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 石畳敷きの街道が絶えて、踏み固められた赤茶けた大地を走らせ始めてしばらく、サバンナのような景色を見飽きて来た頃に、先頭を走っていたリックさんが手を挙げて、馬足を緩め始めました。


 人生初、長時間乗馬の所為で、足腰がガクガクすることは、内緒にしつつ頑張って地面に降り立ちました。


 今膝カックンされたら無様にひっくり返れること間違いなしです。


 コルちゃんも地面に降ろしてあげて1人と1匹で膝を曲げ伸ばしします。


「レイナード、大丈夫か?」


 何処か呼びにくそうに名前を呼びつつ気遣う言葉をくれたのは、ケインズさんでした。


「手綱は、こんな感じでここに繋ぐといい。」


 自分の馬も繋ぎつつ、ナシーダちゃんのお世話についても説明してくれます。


 その様子を護衛の皆さんが不思議そうに見ていましたが、若様だから何も出来ない知らないってことにしておこうと思います。


 ただコルステアくんは当たり前のように何でも出来るので、もうこれは不出来な兄と見られても仕方ないと諦めるしかないですね。


「レイナードくん、お昼はヒーリックさんに用意して貰ったお弁当だからねぇ。」


 クイズナー隊長の言葉に振り返ると、包みからパンにおかずを挟んだサンドイッチのようなものが覗いていました。


「わあ、美味しそうですね!」


 ハートマーク付きでわくわくと答えると、クイズナー隊長からは苦笑を返されました。


「若様って実年齢より幼い感じ? 仕草とか言葉遣いとか、お育ちが良いですねって感じだけど、言動がね。」


 そうこちらに歩いて来ながら話し掛けて来たのは、ジリアさんです。


 それにはちょっとぎくっとしてしまいました。


 言葉遣いをレイナードっぽく装わなかったので、ひたすら丁寧に喋っているように聞こえたようです。


 それに、その言葉を受けてケインズさんとオンサーさんがクスッと笑ったようだったのに微妙に恥ずかしくなりますね。


 あちらでの実年齢は、もっと年上の28歳だったって明かしてありますから、幼い言動扱いはかなり恥ずかしいです。


「うん。えーっと。この間のヒーリックさんのお店で食べた居酒屋ご飯、美味しかったので期待するじゃないですか。途中で魔物騒ぎがあってそのまま帰ることになったけど。」


「そっかぁ。確かにあそこのご飯美味しいのよね。ヒーリックさんの昔のハンター仲間が料理担当で、現役時代から野外メシで慣らしてるから、わりと何でも美味しくお酒に合う料理にしてくれるのよ。」


 成る程、そういう方が料理人っていうのは良いですね。


「えっ? レイナード様が居酒屋で食事を? 良く許されましたね。」


 と、話しに入って来たのはフォーラスさんです。


「何か問題でも? 騎士団の食堂と何か違いがあるんですか?」


 ちょっとムッとして言い返すと、フォーラスさんには苦笑いされました。


「深窓の御令息かよ。」


 ポソっと向こうからピードさんの苦い呟きが聞こえて来ましたよ。


「は? 深窓の御令息の何が悪いわけ? ウチのおにー様に文句でも?」


 と、それに一々噛み付くコルステアくんですが、言ってることおかしいからね、落ち着いて。


「まあまあまあ、コルステアくん。いきなり揉めないで? せっかく一緒に旅に出たのに、空気悪くなるから、ね?」


 そう取り成してみましたが、コルステアくんにはギロッと睨み返されました。


「まあ誰がって、深窓の若様の発言が原因だけどな。」


 そうこちらに歩いて来ながら堂々と当てこすって下さったのは護衛さん達代表のリックさんです。


「あー、続きは道中でって話しでしたよね。シーラックくん、今その子を皆んなに見えるようにすることは出来る?」


 皆の視線が未だ馬の側にいたシーラックくんに集まります。


 途端にビクリと肩を振るわせたシーラックくんは、サッとピードさんの後ろに隠れてしまいました。


 が、ピードさんの広い背中からチラッとこちらを覗き見ています。


 瞬きしながら根気良く待っていると、ピードさんの背中の後ろから顔だけ見えるように出して、シーラックくんがじっとこちらを見ています。


「カランジュは、その人の前には出たくないみたい。」


 そう言ってシーラックくんが指差したのは、フォーラスさんでした。


「ああ、成る程ねぇ。」


 思わず返したこちらに、今度は皆の視線が移ります。


「ええ? 私、何かしましたでしょうか?」


 フォーラスさんが何処か腑に落ちない口調で返して来るのに、ちょっと考え込んでしまいます。


「ウチの指人形も、フォーラスさんが居る時とか神殿に行った時とか出て来ないんだよね。魔人って神殿関係と何かあるのかもね。」


 そう溢してみると、シーラックくんが身を乗り出して来ました。


「お姉さんも、魔人の契約者?」


 躊躇いがちにシーラックくんが口にした言葉でしたが、これにはクイズナー隊長を始めこちらのメンバー全員が固まってしまいました。


 因みに、護衛の皆さんはキョトンとした顔になっています。


 シーラックくんが言うお姉さんが誰に当たるのか分からなかったのでしょう。


「カランジュ?が教えてくれたの?」


「・・・うん。お姉さん、物凄い魔力量だって。それに、運命に呪われてるって。」


 えーっとカランジュくん、その解釈の難しい表現やめましょうか?


「あ、その運命に呪われてるって話し、受け付け不可ね。確かに呪術掛けられて呪われてるけど、運命云々とか、都合の悪いことは信じないから。」


 胸を張って言い切ってみせると、シーラックくんがポカンとした顔になりました。


 その更に外側から、カランジュくんがトカゲの顔を覗かせます。


 それから思い切ったようにパサッと広げた半透明な翼をはためかせて、パサパサっとこちらに飛んで来ました。


 目の前まで来ると、ポンっと弾けるように姿が薄れて、目の前に幼い男の子が立っていました。


 顔立ちは契約の関係かシーラックくんに似ていて、ただ年齢は10歳に満たない少年に見えます。


『わぁ、凄い!』


 無邪気にこちらを見上げて声を上げた少年に、目を瞬かせてしまいます。


『シーラック、僕この人の魔力大好き! 美味しそう!』


「え? ダメだよカランジュ!」


 シーラックくんが慌ててこちらに走り寄って来ます。


 何処から突っ込むべきか迷う主従のやり取りに、う〜んと悩んでいると、右腕の横から小さな影が乗り出して来ました。


『おい! 我が君から離れろ、出来損ないが!』


 と、久しぶりにお目にかかるウチの指人形ですね。


「久しぶり〜。もう来ないかと思ってたー。」


 棒読み感満載で冷たい口調で言ってみせると、指人形が可愛いふりの笑顔を向けて来ながら小首を傾げてらっしゃいます。


『あ、もしかして寂しかったですか?我が君。焦らし作戦大成功ですね。』


 ふっと胸を逸らしてにかっと笑い掛けて来る指人形に、笑顔のふりの半眼を向けてやりました。


「はい? 焦らし作戦? 舐めてるの? 飛ばされたいの? 飛ばされたいんだよね? よっしゃ任せろ行ってこい! もう二度と戻って来んな!」


 中指を親指にかけてデコピンの準備を始めたこちらに、指人形の顔も焦ったように引きつります。


『待って我が君! 照れなくても良いから会いたかった寂しかったって言って良いんですよ? 我が君からの愛なら全部受け取れるから、ね?』


「凄いポジティブだよね? 愛のデコピンで世界の反対側まで行っておいで? で、聞きたいことあるから秒で戻って来て正座1時間ね。」


 それは凍るように冷たい口調を心掛けて言い放ってみせると、流石の指人形も大人しくこちらを窺う顔付きになりました。

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