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「それから、レイナードくんには特に、呪文詠唱をするもう一つのメリットについても話しておこうか。」


 続くクイズナー隊長の講義にも大人しく聞き入っていることにします。


「レイナードくんは、先程作り出した水球を噴水まで持っていってから、圧を掛けて球状に留めていた魔法の効果を解除した訳だが。呪文詠唱して発動させた魔法は、本人もしくは他者でも効果を打ち消す呪文を追加付与することが出来る。そうすると、先程のように水が飛び散って周りに被害を及ぼす心配がなくなるという訳だね。」


 これには興味を引かれて、続きを促すようにうんうんと頷き返します。


「勿論、打ち消しの呪文の付与は元の呪文の発動時よりも魔力を消費するし、効果が現在進行系で持続しているものに限られる。それに、進行状況を確認しないと大惨事を招くこともある。」


 成る程、これにも検証と熟練が必要な気がしますね。


「それでも、特に君には身に付けておくべき手段だと思わないかい?」


 ここははっきりと名指しでそう投げ掛けて来るクイズナー隊長に、返す言葉もなくて苦笑いが浮かびました。


「だから、これまでも呪文詠唱しなさいって言われ続けてたんですね? いつか私がうっかりをやっちゃった時にも、誰かが打ち消し呪文の付与が出来るかもしれないから。」


「まあそうだね。そもそも何をやったのかも分からない魔法を使われては、誰にも対処のしようがないからね。」


 納得ですね。


「呪文詠唱を行うということは、発動させる魔法に名前を付ける行為だと思えば良い。」


 と、ここでケインズさんの手が上がります。


「クイズナーた、先生! それだと同じ呪文を使った複数の人間がいたとして、その一つだけに打ち消し呪文の追加付与をしたい場合はどうするんですか?」


 首を捻りながら言うケインズさんの言葉に、それもそうだと思いました。


 第二騎士団ナイザリークの魔法訓練でも、中級魔法以上は定型呪文を覚えて使うものだと強調された気がします。


 それだと、中級呪文を複数人が同時に使う場面も普通にあったりするんじゃないでしょうか?


「そうだね。でもね、例えばオンサーくんとケインズくんが同じ呪文で魔法を使ったとして、全く同じ効果の魔法が発動されるケースは少ないんじゃないかな?」


 言われたケインズさんとオンサーさんは互いを見交わして考え込んでいるようです。


 確かに、定型の呪文を唱えるとしてもそれに期待する効果を脳内で描いて魔力を乗せるはずなので、全く一緒にはならないものなのかもしれません。


「打ち消し魔法も、この名前を付けられた呪文を打ち消すと唱えながら、魔力を乗せる時は打ち消す魔法に意識を向ける必要があるという訳だ。」


 成る程、呪文を唱えるという行為は、魔法社会における環境構築の見える化に近い理念でしょうか?


「という訳で、良い機会なので打ち消し魔法を使う訓練も並行して行うからね。」


 良い笑顔で締め括ったクイズナー隊長ですが、第二騎士団ナイザリークでは普通には訓練内容に含まれないものなのかもしれません。


「それじゃ、もう一度硬貨サイズの水を手の平に生成する訓練から始めるよ〜。」


 クイズナー隊長から促されて、それぞれもう一度挑戦することになりました。


「も・う・い・ち・ど!」


 そんなクイズナー隊長のキレ気味な声が響く噴水広場で、夕暮れまで訓練は続きました。


 夕飯時宿の隣の食堂で、同行メンバー全員のコップに生成したアルプスの美味しい天然水に、何故か微妙に残念そうな顔をされたのには、納得出来ない気がしました。


「美味しいけどね、ホントに物凄く美味しい水なんだけど、なんかこれじゃないって思うの、私だけ?」


 黙っていられなかった様子のジリアさんに、複数の肯定的頷きが返っています。


「おにー様は残念な方向の器用貧乏だからね。」


 コルステアくんの一見微笑ましげなコメントにも、裏を探れば山程嫌味が入っているのがわかります。


「だって、どうやってもコインサイズにはならないんだもん。こうなったらもう

 少しでもクオリティを高めるしかないでしょ?」


「それならいっそ、聖なる魔力を込めて聖水として売り出すのはどうです? この美味しさなら売れますよ? 魔力がどう作用するのかはともかく。」


 そこで商売を始めようとしているフォーラスさん、神官さんの筈なのに俗っぽいですよ?


「うん。将来生活に困ったら考えようかな。その時はフォーラスさんが保証人になって下さいね。」


 すかさず言質をとっておくことにしますよ?


「困らないだろあんたは。」


 リックさんの冷たい突っ込みが割り込んで来ます。


「そうだな。国家的反逆罪にでも問われてお尋ね者になるんじゃなきゃ有り得ないだろうな。」


「そうなると、私が保証人になる訳にはいきませんね。」


 ピードさんに続くフォーラスさん、ちょっとあんまりな言い草じゃ無いでしょうか?


「冷たいですよねぇ、皆さん。まあそんなことになったら即行この国からエスケープしますから、お世話になることもないと思いますけど!」


 冗談ではなく、そんな事にはならないように気を付けようと思います。


 そんな和やかな雰囲気で始まった晩御飯も終盤に差し掛かったところで、パタパタと音をさせて紙の鳥が飛んで来ます。


 先日同様クイズナー隊長の手元に降りて来た紙の鳥は、二つに割れてその一つがこちらの手元に落ちてきます。


「また若様にもラブレター? 熱愛ぶりが凄いわよね?」


 ジリアさんの一言に、思わず顔に熱が集まった気がして目を逸らしてしまうと、当のジリアさんからえっと驚きの声が上がりました。


 冗談のつもりだったようですね。


「放っておいてくれる? おにー様、恋愛には相当奥手みたいだからさ。纏まるものも纏まらなくなるの、困るから。」


 悟ったような口調でコルステアくんに言われるのは物凄く不本意ですけど、確かにちょっと弄られたくない問題です。


「はあ? そんな訳あるか。その容姿でどう奥手になりようがあるんだ。」


 ボソッと呟くピードさん、本当色んなところで突っかかって来る人ですね。


「だからこそ、色々苦労もあるんだろ? 察してやってくれ。」


 オンサーさんがそう取り成してくれた隣で、ケインズさんが眉下がりにこちらを見ているのに気付きました。


 シルヴェイン王子の定時連絡、もう少しこそっと届けてくれないものでしょうか?


 実際の内容は、そんなラブレターじみたものではないはずですが、このシチュエーションが小っ恥ずかしいんです。


 しかも本日もシルヴェイン王子が送って来た魔力の残滓が微かに残っている他、紙を取り上げた元の持ち主のサヴィスティン王子の魔力の方が余程紙に残っているという状態には微妙な気分になります。


 これがサヴィスティン王子から送られて来たものなら秒で燃やし尽くすところですが、シルヴェイン王子からのこちらを気遣う手紙かと思うと捨てるに捨てられません。


 没収品を有効活用していると思っているシルヴェイン王子は、この実情には気付いていないのでしょうが、帰ったら一言言ってから始末することにしようと思います。

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