、街の西側にある職人街の外れでした。


 頑丈な作りの工房のような建物が並ぶ先に、ヒョロリと背の高い塔のようなものが見えて来ました。


「うーん。住所的には、あの辺りだねぇ。」


 クイズナー隊長が指差したのは、その塔がある辺りです。


「ああ、魔法使い住んでそうですよねぇ。」


「あのさ。魔法は天体と暦、天候なんかにも左右されたりするし、研究する時にそこから新しい考察が生まれたりすることもあるから、高い建物を研究する為の拠り所にしてる魔法使いは多い筈だよ?」


 成る程という解説がコルステアくんから来ました。


 という訳で辿り着いたその塔の下でノッカーを叩くクイズナー隊長を遠巻きに見守っていると、扉がぽこりと内側に開きました。


「はい。どなた様だね?」


 少しだけ開いた扉の向こうからお婆さんが顔を出しているのが見えました。


「先生の弟子のクイズナーです。取り次ぎをお願いできますか?」


 クイズナー隊長が真面目な顔付きでお婆さんに答えていますが、お婆さんは何処か疑わしそうな顔で見返しています。


「はて? お弟子さんなら顔を覚えとりますが、あんた様は見たことがございませんがね?」


 成る程、確かにお婆さんが長年クイズナー隊長の師匠の元で働いていたなら、会った事がないというのはおかしい話しかもしれません。


 というか、家の場所もこの辺りと曖昧でしたし。


「先生が王都に住んでいらした頃の弟子なので、50年くらい前のことですからね。」


 と、言い出したクイズナー隊長に、えっと思わず呆気に取られた目を向けてしまいました。


「長命種?」


 コルステアくんが隣で小さく呟いた言葉が聞こえて来て、更に目が丸くなりました。


 もしかして、エルフ族とかですか?


 拙い異世界ものの知識を総動員して出て来た種族名に目が輝きます。


 ただ、クイズナー隊長って耳が長いとか尖ってるとか人外の美形とか、人間と区別出来るような特徴はないように見えるんですよね。


 推定外見年齢40歳くらいに見えるクイズナー隊長、実際にはおいくつなのか、是非聞いてみたくなりました。


「ああ、あんた様は先生とご同類かね。ならそういうこともあるさね。じゃ、先生にご都合を伺ってくるから、少しお待ちなさいね。」


 お婆さんは言うと、顔を引っ込めて再び扉を閉ざしてしまいました。


「はーい、先生〜!」


 という訳で、今の内に色々突っ込んでみようと思います。


「レイナードくん、後でね。黙ってて。」


 瞬殺されてしまいましたが、クイズナー隊長、何やら顔付きが真剣です。


 と、そこで頭上の塔の何処からか爆発音のようなものが聞こえて来たかと思うと、バンッと少々乱暴に扉が開きました。


「おいこら誰が弟子だ! お兄ちゃんのところに面倒ごとを持ち込むな!」


 ん?とまた頭に疑問符が浮かんだところで、そのお兄ちゃんが身を乗り出してこちらを睨んで来るのに気付きました。


 因みにそのお兄ちゃん、外見年齢がクイズナー隊長より10歳は若く見えます。


「それでお兄ちゃんって、詐欺じゃないですか?」


 ついボソッと呟いてしまったところで、そのお兄ちゃんが徐に手を前に出して、“焼き払え業火”とか叫んで来ますよ?


 その手の平の向いてる先、真っ直ぐこちらですね。


 とか思ってる内に熱気が迫って来ましたが、隣のコルステアくんがさっと前に出て、遮断結界を展開してくれます。


「ちょっと! ウチのおにー様に何するの?」


 無詠唱で綺麗に広がった結界は、強度も完璧です。


 流石は塔で一二を争う結界魔法使いですね。


「へぇ。無詠唱でその強度の魔法、そっちのひよっこも中々やるな。」


 冷静に返していますがお兄ちゃん、コルステアくんの遮断した業火魔法で、1メートルくらい手前の地面に黒焦げが出来ましたからね!


 シーラックくんとライアットさんが呪文が聞こえるなり秒でこちらから離れて回避してたので良かったですけど、いきなりはやめましょう?


「クイズナー、拾うのは王子までにしなさい。魔王は拾っちゃダメだ。物凄く魔力は綺麗だけど、何かバランスが悪くて気持ち悪い。」


 飛び出して来たそんな発言に、最早乾いた笑いが起こりますね。


「はあ。まあ何でも良いですけど、いいおじさんがこれ以上お外で夜に騒ぐのやめましょう? 近所迷惑ですからねぇ。中でお話ししましょうか?クイズナー先生のお兄ちゃんさん。」


 物凄く良い感じの作り笑顔でそう言ってずいっと近付いて行きます。


「あ、レイナードくん、因みにその人僕の兄ではなくて従兄だから。名前はタイナー。」


「お師匠様じゃなかったんですか?」


「うーん。僕よりも10歳以上年上で、尚且つ魔法も得意で研究好きでね。若い頃に彼の部屋に入り浸って書物を読んだり分からないことを聞いてみたり、魔法の練習なんかにも付き合って貰っていたから、僕としては師事していたようなつもりだったんだけどね。」


 そう明かしてくれたクイズナー隊長、和やかに話してくれましたが、取り敢えず従兄のお兄ちゃんに抗議の一つもしといて欲しいです。


「あー、お兄ちゃん長く生きすぎて昔のことは記憶から抜けてきちゃってるんじゃないですか?」


「・・・今日はまた辛口だねぇ、レイナードくん。喧嘩売りに来た訳じゃないの、忘れたかな?」


 何処か引きつった口調のクイズナー隊長ですが、喧嘩は向こうから売られてますから。


「いいえ。すっごく攻撃的な歓迎を受けたので、そういう流儀のご挨拶必要なのかなって思いまして。」


「レイナードくん、売られた喧嘩は買うタイプだった? 今回は、立場、考えてね?」


 笑顔で圧を掛けて来るクイズナー隊長、確かにシーラックくんの相談に乗って貰いに来た訳ですが、大人しくしておけば良いという問題でもない気がします。


 タイナーさん、個人情報お外で声高に漏らし過ぎですからね。


 シーラックくんとライアットさん、タイナーさんの魔王発言の対象に気付いちゃったでしょうか?


 秘匿情報の中でも絶対知られちゃいけないもののような気がするんですけど。


 とはいえ、ここは一旦クールダウンしようと思います。


「はあい!」


 返事をしたところで、一先ず皆んなで塔に入ることになりました。

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