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 朝の訓練場へ入って行くと、こちらをチラチラ。


「おはようございまーす。」


 きちんと皆様に聞こえるように挨拶しますが、昨日と違ってパラパラ挨拶が返ってきます。


 未だ頑なに無視な方もいらっしゃいますが、そこはどちらの人間性を疑われるか、ですから放っておきましょう。


 片隅で準備運動してるところへ、ケインズさんが慌てて駆け寄って来ます。


「レイナードおはよう。早かったな。」


「あー、はい。」


 社会人たる者、10分前行動は基本ですが?


 道順も昨日教えて貰ったので、訓練場への行き来くらいは訳ないです。


 もしかして、宿舎まで迎えに行ってくれたんですか?


 そう思いながらキョトンと見つめ返していると、ケインズさんは何か少し照れたように頭を掻いて、言いにくそうに言葉を選んでる様子です。


「いや、あの。昨日の今日だし、起きられたか気になって。まあ、来れたなら良いんだ。」


 やっぱり良い人ですよねこの人。


 そんなケインズさんにまで誤解されてたってことは、レイナード相当性格が歪んでたんですね。


 まあ、今日からのレイナードは一味違いますけどね!


 見てろよオラっと周りを見渡してから、準備運動続けます。


 教えて貰った基礎の準備運動に、筋伸ばしやらちょっと足りない動きを追加して、しっかり身体を解すと、今日も走り込みのお時間です。


 何となく隣で準備運動を終えたケインズさんが、今日も一緒に走ってくれる様子です。


 流石にコースはしっかり頭に入ってますが、今日こそは身体を慣らして吐かずに終わりたいところです。


 この後の朝食が不味くなりますからね。


 食堂のご飯が不味い事には、しばらくは自主的に可能なアレンジを加えて乗り切るとして、いずれは食事改革をしてみたいと野望を抱いてます。


 騎士団の人達は味覚音痴なのか、この世界がそもそも食にこだわりがなさ過ぎるのか。


 とはいえ娯楽の無さそうなここで生き抜くなら、食事くらいは楽しまなければやってられません。


 スイーツとかもいつかはここの食材で作り出してみたいところですが、まずは食べられるご飯の確保です。


 そんな事を考えながら走っていると、急激にお腹が空いてきて、ぐうぐうなり始めます。


 そう言えば、昨日は夕方から鎮痛剤飲んで爆睡したので、晩御飯食べてませんでしたね。


 まあ、頭痛い上に色々あって頭がパンク寸前でしたから仕方がないとして、お陰で色々と覚悟は決まりました。


 取り敢えず、記憶喪失のレイナードとして、ここで生き抜くしかないってことですね。


 生きやすくする為に、周りの環境も積極的に整えることに決定です。


 つまり、周りから受け入れられるレイナードになる事が第一課題です。


 あと、魔法も使えるようになりたいですね。


 これにはちょっとした野望があります。


 日常生活にちょびっと魔法を取り入れたりして、便利な小魔法で快適ライフを目指します。


 その為には、隊長だろうがドSパワハラ王子だろうが、使えるものはどんどん利用してパワーアップを測る予定です。


 なんて事を考えてちょっとニヤニヤしてたのを見られたのか、付き合ってくれてるケインズさんが、薄気味悪そうな顔になってました。


「お前、その、色々と大丈夫か?」


 そう引き気味なケインズさんのお言葉を貰ったのは、地獄の走り込みが終わって井戸の側で座り込んでる時でした。


 手拭いで汗を拭きながら顔だけ上げると、ケインズさんは意外と真面目な顔になってました。


「ええと?」


 掠れ声で意図を問い返すと、ケインズさんの目が困ったように泳いでます。


「不安、だよな? 自分が誰かも分からないし、周りとの関係も覚えてないんだろ? こんな時に、従者も居なくなったしな。」


 少し言いにくそうに言われたケインズさんからの優しい言葉は、つきっと胸に刺さるような気がしました。


 どうしよう、本当に良い人っているもんですね。


 レイナード男子で、本当に残念です。


 これが外がわ女子なら、恋に落ちること間違いなしだと思います。


 ケインズさん無自覚たらし魔でしょうか、気を付けた方が良いですよ。


「んー、まあ。でも、覚えてないですからね。正直過去の自分の事は、知った事じゃないですよ。引きずって色々言ってくる奴は好きにすれば良いと思いますし。」


 正直にそう返しておくと、ケインズさんの眉が下がって、可哀想な子を見る目になってます。


「もしかしたら、過去の俺は、上手くいかないどうしようもない過去を、捨てたかったのかもしれないじゃないですか? だったら、俺は過去は振り返らずに、これからを自由に生きたら良いと思いませんか?」


 前向き発言でまとめてみせると、ケインズさんはまだ複雑そうな顔をしながら、それでも一つ頷き返してくれました。


「分かった。・・・お前の気持ちが割り切れてるなら、俺もそんな風に扱う。ちょっと人が変わったみたいになってるけど、それも気にしないことにする。」


 そこは済みません、中身入れ替わってますから、人は変わってるで間違いないんですけどね。


 ケインズさんも割り切って受け入れてくれそうなので、にこりと笑みを返しておきました。

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