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 まだ何かあるのかというような怯えた目を向けて来る2人に、これまた苦笑が浮かびます。


「つまり、あの2人と似たような状況ってことだね?」


 クイズナー隊長の確認は的確です。


「そうなんですよ。あちらは契約で縛った専属の関係であるのに対して、こちらは無差別で契約要らず。」


 この実験をしでかしてくれているイカれた研究者の目指す先が少しずつ見えて来て、こちらとしても胸がムカムカして来ます。


「間違いなく、同一組織の犯行だよね?」


 コルステアくんの言葉にも渋々頷くことにします。


「本当に、今王都を離れることは正解でしょうか?」


 事情を察した様子のフォーラスさんも、もう何度目になるか分からない呟きを口にしています。


「取り敢えず、この件についてもお知らせするしかないが、あちらも今すぐにはお動きになれない状況だ。」


 対象はシルヴェイン王子ですが、あの伝紙鳥に書き切れる情報量なのか、しかも書いて出してセキュリティ的に問題ないのかも分かりません。


 この世界、映像や音声の通信魔法とかの概念は存在しないのでしょうか。


「もどかしいですね。」


 そうボソッと呟くと、周りから珍しく同意の頷きが返ってきました。


「あの、はっきり言って下さい。」


 リブルくんが、強張った顔でそれでもこちらを少し認めてくれたのか、丁寧に頼む口調で促します。


「リブルくんはメリルちゃんから魔力を貰って満タンにし続ける方法で不調無く生きていけると思うけど。メリルちゃんの魔力量はそんなに多くないから、この間みたいにリブルくんが魔法を使って空っぽ状態になったとしたら、メリルちゃんの魔力量では満タンには出来ないから、最悪メリルちゃんの魔力が枯渇する恐れがあるんだよね。」


「魔力が枯渇するとどうなるの?」


 今度はメリルちゃんが恐る恐るというように問い掛けて来て、リブルくんは眉を下げて黙り込んでしまいました。


「人間には、最低限生命維持する為に体内に確保しておかないといけない魔力があるんだって。魔力を魔法に転換出来ないくらい魔力量が少ない人も、普通に生きているだけで身体に貯めることが出来る魔力があるんだけど。それも使い切ってしまう状態が、魔力枯渇って言って、生命維持が困難になる。つまり、死ぬかもしれないってこと。」


 隠さずに言い切った途端に、2人は真っ青になって黙り込みました。


 まだ子供の2人に言うのは残酷かもしれませんが、言わずに2人の命が危険に晒される方がやり切れない気がします。


「魔法使うのはやめさせて、魔力を吸収する能力を封じる措置を取るべきじゃない? じゃないといつか死ぬよ?その子達。」


 今の状況では、コルステアくんの意見は真っ当だと思えます。


 その方法で封じられるなら、シーラックくんとカランジュよりは2人には救いがあるような気がします。


 ここへ来て発言を控えて何か考えている様子のクイズナー隊長とフォーラスさんは、にがり切った顔付きです。


 そして、縋るような二つの視線がこちらに来ていることに気付きました。


「レイさん、助けて。私達、どうすれば良いの?」


 ギュッとリブルくんの手を握り締めて、泣き出しそうな声で不安げに訴えるメリルちゃんに、どう返すべきか迷ってしまいます。


 言葉に詰まったところで、クイズナー隊長が少しだけ前に身を乗り出しました。


「私達は今、特別任務中でね。君達を連れて行くことは出来ない。だが、ここで見捨てるつもりはないから、この街に常駐の騎士団に身柄を預けようと思っているんだ。」


 そう告げたクイズナー隊長は、こちらの反応を窺うようにチラッと目を向けました。


 確かに、そこら中に魔物が跋扈する街道を旅して大神殿まで連れ歩くよりも、ここに残した方が危険は少ないような気がします。


 ただ、何となく漠然と不安が残るような気もしますが。


「それで、私達が任務を終えて帰る時に、ここへ寄って君達を引き取ろうと思う。王都に戻ってから、専門家の意見を聞きつつ色々と調査や検証を行った上で、君達が安全に生きていける方法を模索しようと思う。どうだろうか?」


「帰って来るのは、いつ?」


 メリルちゃんが不安そうな声音で問い返して来ます。


「大体一月後、くらいかな?」


「レイさんに言われた通りにしてれば、大丈夫?」


 これには、チラッとクイズナー隊長がこちらに視線を投げて来ます。


「そうだね。リブルくんが魔法を使わなければ、メリルちゃんと偶に手を繋ぎつつ2人で側に居れば問題なく生活出来るはずだよ? 王都でリブルくんがそうなってからも、そうだったでしょ?」


 これには、2人が視線を合わせてから頷き返して来ます。


「でも、それだと僕らただの子供で何も出来ないし、食べるものも住む場所もないし、一月待ってられないよ?」


 不安そうなリブルくんの言葉に少し口元が苦くなります。


「だから、騎士団で保護しておいて貰うんだよ? 寝る場所もご飯もちゃんと貰えるようにお話しするから大丈夫。」


 宥めるように口にすると、リブルくんは何か信じられないのか少しだけ強張った表情になりました。


「その為にも、これまで君達の身に起こった事を話して欲しいんだ。そのお話しを聞きながら、騎士団の方でこっそりと事実の確認や調査をするからね。だから、君達は何も考えずにお客さんのつもりで騎士団のお世話になっているといいよ?」


 引き継いだクイズナー隊長の言葉に、リブルくんの方だけがまだ少し不安げな顔をしています。


「では、神官である私からもくれぐれもと騎士団に依頼しておけば、彼らも滅多な事はできない筈ですから、そうしましょうか?」


 フォーラスさんも話しに加わって、少しずつ2人の表情が解れて来たでしょうか?


「クイズナー隊長、私も預ける騎士団の詰所に様子見に行っても良いですか? 何か気になる事があればお願い出来るかもしれないし。」


 にっこり笑顔で切り出すと、クイズナー隊長は少しだけ嫌そうな顔をしつつ、それでも最後には渋々頷き返してくれました。


「レイさん、ありがと。馬車の中でリブルを助けてくれて。それと、私達のことをちゃんと教えてくれて。」


 改まった口調で話しだすメリルちゃんは、リブルくんの前に顔を出して真っ直ぐこちらに目を向けて来ます。


「レイさんにだったら、これまでのこと全部話せると思う。ね?リブル。」


 ここは少しお姉ちゃん風を吹かせるメリルちゃんが微笑ましく感じますね。


「・・・いいよ。あんたは他の奴らとは何か違う気がするし。」


 リブルくんの発言に、何故かコルステアくんが前に出て来ました。


「おにー様だからそんなの当たり前なの。」


 その押し出しの強い口調での主張の意味が良く分かりませんでしたが、リブルくんが圧倒されたように目を瞬かせています。


「コルステアくん、その褒めてるのか貶してるのか分からない横槍って。」


 ボソリと突っ込んでみると、ふんと鼻を鳴らされました。


「おにー様が無自覚なのが一番問題なの! ああいうのが一番後で尾を引いて面倒なことになるんだからね!」


 何のことを言っているのかさっぱり分かりませんが、取り敢えず謝っておこうと思います。


「えっと、何だか分からないけど、ごめんなさい?」


 途端にムッとした顔でそっぽを向かれて、やはり首を傾げることになりました。

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