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 夕方、当初の予定よりも遅めに辿り着いた街フォックマスに入ると、宿が決まってからリブルくんとメリルちゃんを商団の馬車から引き取りました。


 その間、クイズナー隊長は何処ぞにお出掛けしていましたが、恐らく軍か警備隊かの施設でしょう。


 大きな街なので、国の軍の支部があっても不思議ではないと思います。


 弱々しいながらも起き上がれるようになったリブルくんは、メリルちゃんと手を繋いだままこちらに警戒するような目を向け続けています。


「そうか、それじゃ2人は双子で12歳なんだな。」


 そう優しい声で聞き出しているのはケインズさんです。


 根っからのお兄さん体質のケインズさんは、子供達の警戒を解くのが上手で、リブルくんにお粥を食べさせることにも成功していました。


 今日の宿は、敢えての大部屋宿泊で、子供達を皆で見守ることになりました。


 因みに、クイズナー隊長には昼休憩時こそっとリブルくんから読み取れたことを報告してあります。


「それじゃ、私とコルステアくんとフォーラスさんがこの子達に付いてるので、他の皆さんは先に晩御飯行って来て下さい。」


 打ち合わせ通りに他のメンバーを遠ざけてから、丁度戻って来たクイズナー隊長を交えて、子供達と話す時間になりました。


「リブルくん、メリルくん、改めて自己紹介するけど、このことは他の皆には内緒にしておいて欲しいんだ。僕はこの国の第二騎士団の隊長をしているクイズナーだ。それで、今は特別任務で身元を隠してここにいるんだ。こちらのレイナードくんとオンサーくんとケインズくんも同じく騎士団の人間だ。コルステアくんは王宮魔法使いで、フォーラス殿は神官で間違いない。」


 始まった自己紹介に、2人の子供達は戸惑ってポカンとした顔をしています。


 いきなり騎士団の隊長だと言われてもピンと来ないのかもしれません。


「君達は今、少し困った事になっているんじゃないかな? リブルくんの体調のこともそうだけど。」


 クイズナー隊長は、優しい声を心掛けて2人に目線を合わせてゆっくりと話しを進めていくようです。


「騎士団では今、王都近郊でそういった変わった事情を抱える者が見付かったり、不思議な出来事が色々と確認されていて、何か大きな悪事を誰かが隠れて企んでいるのではないかと調べ始めているんだ。だから、その被害者かもしれない君達のような人達を探して保護する傍ら詳しく話しを聞けないかと思っていたところなんだよ?」


 優しい口調で続けるクイズナー隊長に、2人は戸惑ったように顔を見合わせます。


 ですが、リブルくんの方が直ぐに警戒を馴染ませた表情になってチラリとクイズナー隊長を見返しました。


「僕らを捕まえようとしてるの?」


 そう警戒しながら慎重に問い返して来るリブルくんは、孤児として苦労をしてきたから、そして自分の身に起きた何か不本意な悪意を知っているからなのかもしれません。


「捕まえようとはしていないよ? ここにはほら、神官もいるし困っている君達の力になりたいんだよ?」


 そう宥めるように続けるクイズナー隊長ですが、リブルくんは警戒を解く様子はありません。


 手を繋ぎあったメリルちゃんを引き寄せて、弱々しいながらも庇おうとしているように見えます。


「ねぇ。リブルくんは自分の身に何が起きているか分かってる?」


 ついここで口を挟んでしまうと、途端にクイズナー隊長のキツイ眼差しが来ました。


 これは、黙ってろって事なんでしょうが、彼等の為には今話しておくべきだと思います。


「クイズナー隊長、この子達には最低限何をやったらマズいかくらいは話しておかないと、万が一こちらの手を振り切って飛び出していってしまった時に、取り返しがつかない事をしでかしてしまうかもしれませんよ?」


「・・・とはいっても、まだ子供だ。過酷な現実を突き付けるのは・・・。」


 クイズナー隊長の躊躇いは分かりますが、少なくともリブルくんはもう幼いだけの子供ではなさそうなんです。


「リブルくんは、ある程度分かってて周りに警戒も出来るし、今ここでも何かあれば身を守る方法を模索出来る賢さもありますよ? そのリブルくんが早合点でここを切り抜けようとするなら、その手段は絶対やっちゃいけない類のものなんです。だから、それだけでも止めておかないといけないです。この子達の身の安全の為に。」


 そう真面目に返したところ、クイズナー隊長は苦虫を潰したような顔になって黙りました。


 改めてリブルくんに向き直ると、少しだけ訝しげな、それでも警戒は緩めない視線が返ってきました。


「お兄さんが、あの時僕を助けてくれた?」


 お礼よりも警戒強めの確認には口元が苦くなってしまいます。


「応急処置をしただけ、かな? 根本解決にはなってないし。これからどうしていくのが良いのかも私には分からないしね。」


 ここは正直になっておこうと思います。


 これには、少し眉を顰めたリブルくん、ちょっとガッカリしたようです。


 お陰で少しだけ下がった警戒度に、ここで畳み掛けることにします。


「リブルくんは、身体に貯められる魔力が飽和状態になるまで、つまり満タンになるまで周りの魔力を取り込み続ける性質を持ってるみたいだね。」


 それは間違いなく、後天的に植え付けられた能力なのでしょう。


「そして、その魔力は魔法に変換出来る。これは元々魔法変換出来る能力を持ってたのか、貯められるようになった事で出来るようになったのか、分からないところだけどね。」


 そう語って聞かせると、リブルくんは目を泳がせるようにして何か考えているようです。


「リブルくんとしては純粋に魔法が沢山使えるようになったと喜んだのかもしれないんだけど、実は物凄く危ない事をしてるんだよ?」


 その瞳を覗き込むようにして続けると、ハッと目を上げたリブルくんが恐れるように瞳を揺らしています。


 少しだけ心当たりがあるのかもしれません。


「この間の魔物退治の時、リブルくんは途中までは調子良く魔法を使えていたんだよね? でも、途中から身体がおかしくなって倒れた。どうしてだか分かる?」


 逆に問い掛けてみると、リブルくんはじっと上目遣いに窺うような目を向けて来ました。


「取り込んでた魔力が無くなったから?」


「うん。それも一つ。魔法使いは自分の放出出来る魔力量の限界は把握しておいて、完全な魔力切れは防いだ方が良いんだって。」


 そもそも、この子は魔法の使い方をきちんと学んだ事があるのかどうかも不明です。


「そう、なんだ。」


 何処かガッカリした声で言うリブルくんに、クイズナー隊長やコルステアくんが小さく溜息を吐いたようでした。


「それに加えて、無くなった魔力を取り込もうと無差別に周りの魔力を取り入れた結果、側にあった魔物の魔力を多く取り込んでしまったんだろうね。無差別で魔力を取り込むってことは、周りの魔力を均一に吸い込むとして、側にいた人間より魔力量の多い魔物の魔力の比率が当然多くなったってことだね。」


 こちらも考察込みで話しを進めていくと、リブルくんは少し首を傾げつつも、概ね話しの趣旨は伝わったようで、おずおずと頷き返してきました。


「レイさんは、リブルをどうやって助けてくれたの? それに、私がずっと手を繋いでた方が良いって言ったのはどうして?」


 今度はメリルちゃんから質問が来て、こちらも不安そうな目のメリルちゃんに視線を向けます。


「魔物の魔力よりはマシかと思って、無理矢理私の魔力を注ぎ込んで魔物の魔力を追い出してみたんだけど。リブルくんにとっては、生まれる前から一緒のメリルちゃんの魔力が一番相性が良いはずだから、メリルちゃんが手を握って優先的に魔力を注ぎ続けた結果、こうして復調してきたってとこかな。」


 笑顔で解説してみると、メリルちゃんとリブルくんは驚いた顔になっていました。


「これからも、魔法を使うとこうなるのかな?」


 リブルくんの眉下がりの質問に、こくりと頷き返します。


「そうだね。メリルちゃんからの補充で賄えない分は周りから取り込むから、周りに偶々リブルくんの体質に合う魔力の持ち主が居れば幸運だけど、そうじゃなければ魔物程じゃなくても不調になるのは間違いないと思う。」


 この辺りは専門家ではないので言及出来ませんが、まあそんなところなんじゃないでしょうか。


 チラッと向けた視線の先でクイズナー隊長も何か考える顔ながら小さく頷いているので、大筋間違いではないでしょう。


 と、ここでコルステアくんが身を乗り出して2人に目を凝らしています。


「おにー様これ、この子が魔力を注ぎ続ければ安全って訳じゃないでしょ?」


 と、ここでその事実に気付いたコルステアくん、これからその重〜い話しは始めるところだったんですよ。


 そんな訳でちょっとだけじっとりした目をコルステアくんに向けました。

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