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「テュールズさん、不調になる前に何かいつもと違う事はありませんでしたか? 誰かにぶつかったとか、不意に触れられたとか、特に左腕の辺りをそんなようなことは何かありませんでしたか?」


 腕を凝視しながら問い掛けると、テュールズさんがハッと息を呑んだようでした。


「そういえば、街に魔物が出て出動した時、庇った一般人にしがみつかれて引き剥がすのに苦労しましたね。その日営所に戻った辺りから左腕に違和感があった気がします。」


 話しつつも首を傾げるテュールズさんは、それ自体が怪しいとは思えないという顔をしています。


「他にもそんな症状の人がいたりします?」


 ついでに問い掛けてみると、ケミルズ隊長がこちらに近寄って来ました。


「原因が分からずに不調を訴えている者が他にも何名かいます。皆外傷はないのに身体の何処かに違和感から始まって、鈍痛や激痛が不定期に来るような不調を訴えています。」


「お医者さんや神殿には行かれたんですか?」


 問い返してみると、ケミルズ隊長は苦い顔になりました。


「医者では原因を見つけられず。一番初めに不調を訴えた者が神殿に行き、微かに呪詛の気配がと言われて解呪して貰ったのですが、その翌日には更に酷い痛みに襲われたようで。」


 それで、神殿での解呪も諦めたということでしょうか?


「解呪、出来そうなのか?」


 シルヴェイン王子も話しに入って来ます。


「これ、よく見たらやっぱり普通じゃないと思うんですよ。呪詛って、本来は呪術師が代償を払ってかけるものですよね? だから、呪詛がかかったその時に代償に見合った呪いがかかる訳じゃないですか? でもこれ、呪詛をかけ続けてるみたいに成長し続けてて、でも何処にも繋がってないんです。」


「つまり?」


 促されて言葉を選びつつ続けます。


「まるで、自分で自分に呪詛をかけ続けてるみたいに、自分の命を削って呪詛を成長させ続けてるような状態になってるんですよ。」


 シルヴェイン王子が顔を顰めつつ首を傾げます。


「そんなことが可能なのか?」


「いや、そもそも論なんですけど。例えばテュールズさんが自分で自分の腕を痛ませ続ける理由がないじゃないですか。」


 だからおかしいと訴えたこちらに、シルヴェイン王子が納得の顔になりました。


「よく分からないんですけど、呪詛の始点まで解呪してみて、根元を確認してもいいですか?」


 この間、夜会の時にファーバー公やリンド元騎士団長が持ってた指輪の石のようなものが始点にあって、何処かに繋がってる可能性がないか確かめてみたいですね。


「・・・やはりフォーラスを呼びたいところだが、来るまで待てないか?」


 慎重に返して来るシルヴェイン王子に、迷ってしまいます。


「正直に言うとわからないです。もしかしたら、神殿で一度解呪して貰った人を見れば、何かもっとわかるかもしれませんけど、その人に会う事は出来ますか?」


 ケミルズ隊長に問い掛けると、眉を寄せて難しい顔になりました。


「テュールズ、サグリスの自宅の場所を誰か知ってるヤツはいるか?」


「コルダース隊長か、マーシースさんならご存知かもしれません。それか同じ隊の奴なら他にも知ってそうな奴がいそうですけど。」


 直ぐに答えたテュールズさん、呪詛と言われても冷静なようですね。


「第三騎士団は、自宅通いが多いんだったな。」


 シルヴェイン王子もそう言えばというように言葉を挟みました。


「ええ、独身者の為の寮はあるんですが、汚くて設備が旧くて料理が不味いって不評でして。」


 3悪じゃないですか。


 王都の治安の為に働いてくれてる人達なのに、ちょっと第三騎士団の人達が可哀想になりました。


 シルヴェイン王子も何とも言えない顔付きになっています。


「で? そいつは家族持ちで自宅通いだったから、今は自宅療養中なのか?」


「はい。業務中の被害とはっきりすれば、第三騎士団から見舞金なり治療費なりを給付出来るのですが、何分その辺りがはっきりしないので・・・」


 それって、被害に遭ってる人、相当困ってるんじゃないでしょうか。


「どうしたい?」


 シルヴェイン王子がこちらに視線を投げて問い掛けて来ます。


 主導権握って良いんでしょうか?


「今日の予定としては、この中庭の確認が済めば終わりですよね? だったら、もし可能ならその人を訪ねてみてもいいですか?」


「止めても、お前は自分のやりたいようにしかやらないだろう?」


 半眼気味に返されましたが、その傾向がなくはないので否定出来ませんね。


「分かった、フォーラスを呼び出している間に、そいつの自宅を訪ねてみよう。」


「え? 殿下がですか?」


 ケミルズ隊長が途端に慌て出しました。


「何だ? マズいのか?」


「いえ、それくらいなら誰か迎えに行かせますので呼び出しましょうか?」


 確かに、王子様が一騎士の自宅を訪問って、かなり異例の事態ですよね?


「呪詛の進行具合で動くのが大変じゃないなら、そうして貰いましょうか? それと、他にも該当しそうな人がいたら一度見させてもらっても良いですか?」


 ケミルズ隊長のこちらを見る顔付きがガラリと変わりました。


「承知しました。サグリスは自宅を知る者に迎えに行かせます。それから、最近原因不明の不調を訴えている者も集めますので、どうか宜しくお願いします。」


 頭まで下げてくれたケミルズ隊長に、こちらも慌ててしまいます。


「あの、どうにか出来るかはまだ分かりませんよ? 原因がもしかしたらちょっとわかるかもしれないっていう程度で。」


「勿論です。それでも、何も分からず原因不明よりは有難い。」


 力の篭ったその返事に、曖昧な笑みを浮かべてしまいました。


 と、隣からコルステアくんが顔を覗き込んで来ます。


「大丈夫なの? 安請け合いして。」


「だから、どうにか出来るか分からないって言ったじゃない。」


 返してみると、コルステアくんには肩を竦められました。


 そんなやり取りをしている間に、ケミルズ隊長とシルヴェイン王子は、神殿に連絡やら被害者のサグリスさんを呼びに行く手配やらを始めてくれているようです。


 ところで、明日の朝ヒヨコちゃん親子に降りて来て貰う予定の中庭ですが、基本的には第三騎士団の訓練に使っているのか、何もない土が踏み固められた広場です。


 第二騎士団ナイザリーク兵舎前広場よりも余程広くて引火の可能性がある草も生えていない安全な場所のようで安心しました。


 あとは、上空からヒヨコちゃんとお父さんが上手くこちらを見つけてくれることを祈るしかないのですが、これだけはどうにも出来ない不安要素ですね。


「本当に凡ゆる問題ごとを引き寄せる天才だよね?」


 呆れ混じりのコルステアくんの発言は、聞こえないふりですよ?


「一月の旅の前にこんな大問題ぶち上げといて、殿下に自分がいない間はお気を付けてって、殿下がお優しくなければ嫌味かって言われるとこだよ?」


「それって、私が悪いの? 出掛ける前に懸念の種は潰しときたいとか、出来る限り見付けておきたいとか、有難迷惑?」


 ムッとして返してみると、コルステアくんには何故か不機嫌そうにそっぽを向かれました。

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