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 ヒーリックさんのお弁当、美味しいです!


 硬いパンに挟まれたお肉と野菜に、ピクルスみたいな酸味のある漬物的なものを混ぜ込んだソースが、絶妙な味バランスでかかったサンドイッチでした。


 ミンジャーの唐揚げも数個ずつ添えられていて、エール下さい!って叫んでしまいたくなりました。


「レイナード、美味しいか?」


 そう隣で訊いてくれたのは、ケインズさんです。


「うん。凄く美味しいですよ? ヒーリックさんとこの料理人さん、お料理上手ですよね?」


「そうだよな。叔父さんの店が繁盛してるのは、あの人のお陰でもあると思う。」


 何処か嬉しそうに答えるケインズさんは、叔父さんが好きなんでしょうね。


「やっぱりご飯の美味しい居酒屋は良いですよね。」


「うん。メニューを決めるのと仕入れは叔父さんの仕事なんだ。ざっくりレシピまで叔父さんが考案して、作るのはあの人がやるんだけど、あの人料理を作ることに関しては神の手の持ち主なんだよ。」


 不思議な話しを始めたケインズさんに、小首を傾げて続きを促します。


「おんなじレシピで他の人が作っても、あの人とは味が違うんだ。その代わり、新しいメニューを考案したり食材の開拓なんかはあんまり得意じゃないみたいで、だから叔父さんと持ちつ持たれつであの居酒屋を営んでるってわけ。」


 まあ、神様的存在が世界を管理してる形跡があるところですから、ギフトって言うんでしょうか、特殊能力を神様から貰ってる人もその辺にいたりするんでしょう。


「へぇ、羨ましいなぁ。絶対美味しいご飯作れる人って。」


「・・・あの人に、料理習おうかな。」


 ふと言い出したケインズさんに、慌ててそちらを向きます。


 その顔がかなり本気に見えて驚いてしまいました。


「えっと? ケインズさん実はお料理好きなんですか?」


「あー、そういう訳じゃないけど。その、好きな人に美味しい料理を振る舞ってあげるのも良いかなって。」


 言ってそっとこちらに目を向けて来るケインズさんに、驚いて目を見開いてしまいます。


 流石にここで、え?好きな人居たんですか? とかボケたりしませんよ?


 でも、何と答えるかは迷ってしまいますね。


 他の人の目もあることですし。


「私、第二騎士団ナイザリークの食堂の料理長と取り組んでるお料理改革も楽しいですけどね。」


 無難にかわし切れたでしょうか?


「ああ、食堂のメシ、良くなったよな。」


 ここでオンサーさんの助け舟が来て、内心ホッとしてしまいました。


「レイナード、始めの頃スープとか肉とかに酸っぱい果物の汁とかかけて食べてたもんな。」


 ケインズさんも何事も無かったように乗って来てくれたので、さっきの話しは冗談だったと思う事にしました。


「おにー様味覚おかしいんじゃないの?」


 コルステアくんのいつもの遠慮なし発言に乾いた笑いが起こったところで、クイズナー隊長が食後のお茶を一口飲んでから、こちらに目を向けて来ました。


「ところで、さっきもう一つ気になったことがあったんだけど。魔力が美味しいとか、魔物ホイホイって?」


 こちらはうっかり詰まりそうになった最後の一口を飲み込んで、お茶を飲んでから、クイズナー隊長にじっとりした目を向けました。


「やめてくださいよ。せっかくのご飯が台無しになりますから。」


 抗議の言葉は笑ってない笑顔に黙殺されてしまいました。


「私の魔力、魔力を取り込む習性のある魔物や魔人なんかに人気なんだそうです。シーラックくんの魔人さんからもイイね貰ったので間違いないですよ。」


「・・・つまり、魔物が捕食対象とみなして寄って来る可能性があるってことだね。」


 クイズナー隊長の顔が更に苦くなりました。


「それって、サークマイトやらに懐かれた事にも関係あるんじゃないのか?」


 オンサーさんがふと気付いたように発言して、隣でピタッと身を寄せているコルちゃんに注目が集まりました。


「そうかも。」


 無難に答えてはぐらかしておくことにしますが、コルステアくんがじいっとこちらを見ている視線を感じます。


「それっておにー様の魔力?」


 その意味は、レイカのかレイナードのかってことでしょう。


「うん。私のだって。あの人のじゃなくて。」


「ふうん。」


「なるほどね。それはちょっと分かるかな。」


 クイズナー隊長にまで言われて、そういえば魔力がレイナードと違うって言われたのはこの2人からだったと思い出しました。


「なあ、ちょっと待ってくれるか? その人、無限に魔物寄せする体質ってことだろ? つまり、魔物との遭遇回数が爆上がりする訳で、それって契約範囲を明らかに逸脱してるだろ!」


 やっぱり魔物ホイホイの護衛は話しが違いますよね?


「ミッション達成後の追加報酬で手を打ちましょうよ! 私だって知らなかったんですよ?」


 必死で取り成してみますが、リックさん達の吊り上がった目は戻りませんよ?


「そんな訳があるか! 第二騎士団ナイザリークの騎士なら討伐遠征にだって出たことあるだろ! それ以前に王都の守護圏内から出たら魔物を引き寄せてたはずだ!」


 言い切ってくれたピードさんには、もう正直に話すしかないですね。


「だから、初外出なんですよ! 王都から出たの初めてだし、何なら長距離乗馬も初めてだし。第二騎士団ナイザリークに入隊したのも春頃だから遠征経験も討伐経験もないし。偶然出会った魔物には、確かに訳もわからず懐かれましたけど!」


「・・・本当に深窓の御令息だ。」


 護衛の皆さんボソボソと引き気味に漏らすのやめましょう。


「とにかく、こんな厄介な護衛仕事があるか!」


 再度叫びを入れたリックさんですが、ここで護衛の話しはなしって言われても困りますよね。


「リックさん、じゃここは一つ、契約条件にそちらに利があるようにもう一つ追加を。」


 そう口にした途端、クイズナー隊長の何余計なこと言い出すんだという鋭い視線と、護衛の皆さんからの警戒度の上がった視線が来ました。


 何でしょうこれ、どちらにも信用無さすぎじゃないでしょうか?


「シーラックくんと魔人さんの件は、私個人視点ではこのまま放って置かない方が良いって印象です。だから、旅の間解決策を模索のお手伝いをします。それから、ジリアさんは私と一緒に大神殿で見てもらうのどうでしょうか?」


 そこから流れた重い沈黙。


「クイズナーさんだっけ? 何なんだよ、その人。怪し過ぎだろ。隠し事は多過ぎるし、何でも見通すし。突然色んなこと垂れ流すように暴露し始めるし。」


 リックさんのかなり低い威嚇するような声がクイズナー隊長に向かいます。


「全くだね。僕としても同意見だ。この子、僕にも全部は明かしてくれないんだよね。でも、悪意がある訳じゃ無さそうで、今現在君達の力を必要としているのも事実。諦めて付き合ってみるつもりはないかい? その魔人契約者のシーラックくんには、多分得難い助言者になるだろうとは思う。魔人と契約している人間は極珍しいそうだからね。」


 諦めたような溜息付きで返したクイズナー隊長ですが、冷静に話しを纏めてくれたようですね。


 険悪な空気が少しだけ緩んだような気がしました。

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