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「ほんじゃ、気を付けて行ってこいよ〜。」


 ヒーリックさんのお店の裏で待ち合わせた旅の仲間の皆さんと合流して、早速出発という運びとなりました。


 初顔合わせのフォーラスさんとコルステアくんと護衛の皆さんが自己紹介している中、抱っこ紐の中のサークマイトサイズのコルちゃんの様子を確かめつつ、何となく目の合ったヒーリックさんと話してみたりしていました。


「なあ、あんたが何者かは聞いちゃいけないんだろうけどな。今回の旅、主導権を握ってるのは間違いなくあんただろ? ケインズのこと、頼むな。それから、護衛を引き受けたアイツら、どいつも色々抱えてやがるけどな、それでも前向いて精一杯生きていこうとしてるやつらなんだ。使い捨てにはしてくれるなよ。」


「当たり前ですよ。使い捨てられていい人間なんか、この世には1人もいないんですよ。一緒に旅に出るんですから、戻る時も一緒ですよ。向こうから一緒は嫌だって言われない限りね。」


 そう返してにこりと笑い掛けると、ヒーリックさんもふっと表情を緩めてくれました。


 だからでしょうか、つい言葉がこぼれ落ちていました。


「ねぇ、ヒーリックさん。一月留守にする間、街で変わったことが起こらないか気を付けて噂話しとかに耳を傾けといて貰えませんか?」


 途端にヒーリックさんが眉を寄せて鋭い目付きに変わりました。


「何か根拠でもあるのか? 特にどんな話しだ?」


 真面目に問い掛けて来たヒーリックさんにちょっと間違ったかなと思いましたが、今更引っ込められないので続けることにしました。


「うーん。異例の魔物の出現とか、呪いとか魔人とか? もしも耳にしたらで良いんです。」


「それは、街の一般市民の噂話でってことだよな?」


 確かめて来たヒーリックさんに頷き返します。


 上から来る難しい話しはシルヴェイン王子の耳に入るはずですからそれ程心配していませんが、事件は現場からって言うじゃないですか?


 街で不穏な何かが起こり始めてるのは間違いないですからね。


「ふうん、で?その対価は?」


「へ? これ、報酬とか要る話しですか?」


「当たり前だろうが。客の話しに耳を傾けとくって、居酒屋の店主の普通の仕事の範囲外だろ?」


 そう言われればそうかもしれません。


「えーっと、私個人の資産とかまだあんまりなくて。」


 仕方なくそう答えると、キョトンとした顔をされました。


「あんたランバスティス伯爵家の人間なんだろ? 実家、かなり金持ちだと思うぞ?」


「あー、まあ。そうなんでしょうねぇ。帰って来たら、お父さんに相談してみます。」


 少し苦い口調で答えると、ヒーリックさんにはまた首を傾げられてしまいました。


「ヒーリックさん!」


 と、割り込むようにこちらに声を掛けて来たのは紅一点のジリアさんです。


「行って来るね!」


「おう、ジリアも気を付けてな〜。」


 と、ジリアさんの頭をぐりぐり撫でているヒーリックさんですが、ジリアさんはそれに満足そうに目を細めつつも、じいっと上目遣いにヒーリックさんを見つめています。


 これは、あれ?もしかして案件でしょうか?


 まあ、怖いので人の恋路には近付きませんけどね。


 と言う訳で、さっさとヒーリックさんの側を離れて、1人隅で所在なげにしているシーラック少年に近寄って行きます。


「旅は慣れてるの?」


 そう無難に話し掛けてみると、シーラックくんの肩が露骨にびくりと震えました。


 それから、ちらっとこちらを横目で見上げて、ほんの僅かだけこくりと頷いたようでした。


「そうなんだ。ところで、その子に挨拶しても良い?」


 シーラックくんの左腕にしがみ付いて先程からこちらをチラチラ覗いている全長15センチ程のトカゲに目を向けます。


 途端に護衛要員5人の動きがピタリと止まりました。


「はあ。また、始まった。」


 コルステアくんの深々とした溜息からの呟きが路地裏に流れていきました。


「・・・なるほど、あれが見えやがるのか。本当とんでもねぇな。秘密にして囲っときたい訳だ。」


 ヒーリックさんが頭を掻きむしりながらポツリと漏らしています。


「レイナードくん、何が見えるって?」


 気を取り直したように問い掛けて来るクイズナー隊長に、にこりと答えます。


「戦闘になれば出て来るのか、街の外に出たら出すのか、今は姿を隠すか消すかさせてるんでしょう?」


 一先ずクイズナー隊長の言葉は保留にして、シーラックくんに問い掛けます。


 こくりとこれまた小さく頷き返して来たシーラックくんですが、明らかにこちらに怯えたような目を向けています。


「今はトカゲに見えるけど、大きくなったらドラゴンになるんじゃないかな?」


「ドラゴン!?」


 驚いたように問い返して来るクイズナー隊長に、それは語弊があったかもと付け足します。


「あ、ドラゴンに擬態してその能力を使えるようになる、実際は魔人だよね?」


 これには、シーラックくんが更に目を見開いて驚きの表情になっています。


「ドラゴンに擬態する魔人??」


 クイズナー隊長のほうも驚愕の表情です。


「うーん。私が聞いてた魔人の話しとはちょっと違うんだけど、その子の契約者はシーラックくんで間違いないんだけど、当然シーラックくんはドラゴンじゃない訳で。ドラゴンに擬態してその能力を使える意味が分からないんだよね。」


 これは、指人形お呼び出しコースじゃないでしょうか?


 最近、シルヴェイン王子の離宮に移ってから、夜も顔を出さなくなった指人形が何処で何をしているのやら、気になっていたところでしたし。


「ま、とにかく出発しつつ、道々話し聞きましょうよ。どうせ長旅ですし。」


 そう纏めてみると、何故か全員に微妙に苛立った顔をされた気がしました。

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