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「どうだ? 物凄いスピードで飛ばし読みした成果は出そうか?」


 図書館を出て歩き出したところで、どうしてもそこを突っ込んでおきたかったのだろうケインズさんからそんな問いが来ました。


 まあ、飛ばし読みじゃなくて、速読チートですけどね。


 不思議な事に、飛ばし読みじゃないので、全部頭に引っ掛かってるみたいです。


 一夜漬けテスト当日と同じく、今なら引っ掛かってるの取り出せますよ?


 どうせならこのチート、こっちに来る前にテスト前とかに発現して欲しかったですね。


「どうですかね? 試しにちょっとやってみます?」


 立ち止まって初級魔法の指先に鬼火の呪文を思い出してみます。


 入門書に何度も書いてありましたが、魔法はよりリアルな想像力がクリアな魔法発動に不可欠なのだとか。


 つまり、レイナードが華麗に魔法を使うところを想像すれば良い訳で。


 華麗に鬼火ってちょっと笑えちゃいますけど、炎の色が温度切り替えで移り変わるとかなら、ちょっと様になるかもしれません。


 という訳で、周りに人が居ないことを確認してから、怪訝そうに立ち止まったケインズさんとは反対の方へ手を出します。


「小さき炎をこの指先に。」


 ちょっと格好付けて声もイケボイスに寄せてみます。


 途端に身体の奥から何かがふわりと湧き上がって来るような感覚があって、指先が暖かくなりました。


 チラッと見てみると、指先に想像通りの色が徐々に移り変わる小さな炎が灯っています。


 燃焼温度を上げ下げして切り替わってる筈の炎ですが、ちょっとクリスマスツリーを飾るネオンが切り替わるみたいに見えるのは残念感があるかもしれません。


 思ったより綺麗じゃないですね。


「うーん。イマイチでしたねぇ。」


 とか思わず口にしてしまったところで、お隣のケインズさんの目がまん丸になっている事に気が付きました。


「レ、レイナード! お前! 今すぐトイトニー隊長のところ行こう!」


 緊張感のある興奮した声で言われて、こちらの目も白黒してしまいます。


「え? あの、今からですか?」


 夕食前の空き時間だったので、そろそろ食堂に向かいたかったです。


 間食とかもないので、食事前は毎回腹が鳴る程かなり空腹になるんです。


「え? 明日じゃダメですか? お腹空いたし。」


 正直にそう零してみると、ケインズさんがまた残念な子を見る目になりました。


「お前な。はあ、お前って本当・・・。まあいい。食堂行くか。」


 色々飲み込んでくれた様子のケインズさんでした。


 鬼火は消えろと念じれば何事も無かったように消え失せました。


 初魔法でしたが、意外とコツを掴むとやれちゃうものですね。


 ちょっと先行きが明るくなってきた気がします。


 そんな訳で食堂で夕食を席に運んでから、早速有効活用してみる事にしました。


 本日の夕食は相変わらずな残念なパンに、微かなトマト味の薄味なビーンズスープ、パサつく何かの肉の香草焼き。


 ここはやはり、折角手に入れた火力を使わない手はないでしょう。


 残念なパンを一切れ取って、簡易バーナーを指先に装填、火傷しないようにフォークで刺したパンの表面をカリッとするまでサッと炙ります。


 あ、香ばしい香りが立ちました!


 どんなに残念なパンでもトースターでちょっと焼いたり炙ったりすると、何割増しか美味しくなるんですよね。


 外食産業界でも簡易バーナーでちょっと炙り調理してるの見ると、わあってなりますもんね。


 ついでに冷めて表面に脂が浮いてるお肉も表面炙っときますか。


 ジュウッとお肉の方も食欲を唆る香りが立ったところで指先簡易バーナー消火です。


「お、おい。」


 お隣から物凄く引き攣ったケインズさんの声が掛かりますが、パリパリのパンを堪能してからで良いでしょうか。


 パリッサクッと音を立てるパンが、もうめっちゃくちゃ美味しいです。


 頰が緩みまくりです。


 この状態でうっすいトマトスープに浸してもまあ食べれる感じです。


 では、お次はお肉の方に行ってみます。


 フォークで突き刺すと、温まったお陰で少しだけ柔らかくなって刺さり易くなったでしょうか。


 齧り付くと香草の香りが口の中に広がって。


 これが、調理人さん達が提供したい焼き立ての味なんですね。


 大量調理って、この辺りに限界があるんですよね。


 保温設備もなく、レンジもない世界じゃ、温め直しも現実的じゃないとなれば、汁物が常に食事に付くのは、それだけは温め直しが出来るからそれで冷めた料理を誤魔化せと、そういう事ですね。


 食事が文化レベルに相対しているのは、仕方のない現実だと思うしかないんでしょうか。


 まあ、自分の為だけにでも、こうやってセコく食べられる食事にするべく、リベイクとかリメイクとかしちゃいますけどね。


 一頻り堪能したところで、お隣の固まったままのケインズさんを振り返ってみます。


 何なに? 何ですか? 何かありました?


 そんなにっこり笑顔で見返してみると、ケインズさん、何か老け込んだような顔で深々と溜息を吐いています。


「お前さ。前からある意味自由な人間だったけど・・・。憎めない性格になった分だけ、手に負えなくなったのかもな。」


 しみじみとしたぼやきは、まあ聞こえなかった事にしときましょう。


 笑顔で小首を傾げてコテンで、はい終了。


 食事再開です。


 本日中々良い一日でしたね。

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